第58話 三姉妹の攻撃
三人の美少女はそれぞれのお辞儀をした。
今のところあまり敵意は感じない。
僕は隙を見て、伝説のゴルゴーンを名乗る三姉妹の
種族魔女。
体力や耐性はあの天使ウリエルよりはかなりおとるものの魔力と知性の値がずば抜けて高い。それに練度もなかなかだ。
ということはやはり精神への攻撃が得意とみてとっていいだろう。
今までのように力業でどうにかなる相手ではなさそうだ。
僕は緊張の面持ちで彼女らの出方を待った。
「それでは嘆きの壁の入り口までご案内いたします」
赤髪のステンノーが言った。
ちらりと僕はQの愛らしい顔を見る。
「とりあえず行ってみましょうよ」
Qは言った。
僕もそうしようと思う。
「さて、鬼がでるか蛇がでるか」
僕は言った。
ステンノーは入り口といった。
ということはこの壁は世界を隔てているだけではなく、別のところにいけるということかもしれない。
もしかするとその入り口の向こうに陽美がいるかもしれない。
それは完全な希望的観測でしかないが。
ただ、手がかりが無いに等しい以上、その入り口とやらを見るのはそう悪い手ではなさそうだ。
「わかった。案内してくれ」
僕は言った。
「かしこまりました」
そう言うのは金髪のエウリュアレーであった。
僕たちは彼女らに続いて歩いた。
しばらく歩くとその壁の模様が見えてきた。
「なにこれ、すごいよ」
Qは感嘆の声をもらす。
「う、うん。そうだね」
僕も思わず息を飲み込んだ。
そこにあるのは巨大な系統樹であった。
生物の進化の様子が視覚的にデザインされたものが嘆きの壁に描かれていた。
無数の枝葉が天にむかってのびている。
その根本に四つの小さな穴が空いていた。
「さあ、七つの大罪人。ここに四つのアルカナをはめるのです」
黒髪のメデューサが四つの穴を指差した。
「さあ、さあ、さあ」
三人の美少女は口々に言う。
僕はコートのポケットにある
これはまずいな、僕は一つしかもっていない。
「どうしたのですか?ここにアルカナをはめるのです」
赤髪のステンノーが言った。
「簡単なことです。四つのアルカナをはめるだけでイスカリオテのいる世界に行けるのです」
金髪のエウリュアレーは僕の顔を覗き込む。
「そうです。あの木の先にはあなたが探しもとめるユダがいるのですよ」
黒髪のメデューサが耳元でささやく。
「その四つのアルカナというのは絶対に必要なものなのか」
僕は言った。
「ええそうですよ。アルカナはこの進化の系統樹を発動させる
ステンノーは僕に近づき、ささやく。
「まさかまさか持っていないのですか」
エウリュアレーは僕の手を握る。
柔らかく、冷たい手だった。
「いけませんね。それはいけませんね。アルカナを持っていない者はこの壁を越えることはできませんよ」
メデューサは僕の胸に手をあて、優しくなでる。
その瞬間、体に異変を感じた。
おかしいぞ。
体が動かない。
まったく、うごかない。
指一本動かすことができない。
「え、何、どうして。体が動かないよ」
Qが慌てふためいている。
僕もまったく動くことができない。
目蓋も動かない。
「アルカナを一つしか持っていないのに壁を越えようとは不届き者ですね」
ゴルゴーンの三姉妹は同時に言った。
六つの瞳は完全に殺意をこめて、僕たちを見ている。
これはいけないわ、月彦。
彼女たちは石化の特技を使っているわ。
ここは
会得したばかりの特技で体に負担がかかるけど、今は切り抜けることが先決よ。
月読姫は急ぎ、言った。
僕は月読姫の言う通り、両の瞳に意識を集中させた。
眼に熱がこもる。
じんわりと涙がこぼれる。
眼底に鈍い痛みが走る。
「ま、まさか魔眼が使えるの」
ステンノーが驚愕の声をあげた。
「こ、これはメフィストの……」
エウリュアレーが僕の眼を見る。
彼女の瞳に映る僕の眼は紫色をしていた。
「七つの大罪人、それは魔族の力よ」
メデューサはさらに瞳に力をこめる。
だが、その力を僕は跳ね返す。
瞳に意識を集中すると体が少し動くようになった。
僕はさらに眼に意識を集中させた。
「僕は……拒絶する……」
どうにかその言葉を発することができた。
成功した。
体が固いが、動くぞ。
僕は三日月で両足を強化し、ダッシュした。
Qの細い腰をかかえる。
「ゴルゴーンの力を拒絶する」
眼に走る痛みに耐えながら、僕は言った。
「あ、動くわ。動くわ」
Qは嬉しそうに言った。
さあ、脱出しましょう。
今の私たちではまだ敵わないわ。
残念そうに月読姫は言った。
「Q、飛ぼう」
僕はQに言った。
「うん、わかったわ」
瞬時に背中にコウモリの羽が生える。
僕は三日月の力でその羽を強化した。
一回の羽ばたきで十メートルは上昇した。
三日月で強化したとはいえ、初めて飛んだときとは段違いの力強さだ。
Qは僕の精を接種することによって確実に強くなっている。
もう三度ほど羽ばたくと三姉妹の姿は豆粒ほどになった。
「このまま上まで行ってみましょう」
Qが提案した。
さらに羽ばたき、上昇する。
「うん、そうしよう」
僕はその意見に賛同した。
Qは何度も何度もコウモリの羽を羽ばたかせる。
まとわりつく空気が薄く、冷たくなってきたころ、僕たちは嘆きの壁の頂上に到達した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます