はじめましての距離

無月弟

前編

 小学校の休み時間。チャイムが鳴るなりグラウンドに出てサッカーをする男子もいれば、おしゃべりに花を咲かせる女子もいる。


 そんな中、自分の席で静かに本を読んでいる女子が一人。

 真っ直ぐに伸ばしたストレートの黒髪に、可愛いわけでもない地味な顔。声をかけられることもなければ、自分からかけにいくこともなくて、いてもいなくてもどうでもいい存在。それがわたしだ。


 転校してきたばかりの頃は、ちょっとは違ったんだけどね。最初はみんな、転校生のわたしを珍しがりながら、声をかけてきていたっけ。


 田舎町にある小学校の三年一組に転校してきてから、早一ヶ月。

 振り返ってみたら、最初にこのクラスにやって来て「はじめまして」ってあいさつをした時が、みんなとの距離が一番近かった気がする。

 だけどだんだんとその距離は開いていって、今ではすっかり孤立してしまっていた。

 わたしが変な子だって、みんなに知られてしまったから。


「なあ、首無し地蔵って知ってるか?」


 本に書かれた文字を目で追っていると、不意に男子の声が耳に飛び込んできた。と言っても、わたしが声をかけられたわけじゃないたまたま話し声が、聞こえてきただけ。

 かすかに目を向けると、教室の真ん中で数人の男子が集まっていた。


「なんだよ、首無し地蔵って?」

「一丁目にある、首の無いお地蔵さんだよ。近くでよく事故が起きたり、触った人が次々にケガや病気をする、呪われたお地蔵さんなんだってさ。あと、幽霊が出るっても聞いたぜ」

「ははは、ウソくせー」


 うさん臭い噂なんて全く信じていなさそうだけど、それでも楽しそうにはしゃいでいる。

 男子ってどうして、そういう話が好きなんだろう。もしかしたら、笑い事じゃすまされないかもしれないのに。

 呪いとか幽霊とか。そう言ったモノが確かに存在すると言うことを、わたしはよく知っているもの。


 だけど友達同士で楽しく話す男子たちを、ちょっぴり羨ましく思う。

 だからこうしてつい、聞き耳を立ててしまっていたのだけど。話をしていた中の一人が、こんなことを言い出した。


「なあ、呪いが本当かどうか、俺たちで確かめてみようぜ」

「お、いいなそれ」


 え、本気? 

 それは止めておいた方がいいんじゃないかな。もしも本当に危険なものだったらどうするの。


 他人事とはいえ、ハラハラしちゃう。

 どうしよう、止めた方がいいよって注意した方が良いのかな。だけどいきなり話しかけたら、変に思われちゃうかも……。


「おい、転校生」

「ひゃう!?」


 本で顔を隠しながらもんもんと悩んでいたけど、急に話しかけられたから変な声が出てしまった。

 慌てて顔を上げると、そこには首無し地蔵の話をしていた男子の顔があった。


「なあ、俺たち今日の放課後、首無し地蔵ってのを調べに行くんだけど、お前も来ないか?」

「えっ?」


 話しかけてきた男子は、たしかケンタくんだったかな。

 わたしの心中なんて知らない彼はニタニタと、まるで面白いイタズラを考えたような笑みを浮かべている。


「お前、こういうの好きだろ。幽霊が見えるって、いつも言ってるもんな」

「——っ!」


 別に好きなわけじゃない。けど、幽霊が見えるというのは本当。

 自分でも理由はわからないけど、何故か昔から幽霊とか妖怪とか、普通の人には見えないモノが見えてしまっているの。


 だけどそれは、あまり良いことじゃない。だってわたしがクラスで孤立してしまっているのは、それが原因だもの。

 幽霊と話をしている所を、クラスの子に見られたことがあった。また、危険な悪霊を見かけたから「そっちに行っちゃダメ」なんて注意した事もあったっけ。

 だけどそれらの姿を見る事の出来ないみんなは、わたしの言っていることを理解してくれなくて。変なやつだってレッテルをはられるまで、そう時間は掛からなかった。


 今回誘ってきたケンタくんだって、仲が良いから声をかけて来たわけじゃない。

 彼は薄笑いを浮かべながら、黙っているわたしを見下すような目で見ている。すると他の男子も、徐々に集まってきた。


「止めとけよケンタ。幽霊が見えるなんて、どうせウソなんだから」

「う、ウソじゃないもん!」

「だったら一緒に行って、見えるって証明して見せろよ」


 意地の悪い目でにらまれて、ビクッと身を縮ませる。


「い、嫌だよ。そんな怖い所、行きたくないもの」

「そんなこと言って、本当は幽霊が見えるなんてウソだってバレるのが、怖いんじゃないのか」

「ち、違うっ」


 見えるのは本当。断じてウソじゃない。

 だけどケンタくんたちはそんなわたしの言葉なんて聞いてくれずに、ウソつきウソつきとはやしたてる。


「本当に見えるんなら、証拠を見せろよ」

「できないって言うなら、お前はウソつきだ!」


 本当なのに……。


 見ると教室にいた何人かがわたしたちに気づいて、こっちに視線を向けている。

 どうしよう。ここで断ったら、本当にウソつきにされちゃう。元々クラスに馴染めていないのに、その上ウソつきなんてレッテルをはられてちゃったら、いよいよ居場所がなくなっちゃう。


 悔しさと惨めさで胸が張り裂けそうになったけど、溢れそうな思いを飲み込んで、どうにか泣くのを我慢する。


「……わかった。わたしも行く」


 本当は嫌だったけど、他に選択肢なんて無かった。

 そんなしぶしぶ答えたわたしとは違って、ケンタくんたちは新しいオモチャでも手にしたみたいに、はしゃぎ声を上げる。


「おいおい、本当に行くのかよ」

「もし本当に幽霊が出たり呪いがあるって言うんなら、その時は教えてくれよな。ははははっ」


 もう何とでも言ってよ。

 ケンタくんたちのからかいの声を右から左に受け流しながら、ため息をついた。


 首無し地蔵かあ。怖そうなお地蔵様だけど、本当に大丈夫かなあ。噂なんてウソで、何も起きずに終わってくれればいいけど。

 だけどなんだか嫌な予感が、言葉にできない不安が、胸の中でぐるぐると渦を巻くのだった。

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