第5話 日本語文法(5):助詞「は」「が」「も」「の」

 多くの方はご存じでしょう。

 助詞「は」は文章全体の主題を決める助詞。

 助詞「が」は用言の主語を決める助詞。

 助詞「も」は用言に追加するものを示す助詞。

 助詞「の」は所属や所有などを示す助詞。


 これからいくつか例を挙げます。





助詞「は」

 三人でラーメン店に来ているとします。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「私は味噌ラーメン」

「俺はとんこつラーメン」

「僕は担々麺」

△△△△△△△△△△△△

 使われている助詞は「は」だけです。

 これ、もし助詞「は」に用言の主語を決める役割だったとしたら、「私、味噌ラーメン人間」「俺、とんこつラーメン人間」「僕、担々麺人間」ということになってしまいます。


 助詞「は」の機能は他にいくつか候補がある中で、「この文の主題(自分)であればなにを選択するのか」を表す範囲を限定する助詞といえます。

 つまり「多くの選択肢の中から、助詞「は」のものに限ると」という意味合いがあります。

 また助詞「は」は用言につなぐ助詞であるため、本来なら体言止めでは使えません。必ず語尾に用言を要求します。今回の例では「私は味噌ラーメンだ」「私は味噌ラーメンを注文します」のように助動詞「だ」や動詞「注文します」のような用言を要求するのです。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「(三人の中で)私は味噌ラーメン(を注文します)」

「(三人の中で)俺はとんこつラーメン(を注文します)」

「(三人の中で)僕は担々麺(を注文します)」

△△△△△△△△△△△△

 というように、他は知らないけど自分ならどれを選ぶか、を指し示すのかを決めるのが助詞「は」の役割です。


 すでに発話者がわかっている場合は、あえて助詞「は」ととらないことが多いです。

 たとえば冒頭では。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「いらっしゃい、なにになさいますか」

「味噌ラーメン」

「とんこつラーメン」

「担々麺」

△△△△△△△△△△△△

 と書いても間違いではありません。ただ、小説として書く場合、リアルに寄せて書いたのでは誰がなにを頼んだのか、さっぱりわかりません。

 会話文で解決するなら「私は」「俺は」「僕は」を付けたほうが断然よいです。

 ですが、

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「いらっしゃい、なにになさいますか」

 店主の威勢のよいかけ声が聞こえた。

「味噌ラーメン」

 真理はメニューを見るとこもなかった。

 明はメニューをさっと眺める。

「とんこつラーメン」

 有洋はふたりが頼んだものをメニューで確認してから頼むものを決めた。

「担々麺」

 三人は注文を終えると、数分で三杯のラーメンが運ばれてきた。

△△△△△△△△△△△△

 と書けば会話文には助詞「は」は要りませんが、地の文では誰の注文かわかるようになっていますよね。

 会話文だけでわからせるなら「私は味噌ラーメン」と書き、リアリティを追求すると「味噌ラーメン」だけを書きます。もちろん誰が頼んだのかをはっきりさせるために地の文を工夫しなければなりません。





助詞「が」

 助詞「が」は用言に対する主語を示すとされています。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「私は君が好きだ」

 「僕は君が好きな人を知っている」

△△△△△△△△△△△△

 「私は君が好きだ」は、「私は」は「他の人がどうかは知らないが、私に限定した」ときの答えに「君が好きだ」という文章がセットされます。

 「好きだ」は形容動詞「好きな」の終止形ですので用言です。その「好きだ」の対象範囲として「君が」をとったパターンになります。

 助詞「は」で「他の人がどうかは知らないが、私であれば」です。

 助詞「が」は用言の対象範囲を示して「好き」なのは「君」であることがわかります。


 「僕は君が好きな人を知っている」は「他の人はどうかは知らないが、僕に限定した」わけですが、「知っている」は助詞「は」の「僕は」が係り受けする用言になります。

 そして「君が好きな人」はふたとおりの解釈ができます。

 1.「君自身が好きな相手の人」

 2.「君のことを好きな人」

 この2.の誤解を解決したいところです。

 この場合の解決策として「僕は君を好きな人を知っている」と書けなくはないのですが、一文に並列以外で同じ助詞を使うと陳腐に見えるため、「僕は君のことが好きな人を知っている」を選びます。「君が好きな人」ではなく「君のことが好きな人」と書くことで誤解の少ない文が構築できます。

