17 - 皆中
カオスの潜伏先として候補に挙がった倉庫は、三箇所がそれぞれ離れた場所にあった。
近くまで二台の捜査車両で向かい、七名がその場から各々倉庫に向かう。
戦力を考慮して、圭とアリシア、藤と凛、山本は斗真と桜と共に行動する。
この場所にカオスがいる可能性が高い。全員がいつ出会しても対応できるように心構えが必要だ。
「ここか」
圭とアリシアは目的の倉庫前に到着した。
アリシアは扉のドアノブに手をかけて回そうとするが、鍵がかかっていて開かない。
「駄目ね」
「中の様子が見える場所を探そう」
ふたりは外壁に沿って倉庫の周りを歩きながら、窓がついていないか確認を進めていく。
斗真が言っていたことが真実であれば、大量の爆薬と巨大な車両がこの中にあるかもしれない。
裏に回ると外階段がついており、二階に上がれるようになっていた。二階に上がり、扉のドアノブを回すが、こちらも鍵がかかっている。
すぐそばについている窓は、すりガラスになっているため、中の様子を視認することはできなかった。
「中も見えそうにないわね」
「隣の倉庫に人がいたら、何か聞けるかもしれない」
「そうね、そうしましょう」
普段はアリシアの判断で行動を決定するが、最近圭は自ら進んで提案をし、それが的を射ていることが多い。
階段を下りて隣にある倉庫に向かうと、巨大なシャッターが開いており、作業着を着た男性が工業部品を箱に詰めて出荷作業をしていた。
「すみません」
アリシアが大きな声で話しかけると、近くにいるひとりの男性が近づいてくる。
「はい、何でしょう?」
「お忙しいところすみません。私はこういう者です」
そう言って、アリシアはFBIのロゴが入ったバッジを示す。
日本に住んでいれば、目にすることがないので、男性はよく目を凝らしても、怪訝な表情をした。
「警察です」
圭は言葉で補足をすると、男性は「ああ、刑事さん」と謎が解決したようだ。
「隣の倉庫について教えてほしいことがありまして・・・」
「隣ですか? もう随分長いこと空き倉庫ですよ」
「誰かが出入りしてたりすることは?」
「いやー、ないでしょう。夜中ならわかりませんけど」
この倉庫での作業時間は午前八時から午後八時までだと男性は言う。それ以外の早朝、もしくは夜中であれば、人に見られず人が出入りすることは可能だろう。
「他の方で何か知っていることがある方はいないでしょうか?」
アリシアが奥に目をやると、男性は大声で「誰か隣の倉庫に人が入っていったり見た人いる?」と問いかけ、その声は倉庫の中で反響する。
誰からも返事はなかった。
「ないみたいですね。不景気で前の企業が撤退してからは、放置されてるみたいですよ」
「わかりました。ありがとうございました」
アリシアと圭は頭を下げて倉庫を出る。収穫はゼロだ。
「ここじゃないのかな」
「報告するか」
圭は無線で他のメンバーに「こちらの倉庫ではなさそうだ」と報告する。
倉庫は鍵が開いていないこと、窓から中の様子が確認できないこと、隣の倉庫の人に話を聞いたが、人がいることは見たことがないこと。この三点を伝えた。
「了解、こちらも同じ状況だよ。とりあえず、藤くんと凛さんの報告次第だね」
斗真から返事が返ってきた。あちらも収穫は零らしい。
「こちらも鍵がかかってるわ。藤くんが階段を上がって窓を確認に行ってる」
このままでは三箇所とも外れ、斗真の推理は間違っていたことになる。今まで斗真の推理に外れはなかったが、彼もまた人間だ。常に完璧であることはありえない。
「とりあえず、一度捜査車両で集合しよう」
山本が作戦を練り直すために全員に集合を呼びかける。
「仕方ない。戻るか」
「そうね」
圭は落胆した。
この場所でカオスが見つかっていれば、本当にすべてが終わるはずだった。
その結果が自らの死であっても、ガルシアを捕まえた今なら、クロエとスティーブも暖かく迎えてくれるだはずだ。
圭は自らの手を見る。殺意が渦巻いているこの手では、もう麻衣の手を握ることはできそうにない。
この手が汚れているのは、カオスに命を狙われているからという理由だけではない。
これまでたくさんの人を傷つけた。ゾーイを探すために、相手が犯罪者とはいえ、警察官として許されない方法で情報を得てきた。
暖かい人たちに囲まれて、自分がどこにでもいる普通の人間だと思ってしまった。どう足掻いても、人並みの幸せは手に入らないというのに。
「カオスがいた! 今、藤くんが戦ってるから、応援お願い!」
凛の声が全員の無線に届く。
「圭、行くわよ!」
「ああ」
斗真、お前は本当にすごいやつだよ。
圭はアリシアを追い抜いて、高鳴る気持ちを抑えて走りだす。
今日が俺の命日か・・・。
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