三章 審判 其の弐

「ペトゥロ、お前は一体、何がしたい?」

 ジュダの思いがけない言葉にペトゥロは少し残念そうな表情を浮かべるもののすぐに口を開いた。


「そうだね。僕がやりたい事は至ってシンプルな事だ。根源の力を使って「審判」による人類の進化をより完璧な物へと仕上げたい。それには先ず、世界樹(ユグドラ)の根源を僕が生み出した、この生命武器に移植したい。」

 そう言うと彼は二つの指輪をポケットから取り出した。


「ペトゥロ、これから俺はお前がやろうとする事にもう口を出さない。お前が決めた道を俺は何も言わずに着いていく事にする。だけど、これだけ聞かせてくれ。なんで、よりによって俺なんだ?他の奴らじゃなくて俺じゃなければいけない理由でもあるのか?」

 ジュダはペトゥロに対して最後の疑問を投げつけた。彼はこれだけを聞ければもうこの後はどう利用されようとも構わないそう考えていた。


「君じゃなきゃいけない理由か。そうだね、それは」その答えを遮る様にデバイスの着信音が鳴り響いた。


「ペトゥロ様、緊急事態です。「星の塔」及びに皆様のいらっしゃる施設に政府が何かに勘付き刺客を向かわせております。何処にいらっしゃるかは存じませんが至急お戻りになって下さい。」

 電話の主はペトゥロの執事であるダルタニャンであった。ペトゥロはすぐさま「わかった。」と言うと電話を切った。


「ジュダ、時間が無くなった。政府に僕達の動きがバレたらしい。さっきの答えは後にして、指輪をはめてくれないかい?」ペトゥロはそう言うと白い指輪をジュダの目の前に差し出した。

「俺にはめてどうしろって言うだ?」

「世界樹(ユグドラ)は星の根源の一部って言ったよね。これを一つの器に収めるのは不可能だったんだ。持ち運びを可能とするには根源を二つに分け、二つの生命武器に埋め込む必要があった。だから、僕がここで知った叡智を参考にして作った生命武器<神羅>と<万象>、これに星の根源を込める。

ジュダ、今から君は僕と一緒に根源を引き出し、神と祭られた者達への一歩を踏み出して貰う。」


ジュダは間接的に人を辞める事を告げられた様に思った。しかし、未来を見据えるペトゥロを見るとその鬱屈な考えをしている自分が醜く感じると彼の望みに自ら踏み込むために声を出した。


「ペトゥロ、かつて、お前と俺が交わした言葉覚えているか?」

「君に初めて会った時のかい?えーとたしか、

共に人類を救わないか、だっけ?」

「契約成立だ。それと上の奴らにお前が話せると思う部分だけでいいからこの事を説明してやってくれないか?」

 ジュダの言葉にペトゥロは躊躇ったが少しして

「分かった。」と返事をするとジュダに指輪を渡し再び口を開いた。


「それじゃあ、行くよ、ジュダ。準備は良いかい?」

「ああ、覚悟は出来てる。」

 その一言を契機に地下の部屋から星の根源が解き放たれる。









 ペトゥロの執事であるダルタニャンからの連絡により、ペトゥロとジュダ以外の十一人は円卓のある部屋で待機をしていた。


「こんなタイミングでバレるとはね。しかも、ペトゥロとジュダは行方不明。この状況どうするべきか。」白い髪を靡かせたか青い瞳の女の声には怒りが滲み出ていた。

「落ち着けってマリア。リーダーが不在ってなると俺達でどうにかするしかないだろ。おい、イアンコフ昔みたいに暴れれるか?」

「十年近く前ならやっても良かったが今回は明らかに質も量も違うだろ。戸松、お前の冗談も少しつまらなくなったな。」そう言うと十三人の中で一番ガタイの良いイアンコフはポケットの中にあるタバコを取ると火を着けてふかした。

「こんな時にタバコとは君もつくづく阿呆だね。それはそうと一本欲しいな。私もニコチン不足を否めないのでね。」

「紫門、自分の言ってる事破茶滅茶なのに気付いているか?はぁ、一本だけだぞ。」そう言うと箱の中から一本を紫色の髪をした眼鏡をかけた小動物に手渡した。紫門と呼ばれた小動物の様な見た目の彼女はそれを受け取るとイアンコフの咥えていたタバコにくっ付けて火を着けた。

「君達、ここは僕達が整備を整えているから菌が入ってこないのであって外でそんな事をやると全員から白い目で見られるか最悪刺されるぞ。」

「それはこいつが勝手にやってるんだ。俺だって本当はこの貴重なタバコを一本だってやりたくねえよ。それにしてもヨハン、いつも以上に機嫌が悪いな。何か悪いもんでも食ったのか?」

「逆に君は今の状況でどうして楽観的に入れられるんだい?僕にはそれが分からないよ。」


 ヨハンと呼ばれた男はパソコンに映る映像を彼らに見せた。そこには彼らが建てた「星の塔」の周りに多くの軍人が囲んでおり、彼らが地下に出入りする施設のビルも同じ様な状況になっていた。


「上は完全に占拠されてる。こうなったら地下もああなるのは時間の問題だ。「革命の円卓」の鍵はまだ出来てない。尚且つ、あれは上の施設で作っている物だ。誰かが取りに行って犠牲になっても詰み。取りにいかなくても詰み。楽観視できる状況じゃないんだよ。」ヨハネは行き場の無い怒りをぶつけると灰色の髪をボサボサと掻きながら立ち上がった。


