第7話

 腹が減る。

 腹が減る。満たされない。何を食べても。

 仕事など手につかない。周りの人間が自分を見る目もどこかおかしい。だが、そんなこともうどうでもいい。

 匂いがする……。

 そこに行かなければ。

 とても美味しそうな匂いがする。

 それを食べなければ。 

 

「まぁ、結局そうなっちゃうよね」

 街中にある喫茶店の中、一人で珈琲を飲みながらつぶやく。あいにく、その味はいまいちだったが。

 女一人で座ってたりしたら寂しい女だと思われるだろうか。平日の昼間とはいえ、オフィス街だと結構客は多い。

 窓際の席に座り、たいしておいしくもないケーキと一緒に珈琲を飲む。目的は道路の向かいの会社にある。

 あの平凡なサラリーマン……、いや、昨日まで平凡だったサラリーマンが、時間が経つにつれ狂気を孕んでいくのを見ていた。

「はあ、ほんと失敗だったなぁ。最近の女子高生も結構根性あるもんだよねぇ」

 独り言が多くなる。ああ、本当に大失敗。

 せっかく、あんなとびっきりの女の子を見つけたのに、こんなにつまらない男を見張らなきゃなんて!

「だけどまぁ、ほっとくわけにもいかないしなぁ。さっさと彼女のところに向かってくれたらいいのに。日本人って無駄に勤勉でいやになるわ」

 でも、そろそろ限界だろう。

 まわりの人間も気遣ってか、不気味がってか、早く帰るよう促しているようだった。

 いろいろな意味で、平凡な会社員なのだろう。

 ようやく折れたのか、食欲が勝ったのか、会社からフラフラと男が出てきた。

「やっとか。あ、店員さーん、おかいけー」

 伝票をひらひらさせながらレジに向かう。

 味のわりに高いなーと思いつつ会計を済ませ、男の後をつけた。

 赤髪の外国人が目立たないようにストーキングできるわけもないが、男の方もそれどころではないし、まぁバレることはないだろう。

 ああ、またあの子に会えるのが待ち遠しい。

 息荒く昼下がりを歩く男と、キラキラした目でその男を尾行する赤髪の女。

 目立っているというレベルではなかったが、通報はされなかった。

 現代人は無関心でよろしいと思う。

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