7 - 危害
麻衣は大学でゼミの講義を終えて帰路についた。
まだ外は明るく時間が早いため、ひとりで帰っても平気だろう。
謎の人物に襲われ、帰宅したあと母にすべてを話した。これから暗くなってから帰るときは車で迎えに行くからと連絡をするように言われた。
仕事で疲れた母に迷惑をかけたくはなかったが、心配をかけることが何より親にとっては辛いことだと麻衣はよく知っている。
明るくても例の公園に近づくと警戒心が生まれる。周囲に今日も人の姿はない。公園は住宅地の端に位置しているため、いつも人通りが少ない。
考えてみたが、あれは私を狙ったものだったのだろうか。偶然通りがかっただけの私が襲われたのかもしれない。
だとすれば、二度と襲われることはない。この場所に注意していれば、安全なはずだ。
何か引っかかることはあったが、そう自分に言い聞かせた。
歩き続けると、違和感があった。視線を感じて背後を振り返ってみるが、誰もいない。
気のせいだろう。前回のこともあり、警戒しすぎている。
と思ったのだが、急速に足音が近づいてきた。気づいたときにはすぐそばまで来ていた。麻衣は反射的に走りだす。
突然、頭に鋭い痛みが走った。髪を掴まれ、引っ張られている。
振り返って目に入った姿は、以前と同じパーカーを着た男だった。フードを深く被っているため、顔は確認できない。
恐怖で声が出なかった。見えた男の口元には、いやらしい笑みが浮かんでいる。麻衣は足の力を失い、地面に尻餅をついた。
間違いない。この男は私を狙っている。
「何をしている!」
遠くから声が聞こえた。近づいてくるのは制服を着た警官だ。自転車に乗っているため、みるみるこちらに距離を詰めてくる。
男は麻衣の髪から手を離して走って去っていった。
「大丈夫ですか⁉︎」
「はい」
麻衣は制服警官に支えられて立ち上がったが、脚はまだ震えている。
「先ほどの男は、知っている人物ですか?」
「いえ、知りません」
「最近この付近で窃盗が多発しているので、気をつけてください。女性だけを狙っている卑劣な犯人ですが、なかなか逮捕に至らなくて」
麻衣はあの男の目的は窃盗ではないと感じた。鞄を盗むだけなら髪を引っ張らずに鞄だけを手に取って走る方が良いはずだ。それに、これほど明るい白昼に犯行に及ぶだろうか。
「交番で話を聞きましょうか」
麻衣は警察官の提案を断った。本来は被害届を出すべきなのだろうが、何より先に母に相談がしたかった。
警察官は「それでは、お気をつけて。何かあればすぐに警察に相談してください」と自転車に乗って去っていく。
麻衣は再び自宅に向かう道を歩きはじめた。
あの男は間違いなく前回と同一人物だ。
麻衣が帰宅して一時間弱、母が仕事から帰った。
母はすぐに麻衣を連れて警察に向かうことを提案した。
このままではいつ自らに危害が及ぶかわからない。
麻衣は素直に提案を受け入れて、母と共に警視庁に向うため、車に乗り込んだ。
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