第27話 箱憑き

「それはポーションか解毒薬ですか?」


 私はシスリさんが口をつけている小瓶を指差す。だってその様子から混乱でもしているようにしか見えないし。


「あ、いやそれは……」

「やぁねリノちゃん。これはお酒よ。お・さ・け」

「(……)」


 街中でも堂々とお酒を飲み歩くのかこの人は……

 はこ丸も私もさすがに呆れた。そしてその表情からアルツさんに悟られたようでアルツさんが言いにくそうに口を開く。


「さっきのシスリは別に混乱とかしてた訳ではなくて、その……あれが素面でな」

「(!!?)」


 さっきの近所の噂好きのおばちゃん(?)みたいな口調が……素面!?


「そうなのよ。ひどいと思わない? お前は普段喋りすぎだから酒を飲んで少し大人しくなってろ。なんて言うんだから」


 あ、シスリさんの口調がいつもの調子に戻った。いや、こっちがいつもの調子ではないのか。ややこしい。


「私は普段喋らないアルツの分まで喋ってあげてるのにね」

「……頼んでない」


 まぁ、この二人はこれでいいコンビなのかな。お酒が常に必要なシスリさん……言葉だけだとアルコール依存症にも聞こえるけどね。


「ところで今日は市場に用事?」

「あ、いえ。市場はついででギルドに用があるんですよ」


 あ、そうだこの二人にダルーンの実の事聞いておこうかな。


「このアイテム見つけたんですけど、依頼が出てないと引き取って貰えないんですか?」

「あら、なぁに?」

「うぅぐぅぐぅ。ダルーンの実~」


 私は風呂敷に包んだダルーンの実をリュックから取り出して二人に見せた。


「あら可愛いうなり声……って、ダルーンの実!?」

「まさか?」

「記憶にあるのとは同じ気がするんですよね。ギルドに鑑定してもらおうかな、と」


 うなり声の部分は華麗にスルーさせてもらい、自分が来た経緯を伝える。


「だったら私達もご一緒していいかしら?」

「私は構いませんけどお二人の用事はないんですか?」


 私がそう言うとシスリさんは、


「……多分今日は収穫なさそうだしねぇ。アルツはどう?」

「まぁ同意見だ」

「……という事なのでよろしくね」


 と話をまとめた。

? 二人は目配せして頷きあっているが、用がないというのなら私に断る理由はない。三人でそのままギルドに向かう。


 ギルドではポメラさんが丁寧に対応してくれて、ダルーンの実と思われる物を渡すと鑑定に回してくれた。その結果はやはりダルーンの実で間違いないそうでポメラさんやシスリさん達に騒がれる。 


 でもこれ、本当に運がいいだけだからね。私は別に何もしてないんだから。


 そういう訳でダルーンの実はギルドにそのまま寄付をした。別にお礼が欲しいわけでもないし。そのかわりギルドに貢献してくれる冒険者には分けてあげて欲しいと伝えた。


 ……シスリさんがすごく物欲しそうな目で私を見ていたからね。私がギルドに条件を出したとたん、


「ありがとうリノちゃん! 私達に協力出来ることがあるなら喜んでするから!」


 と早速ポメラさんに申請を出していた。


 そしてハンソンさんにヨーダさんの事を伝えた私は……今こうして市場に来ている。


「元々は食材買うのが目的だったはずなのに……」


 なぜそれを忘れていたのか。


(リノなら今度は買うものを忘れそうだな)

「ふーんだ。メニューはこれから決めるんだから、その心配はいりませーん」


 私ははこ丸に突っ込みをいれ、食料品の見本がちょこんと置いてある台を見て回る。


「ご主人、これをいただくわ」

「へい、毎度ありがとうございます」


 主婦が台の見本を指差し、店の主人が希望の数量をアイテムボックスから出して主婦がそれを自分のアイテムボックスに収納しお金を渡す。

 

(ふふふ……まだ甘いわね)


 私はその買い物風景を見て思う。


(何がだ? リノ)


 私は幼少期、自身が体得した買い物のコツをはこ丸に聞かせる。


(あの見本はね、アイテムボックスを持たない子供なんかが家の手伝いで来るから少量だけ出してあるっていうのもあるんだけど)

(ふむ)


 大量に並べてアイテムボックスに万引きされる可能性を防ぐ目的もあるけど、今回の焦点はそこじゃない。


(見本っていうだけにその中に良いものが混じってる事も多いのよ。だから見本の中の良いものはキープしておくのが正解なの)

(あー……うん。そうか)


 ……はこ丸にこの感覚を理解するのは難しいようだ。あの男の子もお手伝いかな? 見本のいくつかを手にとって真剣に見ている。


(ほら、あの子なんてきっとかなりの目利き……え?)


 それは一瞬だった。

 変ね。今男の子の持っている見本商品が消えたような気がしたんだけど……


(あれ……まさか万引き?)


 でも商品を隠せるような服装はしていないのに。あ、また!? 私の目線ではこ丸も気付いたようだ。


(リノ、何が万引き……あれはまずいぞ!)

(何? あなたあの商品の味知ってるの?)

(味の事など言ってない。あれは万引きじゃないと言っている)


 ん? 万引きじゃないなら問題ないって事なのかしら。


「あれはおそらく『箱憑き』だ」


 え? 今はこ丸なんて言ったの? 私の知らない単語が聞こえた気がした。

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