週末における兄妹の過ごし方
「お兄ちゃん! 明日はお休みです!」
睡が高らかに宣言する。そう、面倒な学校に行かなくてもいい休日がやってくるのだ。
俺は早速スケジューラを眺めて明日と明後日が空白なのを確認して安堵した。なぜ用事というのは暇な時に限ってやってくるのだろう。俺は何の予定も無い余白を見てにんまりしてしまう。スマホを持つようになってからそれに束縛されているような気がする。
もちろんスマホが物理的に引き留めるわけではない、しかしこの板から『何処へ行く気だ? やることはたくさんあるぞ』と語りかけられているような気がしてしまう。今では小学生だって持っているスマホにそんな感情を抱くのはおかしいことなのかもしれない。しかし、小学生だった頃、ガラケーを宝物のように扱っていた時のような感動はもう得ることは出来ないのだろうと考えると少し寂しくなった。
「お兄ちゃん! そんなに考え込むようなことですか?」
「そうだな……」
俺も考えるのをやめて建設的な話をすることにする。
「何処か行く予定なのか?」
睡は逡巡してから思いついたように答えた。
「お兄ちゃんと映画でも見ましょうか?」
「最近良いのやってたかな?」
最近の放映開始リストを検索してみる、何にせよスマホが便利なのは確かなので気に食わないとしても使える時は使うと割り切ることが必要だと思う。ご都合主義と言われるかもしれないけれど便利だからしょうがない。
リストを検索しても俺が好みの映画はこれといって無かった。なら睡が好みの映画でもあればと思うがそれも無さそうだった。スマホを差し出して何か看たいのがあるかどうか聞いてみる。
「何かよさげなのがあるか?」
睡は一目見てから言う。
「上映時間と同じ時間お兄ちゃんの顔を眺めてた方が楽しいですね」
そう断言して言うrが、俺が面白い顔だとでも言いたいのだろうか? 何にせよ映画は無しだろうな。
「お兄ちゃん! せっかくなのでスマホを買い換えましょうかと思います。いい機会なので」
『せっかくなので』で買い換えられるほど安い買い物でもないと思うのだがな……俺には睡の金銭感覚は分からないのだろうと思えた。コイツは意外と金持ちなんじゃないだろうかなどとか考えていた……のだった。
そうして翌日、俺たちは電気街でスマホを探していた……
「お兄ちゃん! 見てくださいコレ! ぜったい技適通ってないですよ! 怪しさ満点です!」
そんな風に店員から怒られそうなことを言っているのはもちろん睡だ。俺たちはジャンク街でスマホを見ていた。電気街だけあってパチもののような怪しげな品物が大量に揃っている。中には携帯ショップに持ち込むと契約を断られそうな怪しげな代物もある。
「…………」
「どうかしましたかお兄ちゃん?」
「いや、買い換えるって言うからキャリアショップに行くのかと思ってた」
「それはメインスマホだけですよ? ここで買うのはサブ機です、メインを人柱機にするほどの蛮勇は持ち合わせてないですね」
「ちなみにサブ機って何に使うんだ?」
「ソシャゲの巡回用とかですかね。充電しながら使うとバッテリーが傷みますから、メインでやろうとは思いませんね」
なるほど、睡が何のソシャゲをプレイしているのかは知らないが確かに周回を回すには充電が必要になる。ならば雑に扱っても壊れない機種の一つや二つ持っておいた方が良いのだろう。しかしそれを考えてもここら辺で売っている端末は常軌を逸した価格だった。
一万円台前半のスマホや、三万円でRAM8G、ストレージ256Gなどあり得ない価格設定のものが並んでいる。おそらく大半はコストカットの名の下に必要ない機能や必要な機能まで切り捨てて言ってしまった品だろう。そういったものでも3Dでヌルヌル動く必要がなければ多少の不満を許容すればなんとかなってしまう品が売っていると言うことだ。
「何のソシャゲやってるんだ?」
「『おにいちゃんこれくしょん』ってソシャゲです! 最高ですよ? 今度『いもうとこれくしょん』って言うのも出すみたいなのでお兄ちゃん始めますか?」
「やめとく」
「お兄ちゃんは強情ですねえ……」
笑いながら睡はそう言った。俺にはそのゲームがどんなものか分からないが、あまり一般受けはしないんじゃないだろうかと予想はついた。様々なスマホアプリがそうであったように、ヒットするものは消えていくものに比べて圧倒的に少ない。ソシャゲというレッドオーシャンで生き残るのは大変なのだろう。
lavabitやInboxといった消えていったサービスに思いを馳せながら睡の講義を聴くのだった。
どうやら睡によると怪しげな中華スマホが今熱いらしい。Androidの登場で有象無象がスマホを作れるようになり怪しげなメーカーでも一応動く程度のものを作れるようになったとのことだ。それが良いことなのかは疑問だが、お金が無尽蔵にあるわけではない学生にとってはありがたいものだ。
睡は店を回っていきながらフラッグシップモデルを無視して真っ先に怪しげな機種を売っているコーナーを眺めて値段とスペックを眺めていった。後から聞くところによると、スペックは『参考までに』らしい。値段とスペックを見るとどの辺を削って安くしているのかを探るために見ているらしい、数字については『まず信用ならない』ものだとは断言していた。
そうして数軒を回った後で途中で見た毒々しい赤色のスマホを一台買っていた。曰く『ぎりぎり使えるレベル』だと目をつけたそうだ。
無論店頭でベンチマークを回せるような気前の良い店はないのでこのあたりは勘に頼ることになるそうだ。
帰宅後、一緒にセットアップをすることになった。睡が言うには『お兄ちゃんは安パイを選びすぎです!』だそうだ。このようなギャンブルも時にはした方が人生にメリハリが出るというのが睡の持論だった。
そして一通りのソシャゲがインストールされてから睡は微笑んでいった。
「さあベンチを始めましょう!」
そう言ってベンチソフトをインストールしていった。
数字がどの程度のものかは俺には理解出来なかったが、睡が言うには値段が二万切ってたのでこの程度出れば御の字らしい。
なお、何故俺がセットアップに付き合わなければならないかといえば、新しい機種のメッセンジャーに俺と紐付け出来るようにして欲しかったからだそうだ。物好きだな……
その夜、スマホに『お休みなさい!』と元気の良いメッセージが届いたのは俺が眠りに入ろうとしているその時で、たたき起こされる羽目になったのだった。
――妹の部屋
「お兄ちゃんと一緒にお買い物は楽しいですね!」
私はニヤニヤしながら今日買ったスマホを眺めます。結局一日いじり倒しても技適マークは見つかりませんでした。まあこんなものを捕まえるほど暇な人もいないでしょう。
私はSIMを差し替えたスマホでお兄ちゃんにメッセージを送って眠ったのでした。
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