鳶と鴉
川内永人
プロローグ
各駅停車しか停まらない駅から車で15分。徒歩なら25分。そんな郊外にブライトスクエアはあった。
とうの昔に廃業した工場と、そこに勤める人々が住む長屋がぎっしり詰まっていたらしい。
その土地は今や工場部分が綺麗な更地になっている。そう言う仕事を見ると俺は、人間は壊す方が向いているんだろうなと思う。
誰も勤めず、誰も住まなくなってしばらく。地公体が買い上げて競売にかけた。競売と言っても、はなから決まりきった勝負さ。デカいパワービルダー3社が100区画づつ買い上げた。
あれよあれよと言う間に更地になってしまった。すでにいくつかの区画で家が建ちはじめている。
現場の建築業者達は、工期に少しの遅れも出してたまるかって、そんな声が聞こえてくるような働きぶりだった。
そんな姿を横目に、俺はせいぜい10区画そこらの細やかな現場でダラダラ仕事をしていた。
いやいや、10区画でも上出来なんだ。地場の業者の尺に触らないようにって言うお偉方からの気遣いさ。地元でずっと税金納めてるのに、全くおこぼれなしじゃ色々と不味いだろう?
ブライトスクエアとほとんど同じ場所に、5から10区画の現場が4つあった。そのうちの一つが俺の仕事場さ。
仕事場と言っても別に思い入れはないよ。俺達みたいな雇われ建築業者からしたらな。雇い主の言った通りのモデルハウス一件建てたらとっととさよならさ。
鳶職に付いたのは、これしか出来そうな事が無かったからってのが一つ。馬鹿でもなれると思ったのが一つ。あとはまぁ地縁とでも言うんだろうな。高校出てすぐに知り合いの(親のだが)つてを頼りに仕事を得た。
別に早く働きたかったとかじゃないんだ。ただなんというか、卒業して何もしてないって言うのは迷惑かなと思って。
親も別に反対はしなかった。もともと反対するような親じゃなかったさ。金さえかけない限りはな。
そうやって就いた仕事だけど、わりかし気に入ってるんだ。その気になったら死ねるし、上手くやれば金も出るらしい。すごく気楽だよ。これが天職って言うんだろうな。
そんなだから、俺がカズキと始めて会った時は妙な感覚だったよ。あれが好奇心とかって言うのかな。小汚ねぇ毛布にくるまってゴミ漁ってるんだよ。12そこらの子供がさ。
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