妹、天井まで回す
「お兄ちゃん! 教の私は一味違いますよ!」
「なんだよ唐突に……いつも通りにしか見えないんだが」
睡は胸をはってドヤ顔をして言う、ウザい……
「ふっふっふ……今日はついに無料石がたまったのですよ!」
「ふーん……で、十連が回せるわけか」
睡はちっちっちと指を振って言う。
「甘いですね! 今日はついにSSR確定まで回せるようになったのですよ! そう! 天井です!」
天井というのは任意のキャラを引けるものだと思っていたが、最高レア確定も天井だっただろうか? まあなんにせよ、十連分がたまるとすぐに回していた睡からすれば辛抱強く待ったものだな。
「で、目当てのキャラはいるのか?」
睡は待ってましたと言いたいように語る。
「そうなんですよ! 新規実装の妹キャラがものすごくエモくって……」
延々と語られた。というか新規実装の妹って血縁関係がポンポン追加されるってどんな世界観だよ……
いやまあわかるよ? ソシャゲに新規実装はつきものだからね。でももうちょっと整合性について考えようか。まあ弟がいたシナリオを消されたキャラもいるから前例が無いわけじゃないけどさあ……
「睡、一体いくら課金をしたんだ?」
結構な金額にはなるだろう。無償石でも有償のおまけになるだろうし、ログボだけでその量を集めるのは無理がある話だ。
「いえ、私は正々堂々デイリーミッションだけで集めましたよ?」
「すごいな……あのゲームそんなに石を配ってたっけ?」
「日にガチャ一回分くらいですかね?」
「それで天井まで集めたのか……すごいな……」
天井まで一体いくらかかるのか調べたことは無いが、よくもまあ集めたものだと思う。睡が珍しくガチャを我慢している様子を思い浮かべて少しおかしく思えるのだった。
「で、ですね……お兄ちゃんも一緒に私のガチャの結果を見守って欲しいなあって」
一人で回すのが怖いか……まあ天井までと言ったらそれなりの回数だもんな。気持ちは分からんでもない。
「分かったよ……」
「では今から回しましょう!」
ソファに座っている俺の隣に座って睡がスマホを取り出す。そしてゲームを開いてガチャの画面を出す。ちらっと見えた石の量が四桁だったのは見なかったことにした。
ちなみに一回回すのに十個で回せるので最低百回分を溜めたことになる。ゾッとするような量だった。
そして目的の期間限定ガチャを開く、天井まで百連、そこでSSR確定チケットが排出される仕組みだった。
「じゃあお兄ちゃん……回しますよ……?」
「ああ、回せ回せ」
始めの十連……R,R,R,R,SR,R,R,R,R,R。あまりいいとは言えない結果だった。ちなみにこのゲームでは無料チケットで回すがちゃでしかノーマルは排出されない。石で回すがちゃの最低レアリティはレアだ。だったらノーマルなんてやめてレアが最低基準で良いじゃないかと思うのだが見栄えの問題や、無料チケットとの格差を付けたいなどの理由もあるのだろう。
「やっぱり十連程度じゃ出ませんか……次の十連いきますよ!」
「おう」
次の十連もSRが一枚きりだった。最高レアの排出確率が2%と平均的なことを考えれば当然とも言える結果だが、もし課金してこの結果だったらやりきれないだろうなとは思った。
「お兄ちゃん……これ、天井までに一枚くらいSSRが出ると思ってたんですが……私の考えが甘いのでしょうか?」
「確率なんてそんなものだ。当てにならないし、疑似乱数で結果が決まるがちゃなら排出されない時だってあるだろうよ」
世の中の闇、公営ギャンブルやパチンコと違って高校生でも合法的に回せるがちゃというものが良いのかどうかは議論の余地があるだろうが、少なくとも人を惑わす程度の魔力は秘めているようだった。
「じゃあ次の十連いきますね……」
もう睡も投げやりになっていた。十連ボタンをポチッと押して結果を適当に待っている。そこへSSR確定演出が入った。
「おおおおお兄ちゃん!!!!!!?????? コレは来たのでは!?」
「落ち着け、既存被りの可能性もあるだろうが……期待しすぎるな」
限凸に使えるとは言え、やはりガチャで引くなら新規キャラが欲しいというのは世の常だろう。そこで出てきたものと言えば……
『お兄ちゃん! かわいいいもうとのとうじょうですにゃ!」
そんなハイトーンボイスと共に猫耳の妹キャラが排出された。問題はそのキャラが限凸素材に変換されたと言うことだ。要するにもう持ってるキャラとの被りだった……
「お゛に゛いじゃああああんん!!! こんなのってないですよう! 酷いです! もう持ってるんですよこの子!!!」
睡はいたく怒っていたが、現在持っているキャラの方が多いと豪語している睡からすれば既存と被らない方が珍しいはずだ。確率としてそうなる方が高いんだからこんなに騒がなくてもいいのにとは思う。しかしまあ都合のいいキャラが出ると思っているのがソーシャルの世界なのだろう。
そんなことが百連まで続いた。SSRも数枚出たが全て被りで、確率的には当たりを引いているのにあまり嬉しくない結果だったようだ。
そして百連目でSSR確定ガチャチケットがおまけとして引いた時にもらえた。
「さて、ここからが本番ですね……このSSR確定で持っていないキャラを引けるかどうかです……」
「分が悪いなあ……」
勝負と言うには割がよくない話だった。セレクトガチャでない以上欲しいキャラを引ける確率は決して高くない。運営が不正をしているとかそういう話ではなく単純に確率の話だ。
「お、お兄ちゃん!」
睡が俺にスマホを差し出してくる。
「なんだよ……?」
「最後の一回はお兄ちゃんにお願いしたいんですが……ダメでしょうか?」
俺はため息をついて答える。
「お前ここぞという時に弱いタイプだよな?」
「失礼な! 貴重な思い出をお兄ちゃんと共有したいだけです!」
貴重な思い出とやらがガチャなのはどうかと思うのだが、最後の一回は俺に押して欲しいらしい。俺は少し悩んだが頷いた。
「分かったよ……ただし何が出ても恨みっこ無しな?」
「ええ、私もここで怖くなっただけなので、恨んだりはしませんよ」
「じゃあ……いくぞ」
「はい」
ピッ
ガチャの演出が始まる。当然だがSSRの演出だった。さあてどうなることやら……
『お兄ちゃん! 私のこと好きですよね? 好きって知ってますよ!』
なんかヤンデレ気味のキャラが排出された。そしてそれは排出画面で限凸素材に変換されなかった。つまり新規キャラということだ。
「お兄ちゃんすごいです! ここで引くあたりお兄ちゃんは持ってますよ!」
ガチャ運が強いというのは誇っていいことなのだろうか? そんなことを考えたのだが隣で笑顔になっている妹の顔を前にそれを否定は出来ず、確かにいいことだったのだろうと結論づけた。
――妹の部屋
「いやあ! お兄ちゃんが引いてくれるとやっぱり運がいいですねえ!」
私はそのキャラを眺めながら思います。
「これは私が石を集めてお兄ちゃんが引いてくれた子……これは実質お兄ちゃんと私の子と言ってもいいのでは!?」
私はその日、大変いい気分のまま布団に入ることが出来たのでした。
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