「僕は今から自分の身を彼らに投降することにするよ。」

 「待って、ヨハン。あなたの勝手な判断でみんなを巻き込まないで。」

 マリアが彼を呼び止めるも彼は彼女を睨みつけその場の空気は一気にピリついてしまった。すると、本棚が急に開き、その中から二人の影が伸びていた。


「ごめん、みんな。遅くなっちゃった。」

 ペトゥロとジュダが門から姿を現すと、彼らのピリついた空気はほんの少しばかり和らいだ。

 しかし、状況が良くなったかと言うとその様なことは無くヨハンは再び彼らに向かって言葉を放った。


「君達が生きていた事はいい事だ。でも、状況が変わった訳じゃ無い。今も軍隊は僕らの首を狙って外で待っているんだ。君達が来たところで何も、いや、何かが変わる訳」

「変わる変わらないなんて関係無い。俺とペトゥロならこの状況をひっくり返せる。だがら、俺とペトゥロを信じて、この階段を降りてくれ。全部片付いたらペトゥロがお前達に伝えてくれる。」


 ジュダはヨハンの言葉を自分の言葉で遮り、彼らを地下の部屋へと誘導しようとした。

 しかし、彼らはジュダの言葉にあまり耳を傾けず、その場に立ち往生していた。ペトゥロはそれを見て、彼らを動かすために声を上げる。


「僕達はこれから何をするのか思い出して欲しい。僕達は早かれ遅かれこうなっていたんだ。君達だってそれくらいの覚悟は出来ていたろう?ここにはまだ彼らは入って来れない。ならば、僕達に出来る事は円卓の死守と十三人の生存だ。幸い、円卓は今の軍が持つ兵器では破壊できないくらいの代物だ。ならば、今僕達に求められる物は何だと思う?それは僕達の命だ。円卓を起動するには僕達十三人でなければならない。誰一人欠けることは許されないんだ。」


 彼らはその一言を聞くと皆何かを覚悟した様で何も言わずに地下へと降り始めた。そして、最後に降りようとしたイアンコフが二人に声をかけた。


「死ぬなよ、絶対に。」


 その一言を最後に門は本棚へと姿を変えると彼らの存在を地下へと消した。


「死ぬなよ、だってジュダ。」

 ペトゥロはそう言いながら自分のカバンからスーツの様なものを取り出した。

「何だ、これは?」

「君と僕の死装束さ。まぁ、冗談はさておき、これは生命武器の出力に耐え切れる様に設計した特殊衣服さ。この黒いのが君ので、白いのが僕。早速着てみてよ。」

 ペトゥロがニコニコした顔で渡す為、ジュダは渋々それを受け取るとそれに着替えた。


 彼らの着たスーツには軍服の様な装飾が施されており、黒いスーツには右の肩に、白いスーツには左の肩に、それぞれ短いマントの様なモノがついていた。

「なんか恥ずかしいなコレ。」

 ペトゥロは普段からあまり着ない服装にそわそわしていると、それを眺めたペトゥロは少し嬉しそうにしていた。



「似合ってるよ、ジュダ。これから先はもしかしたら僕達は命を落とすかもしれないそれなら服ぐらい良い物にしようと思ってね。まぁ、それについては生きていたらこの後にでも語ろう。

ジュダ、準備はいいかい?」

「ああ、出来てるよ。」


 彼らは二人で歩を合わせ、自ら地獄の門に手を当て、そして、その門を開いた。





「隊長、こんな所にこんだけの人を投下するなんて上は狂ってるんですか?ただでさえ、主要都市の内部崩壊が酷いって言うのに、たった十三人を捕らえるために戦車まで出しちゃって。折角立てた国連軍が台無しじゃありませんか?」

 黒いマスクに顔を覆った軍人はとあるビルを包囲していた。すると、隊長と呼ばれた男は彼に喝を入れた。


「そんなことは俺も思ってるよ。俺だってこんな所にいたくなんか無い。速く帰って、短い余生を嫁と過ごしたいんだよ。だが、その為にはこいつらをパッパと捕まえなきゃならない。だから、気張れよ、アシモフ。」

「ウッス!自分も彼女に会う為に少し気合い入れ直します!」

 そんな事を言い合っているとビルの門から二人の男が歩いて来た。


 

「隊長、あれは今回の騒動の主犯のペトゥロとジュダですよ。自首しにでも来たんですかね?」

「馬鹿言え、あの妙竹林な格好を見てお前はそんな事言うのか?何かとんでもない兵器でも隠してる筈だ。」

 

 すると、門から出て来たペトゥロが声を上げた。

「皆さん、ここから立ち去れば自分達はあなた方に何も手をあげません。」

 

「何言ってんだ?あいつ。隊長もうやっちゃいましょうよ。」

「落ち着け。上からの連絡を」

 そう言う手前に他の兵が彼の近くによると何かを耳に告げた。

「アシモフ、準備だ。何も言わず奴らを射殺しろとよ。」

「うちのお上は物騒ですね。まぁ、それのが速く終わりますしやっちゃいましょう。」

 アシモフはマガジンを片手に取ると彼らを撃ち抜く準備を始めた。


「ペトゥロ・アポカリプス、ジュダ・ダイナー。君達は世界に対して身勝手な救済とやらを行おうとしため射殺が許可された。こんな世の中なのに一人一人の身勝手な行動は避けて欲しかったよ。それでは人類の明日のために死んでくれ。」

 その一言により銃弾は彼ら目掛けて無慈悲に容赦無く飛んでいった。


 放たれた凶弾を目の前にして、彼らは互いに声を合わせ、体に流れる血を代償に星の力を開放する。

 

「生命開放(オープン)、神羅(シンラ)」

「生命開放(オープン)、万象(バンショウ)」


 

 

 

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