 ただ、わかりづらいので、この文型はあまり用いないほうがよいでしょう。

 1.君が好きな人を僕は知っている。

 2.君のことが好きな人を僕は知っている。

 と文節を入れ替えればそれだけでわかりやすさは変わってきます。

 1をいうか、2をいうか。

 これをきちんと書き分けられれば助詞を操る初歩となります。





助詞「も」

 助詞「も」は用言に係り受けして追加を意味します。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「(私は)、牛丼並盛り」

 「僕も」

△△△△△△△△△△△△

 これだけで「僕も、牛丼並盛り(を注文します)」という文になります。

 英語の「me too」ですね。

 助詞「も」は助詞「は」「が」と置き換えられますが、その場合も「追加」を意味します。

「私も味噌ラーメン」

 は、誰かが味噌ラーメンを選んだので「自分はそれに乗ります」という「追加」ですよね。


 では「私は君が好きだ」はどうでしょうか。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

「私も君が好きだ」は誰かに追加で「自分をその人に含めてともに君が好きだ」という意味合いです。

「私は君も好きだ」は「私に限ると、他の人と同様君が好きな対象に含まれる」という意味合いになります。

「私も君も好きだ」となるともはやカオスで、「私以外と同様、他の人と同様に君が好きだ」という意味合いになります。

△△△△△△△△△△△△

 助詞「も」が重複すると、意味合いがとりづらくなりますよね。

 だから助詞の重複は避けるべき、というわけです。





助詞「の」

 文の中で「他は知らないが指示するものを選択した」のが助詞「は」。「用言の対象範囲を絞る」のが助詞「が」。「追加」するのが助詞「も」です。

 ではなぜ所属・所有の助詞「の」をこんなところで説明するのか。

 それは所属・所有の意を含んだ助詞「が」は一部ですが助詞「の」に置き換えられる場合があるからです。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「私は君が好きだ」の使い方では置き換えられません。

 「私は君の好きだ」では通じませんからね。

 「僕は君が好きな人を知っている」なら置き換えられます。

 「僕は君の好きな人を知っている」と置き換えられますよね。

△△△△△△△△△△△△

 これは「君が好きな」という単文が「人」という体言に付くときは、君の中で決めている「好きな人」のことになるので所属・所有の意味合いが出てきます。

 とくに体言が出てきて複文構造になったときは助詞「の」に置き換える場面が出てきます。

 単文・重文ではおかしなことになりやすい。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 「花が咲く」と「花の咲く」明確な違いは、

 「花が咲く」は主語と用言の文です。

 「花の咲く」は体言を所属・所有の助詞で本来なら「花の咲く季節」のように体言で受ける必要があります。

 「僕は君の好きな人を知っている」は「君」が体言である「人」に係り受けするから成立するのです。またこの「君の好きな人」は「君が所属・所有する好きな人」という助詞「の」の一般的な機能にも適っています。

△△△△△△△△△△△△

 助詞「が」は用言に係り受けし、助詞「の」は体言に係り受けします。

 つまりなんでもかんでも助詞「が」の重複を避けるために助詞「の」が使えるわけではないのです。

 ここを押さえないと、助詞「の」がおかしな使い方になってしまいます。





日本語学習で憶えたいポイント

(1)「は」「が」「も」「の」いずれも文の指し示す範囲を限定するために用いる、とくに重要な「主語」格の助詞です。

(2)正しく使い分けなければ文章が怪しくなります。

(3)中でも助詞「の」の使い方が難しく、正しく使うためには係り受けするのが体言か、所属・所有の機能を有しているかをチェックしなければなりません。




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