さして青くもない
@hy0
僕の高校生活は。
まあまあ楽しかったかな。そんな感想を抱きつつ青空を見上げる。胸に刺さる薔薇の造花、握った丸筒と一輪花。
涙を流して別れを惜しむ女子達を横目に見つつ、「卒業式」と書かれた看板の写真を撮った。これどうみても手書きだな、書道の先生が書いたのかな。僕の専攻は美術だったから先生の名前も知らないや。
見渡すと友人もふらふらしていたので声をかけて写真を撮る。彼の学ランを一応確認したが、ボタンは上から下までキッチリ揃っていた。もちろん僕も同じ格好をしている。
お互い彼女の出来る気配なんて1ミリもなかったもんな、まあそうだよな。似たもの同士でつるんでいた結果である。全く女子に興味がないなんて嘘をつく気はないものの、特別不満があるわけでもない。そう問題も起こらず、ほどほどに勉強してほどほどに遊んで、ほどほどに学校行事を熟した高校生活だった。
「まあ、青春ってこんなもんだよな」
「急にどうした?」
しまった、声に出ていた。
「いや、それなりに楽しかったなと思ってさ」
「ん?ああうん。まあ俺がいたおかげだな。感謝してくれよな」
「厚かましいんだが?」
「寂しいよな〜?大学別だもんな〜?俺お前が大学でぼっちにならないか今から心配だわ」
「いらん世話なんだが?」
この友人は人見知りのくせに僕に対してはやたら煽ってくる。慣れないと口数が増えないタイプだからこいつの方が大学でぼっちになる気がする。
「それで?大学一緒なんだっけ?ぼっち回避なんだっけ?」
「は?」
「だから、お前と、朝日奈さん」
「……受かってたらな」
「そっか〜前期発表はまだか〜でもまあ2人とも大丈夫だろ。良かったな一緒で」
「別にまだ分かんないし……」
「じゃあ今のうちに告って来たら?」
「あ゛ぁ!!?」
周りにいた人が一斉にこっちを振り返った。それなりの喧騒をぶち破る大声を出してしまった。小声で友人、いや馬鹿に怒鳴り直す。
「お前、お前のせいだぞ!」
「いや叫ぶのが悪いんじゃん?」
「あ〜〜〜〜」
数拍おいて元の喧騒に戻る。先程の人々の中には少し驚いた……朝日奈さんの顔もあった。もう嫌だ。最悪だ。卒業生に送られるガーベラを携えた朝日奈さんは可愛かった。俺たちが持ってるよりずっと映える。花が朝比奈さんの可愛さをより引き立てている。朝日奈さんはやっぱり可愛い。
ー『全く女子に興味がないなんて嘘をつく気はない』なんてさっきは格好つけた言い方をした。実際は興味ありまくりだった。
だって仕方ないだろう、目を逸らしたって気になってしまうのだから。挨拶されるだけで始業まで脈がずっと速いのだから。何故人の視線って奴は向けられてる事になんとなく気づけてしまう物なのだろう、もっと自然で目立たないものだったら四六時中眺めていられたのに。
ただ特別不満がないのも事実だった。時々楽しそうにしているのが視界に入ればそれで良かったのだ。
「いいじゃん、今のうちに当たって砕けちまえよ」
「嫌だよ、別に仲良くもないのに」
「そう言う所なんだよなあ」
どうしようもなく片思いを拗らせながらも殆ど彼女に話しかけられなかった僕は、友の事を馬鹿とは言えないかもしれない。こいつはなんやかんやで青臭い恋心をサックリ見抜いて来た。あと彼女は全く脈ナシだろうとザックリ僕を刺してきた事もある。人の機微に聡いのだ。しかし何故僕の機微はスルーするのか、やっぱり馬鹿なのか。
……あれ、こいつ脈ナシなのに今告白を勧めてきていたか?何が当たって砕けろだ、お前が砕けろや。
「よく聞け?仮に……ないとは思うけどどちらかが大学落ちてたとするじゃん?そしたら離れ離れになるわけじゃん。もう一生会う機会がないかもしれないじゃん?そうなると卒業式の今このタイミングで言っとかないと、この先ずっと片想い拗らせたまま物思いに耽る事になるんだぞ。彼女のお前への認識は1クラスメートで終わるわけよ。ところが?告白すると?お前は『卒業式の日に告白してくれた男子生徒』になるんだよ。彼女の中での認識のグレードが上がるんだ。大学以降の人生でもふと思い出してくれる可能性があるわけ。朝日奈さんの人生に痕跡を残せるチャンスをふいにするのは勿体無いと思わないか?」
急にそれっぽい事を喋り出したな。若干殺意を放ったのがバレたかもしれない。
「2人とも受かってたらフッた人とフラれた人で同じ大学に通う事になるんだけど?」
「そしたらそれはそれで諦めがつくじゃん。さっぱり新たな大学生活を始めてたまに会った時に挨拶するのを維持すればいい。どうせ大学に入ったら講義も殆ど選択制になるんだからさあ、高校より見かける頻度は減るだろ?大学に入ってからじゃますます告白する機会なんてなくなるぞ?それでなくても大学入ったら朝日奈さん彼氏出来そうじゃん。彼氏だよ彼氏、毎日学内でイチャイチャするようになるかもしれないぞ〜。諦めきれずに引きずったままそんなの見て耐えられるのかお前は?無理だろ?」
「……」
現実と言う言葉のナイフが容赦無く突き刺さる。分かっているけど素知らぬフリをしてきた現実がザクザクと心を抉ってくる。こいつは馬鹿ではなく悪魔なのかもしれない。
「俺は別に悪意を持っているわけじゃないんだよ。3年近く拗らせつつも全く成果を上げられなかった友の今後を心配してるわけ、understand?」
心を読むな。
「言ってる事は、まあ……分からなくもない、けども」
朝日奈さんの方を見ると吹奏楽部の後輩に囲まれながら卒業祝いを受け取っていた。ああ、涙を流す後輩につられて彼女も感極まっている。胸がギュッとして目が離せなくなりそうになったので慌てて視線を逸らした。
「今は人に囲まれてるなあ。最後クラスで写真撮るはずだからその後に声かけるのがいいんじゃね?」
「行かねーーよ馬鹿」
「大丈夫!俺はお前がやれば出来る子だって知ってるからな」
「何も大丈夫じゃない」
最後、クラス写真を撮るために集まるまでダラダラと喋っていた。そう言えば体育祭の時も文化祭の時もこんな感じだった。いつだってこいつがけしかけてきて、僕はあしらうだけだった。そうか、今回で最後なのか。
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