酷い男ね、と私は思った

@igutihiromasa

彼の妹が羨ましかった。

彼の妹が羨ましかった。

既に成人しているにも関わらず、彼にあれこれ面倒を見て貰えるから。手ずから彼に髪を梳ってもらえるし、甘えたい時には膝に頭を載せる暴挙も許してもらえる。だから私は彼に言った。

「いつか私を、あんたの妹にしてくれる?」

「……!!!」

言われることが予想外だったのだろう。彼は飲んでいた水を吹き出してしまった。

「い……い、妹!?」

ええそうよ。そんな意味を込めて私は頷く。彼は困ったように考えてから、代替案を出してきた。

「お嫁さん、じゃあダメか」

「オヨメサン? なぁに、それ」

「あ、えーと……結婚する相手、で……いやでも、こいつ結婚って言葉もわかんないか……? どう説明すればいいのか……畜生」

私の疑問に彼はたくさん考え込みながら答えてくれる。それは嬉しいことだけど、私の方を見なくなったことは不愉快だわ。遺憾の意を表明するため、私は彼の膝に頭を擦り付ける。ぐぅぅ、と彼の喉が鳴る。

ぐりぐりと彼の太腿を攻撃していると、後ろからひょいと身体を持ち上げられて。邪魔しちゃ嫌よと振り向けば、憎たらしい彼の妹がいる。

「兄さん、また──を部屋に持ち込みましたね? もう彼女はあなたの幼なじみの〇〇ちゃんでは無いし、兄さんはそれをわかった上で、このキンダーガーデンの園長になったはずですが! ──だけを特別扱いしては審議会が黙っていませんし、他の××にも不公平感をもたらしますよ? ××部隊に無用の不和を生じさせるこの、──を処分しようと審議会が結論付けたらどうします!」

妹の言葉はところどころ、ノイズが入って聞き取れない。前に妹が言っていたことだけど、私たちの精神を安定させるため、特定の単語は耳に入れないようになっているらしい。どんな仕組みか分からないけど。耳に入った部分だって理解できない単語ばかりで興味無い。私は彼の関心を取り戻すために、彼の服の袖を引っ張る。ぴぴぴ、ガガガと喉を鳴らして。

しかし、彼はこうなるともう妹の言うことに夢中になってしまう。私を押しやり、妹に向かう。

「……分かったよ。気をつける。ほら──。早く帰りなさい」

優しい彼の目を隠すように、妹が割り込んで彼の頭を抱き寄せる。私より大きな妹の背丈は、椅子に座った彼の頭をその豊かな胸に抱き寄せるのにぴったりな高さ。私じゃ割り込めない、背が足りない。

「可哀想な兄さん。幼い頃に行き別れた初恋の人が、再会したら人造兵器になっていたなんて」

「分かっているからいちいち言うな」

「自分は大人になったのに、彼女はもうこれ以上成長できないから、平和になっても連れ添えないなんて……」

「……黙れよ」

妹の胸に頭を沈めて、もう私のことなんか気にしていないみたい。私はダンダン、と地団駄を踏む。それでも振り向かないで妹に夢中だから、私は彼の妹になりたいと思ったのよ。

妹にさせてくれない癖に、目の前で妹といちゃついてるところを見せつけるなんて。

酷い男ね、と私は言った。

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