第10話 日本語文法(10):主題と解説、コトとムード

 以前「は」は主題を指す助詞だと述べました。

 そして、主題について解説(説明)するのが述語で構成される文要素ということになります。





解説とコト

 格助詞によって作られた文を用意します。


「父が自転車で幼稚園に子どもを預ける。」

 学校文法ではこの文の主語は「父が」であり、述語は「預ける」です。

 ではこれを次のように変えます。


「父は自転車で幼稚園に子どもを預ける。」

 格助詞「が」が助詞「は」に置き換わったのみです。

 ではこの文の主語はなんでしょうか。述語は「預ける」ですよね。


 多くの方は「父は」は「父が」となにが違うのか、という反応をするでしょう。

 だから、主語は「父は」だと答えるはずです。

 しかし、「父は」は主題を表す助詞「は」なので、主語ではなく「主題」です。

 そして主題を「解説」するのが残りの文要素ということになります。


 つまり「父は」=「自転車で幼稚園に子どもを預けた。」と解説するわけです。

 では「父が」となにが違うのか、とお思いでしょう。

 以前「述語」以外で格助詞は対等の関係にある、と述べました。

 つまり「預けた」のが「父」であるわけです。

 助詞「は」だと「自転車で幼稚園に子どもを預けた。」のが「父」なのです。

 係り受けしている対象の範囲がまったく異なります。


 「預けた」は「述語」です。

 では「自転車で幼稚園に子どもを預けた」はなんと呼ぶのでしょうか。

 「解説」です。

 原文の「父が自転車で幼稚園に子どもを預ける。」は述語と格助詞だけで構成されており、これを日本語文法では「コト」「命題」「言表事態」「叙述内容」と呼びます。つまり「解説」は「コト」のだいたいが含まれます。





ムード

 では問題です。

「象は鼻が長い」の主語、述語、主題、解説はなんでしょうか。


 答えは、

「鼻が」が主語、「長い」が述語、「象は」が主題、「鼻が長い」が解説ですね。


 「象」についていえば「鼻が長い」となりますが、より自然な文にするなら、

「象は鼻が長い動物だ。」

 この場合「象は」+「動物だ」と「鼻が長い」のふたつの文がくっついていることがわかります。

 「鼻が長い」は主語が「象が」で述語が「長い」ですが、これは「コト」です。

 それに対して「象は」+「動物だ」の機能を「ムード」「モダニティ」「言表態度」「陳述」などと呼びます。

 「コト」は客観的事実のみで構成されるのに対し、「ムードは」話者の主観が入った感情的な要素といえます。


 たとえば

(1)「父は自転車で幼稚園に子どもを預けたらしい。」

(2)「父は自転車で幼稚園に子どもを預けたと思う。」

(3)「父は自転車で幼稚園に子どもを預けたと聞いた。」

 のような場合、コトは「自転車で幼稚園に子どもを預けた」、ムードは(1)が「父は〜らしい」、(2)が「父は〜と思う」、(3)が「父は〜と聞いた」です。こういった主観が入り込んでいる部分がムードなのです。

 助詞「は」は主題を表し、だからこそムードとしても機能します。

 ですが、「文末にムードがない」場合は「主題」としてしか機能しません。





主題としての助詞「は」

(4)「父が自転車で幼稚園に子どもを預けた。」

 この文で「父が」を主題にすると次のようになります。

(4-1)「父は、自転車で幼稚園に子どもを預けた。」

 「自転車で」を主題にすると次のようになります。

(4-2)「自転車では、父が幼稚園に子どもを預けた。」

 「幼稚園に」を主題にすると次のようになります。

(4-3)「幼稚園には、父が自転車で子どもを預けた。」

 「子どもを」を主題にすると次のようになります。

(4-4)「子どもは、父が自転車で幼稚園に預けた。」


 ここで助詞「は」「では」「には」が用いられていますよね。このうち「では」「には」は助詞「は」「で」「に」との重複とはカウントしません。あくまでも「では」「には」という助詞として機能します。


 他にも、格助詞は5つありますので、それらを使った「主題」化を見てみましょう。

(5)「姉が弟といつもケンカしている。」

 なら、

(5-5)「弟とは、姉がいつもケンカしている。」

(6)「私が電車で東京から新大阪まで三時間乗車した。」

(6-6)「東京からは、私が電車で新大阪まで三時間乗車した。」

(6-7)「新大阪までは、私が電車で東京から三時間乗車した。」

(7)「いとこが横浜港へ迎えに行った。」

(7-8)「横浜港へは、いとこが迎えに行った。」

(8)「弟より兄のほうが年上だ。」

(8-9)「弟よりは、兄のほうが年上だ。」


 ここで出てきた助詞「とは」「からは」「までは」「へは」「よりは」はいずれも別個の助詞として扱います。「とは」と「は」があると「主題」がふたつになるのですが、助詞「は」はとくに「主題」として機能し、「とは」「へは」などはコトの要素を小さな主題として扱いますので、最上位の「は」の機能を制限しないためにそのような区分けとなっています。





日本語学習で憶えたいポイント

(1)助詞「は」は述語に直接付く主語ではなく、それ以外で解説される主題

(2)助詞「は」を除いた客観的な文は「コト」

(3)助詞「は」と文末に付け加える用言は合わせて「ムード」

(4)助詞「は」はコトの中からひとつの文節を取り出して、主題化したものでもある




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