140字小説 まとめ

晴れ時々雨

第1話

そんな言葉があるのは知ってても使いこなせない表現だと思ってた

大好きなあなたが噛み締めるように先に口にして、見かけによらずロマンチストだと思った

支えになろうと決めて肩ひじを張る私を、支えてくれていたのはあなたの方だとある時気づいた

遅れた言葉が駆けてくる

#言葉の添え木 愛してる



今まで何度も存在の重要性について説明してきたが、永遠を信じない彼は居住を安定させるつもりはないと頑固なのだった。そのうち去る意志を持った彼と、彼に永遠を感じてしまった私の同居が始まって数年が経つ。彼の永遠は線で、私の思う永遠は点だ。過去に落とした幸福の点が今日も彼を名前で呼ぶ。

#140字小説 ペットでも友達でも親戚でもなく、世間では父っていうの



偏屈な彼女の心の扉を開くには力任せではだめだ。高級なジャーキーと鍵がいる。僕は毎朝彼女に声をかける。いるようないないような感じで毎日。ほとんど独り言のようなことをなんとなく喋って帰る。彼女のことは知らないが、僕のことはだいたいわかっただろう。

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ONE と鳴いてもいいですか

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狙撃から身を守るために壁を建てる。夢みたいに物騒な話だが実際夢でみたのだ。念のため犬も飼いスミスと名付けた。流れ星銀から思いついたんだがあれはスパニエル系だったかもしれない。でもどう見てもベンじゃないしモスは飼いきれなそうだし壁に描いた模様はうまくない。プロに相談すべきだったか。 https://t.co/VYqvshoX9l



部屋に落ちた抜け毛を拾って貼り付ける作業中、開始から一週間目を振り返るとひときわ太い毛を発見して、これが自分の命毛だったのかもしれないと思う。

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雨上がりの森には新しい命が溢れていた。その中には僅かな環境の変化により稀な進化を遂げる種もあり、限られた条件下で逞しく分裂を繰り返したきのこが既存種の隣で有り得ない色の傘を広げて露を弾いていたりする奇跡に遭遇することもある。ピンクのベニテングタケはいちご味かもしれないのだ。

#140字小説 幻のかわいい顔した殺人きのこ



オレオに挟まってるクリームみたいな女だったよ、あいつは。

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夜毎現れるその人は夜そのものだった。闇は心の根に沈潜するざわめきをどこか期待させる。見えにくいから知りたくなる。断片を発掘し、秘密を探り当てた子どものように女の私は浮かれる。ようやく触れたものが真実だと軽はずみに信じ、あの人が朝まづめに去るのは夜だからだとなけなしの少女が縋る。

#140字小説 夜づり



私たちは折れた口紅だった。

これから、ある人に復讐をする。

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池の見張りに出かける。池畔の舟を繋留する杭に繋いだ、変わり果てた姿の僕の知り合い。家の裏でひっそりと縊死していた彼をみつけ、月光も翳る誰も近寄らない池まで運んで流れないようロープで繋いだ。翌晩、彼は膨れた体で僕を待っていた。自分を待つ人のいる幸福な夜の訪れに、僕の足取りは早まる。

#140字小説 逢瀬



45dbの足音で彼が歩くので怒っているのかと思った。買い物帰りの彼はぶら下げた大荷物を床に52dbで置くと23dbで水栓を捻り44dbで手を洗った。「おい!」 体感100db。耳元で聞く82dbはつらい。彼は30〜80dbの抑揚をつけてスーパーでの出来事を話した。僕の反応が薄いので彼の声はでかい。耳は良いのに。

#140字小説 僕はデジべる



灰色の人がぞろぞろと歩いていく。みな一様にトロルのような背中を丸め、渇いた荒野を砂埃をあげてゆっくりゆっくり往く。彼らが恐ろしく見えるのは、誰もこちらを見ないからだ。ここに人がいるなどまるで気づかないで、独自の歩調を崩さず顔も見えない。揃ってはいないが彼らは大きくうねる群れだ。

#140字小説



気鬱な季節が訪れようとしていた。冬の閉じていく恐怖に備える心は、それが明けることを喜びに感じることもない。錆びた鉄を明るい色に塗り替えていくような空々しさ。君の吹かす風は思ったより冷たく渇き、光が射すぶん冬の始まりより始末が悪い。緑が一段濃くなる頃まで心の襟は緩められない。

#140字小説 春



周りに飛び散るもののせいで、肺病に冒された大正時代の女工のように見えた。しかし彼女から湧きでてできた血の海は死にゆく者の中にあるには鮮烈すぎて、突然終わる生が実は力強かったことを改めて報せた。女には血が似合う。それは死で生で性だ。

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女の臍が喋る。飲み込みの早い女は私を食いちぎらんばかりに締めあげ殺してくれと洩らす。技を得るうち次は次はと催促するので自由課題を課す。角度と深度、内と外のうねり、節々肉々の使い方。お前の自由はそんなものか。これぎり、もうこれぎりだと思え。焚き付けられるだけ焚き付け、果へつきあう。

#140字小説 臨界



頸部静脈を脱脂綿で押さえながら処置室から出てきた彼女の顎の静脈が青白く燐光を放ちだしているので慌ててフードを被せる。美貌の可能性を引き上げるため、暗闇で光る薬品を投与してもらった。そして彼女の外殻は漆黒の大気に溶け、深部から縦横に循環する器官のみが深海生物のように浮き彫りになる。

#140字小説 地上の飽和潜水



スコップを手に村の外れへ向かう人と行き交い精が出ますねと労う。彼は片手を上げ笑顔で応える。あの人を知っている。彼は村で出た死人をまとめて穴に埋める務めをしていて、穴の中に折り重なる死体の上に横たわり自分もその一部のように目を瞑る。太陽の角度が変わる頃スコップの音がまた始まる。

#140字小説 みんなのつとめ



金魚鉢に手を突っ込んで一匹ずつ掬いだしお皿に並べる。数を数えていると彼は言った。こうしないと正確に数えられないとも、増えたり減ったりするとも言った。お皿というのが変だった。眼鏡を貸すと、ありがとうと眼鏡で掬う。びしょ濡れの眼鏡をシャツの裾で拭き取って僕に返す。お皿の下のフォーク。

#140字小説 ぴちぴち



#こどもを14文字以内で

いつかおわるけど忘れたくない



凍らせ屋に一言文句を言いに行く。凍ったさんまで風船を割る仕事をしているのだけど、さんまの凍り方が甘くて全然割れないのだ。良いさんまを投げると風船は割れたことにしばらく気づかないで音が遅れ、貫通したさんまは向こうの障壁に見事に突き刺さる。それとも風船の材質に変更があったんだろうか。

#140字小説 割り屋



ぐるっぐるぐるっ

体に密着していたものが離れ自由になる。頭としっぽが交互に動く。たぶん僕の居場所はここじゃない。あたたかい仕切りを思い切り頭で突き破ろうとしたとき、耳の奥でへんな声が聞こえた。

かえろうかえろう

けえろうけえろう

いったいどこに?

けろけろけろ

部屋が破けた。

#架空文庫



擦るのが得意な人が私の足を擦っています。ずっとやめないので、私の足を削って失くそうとしているのかと思った。その人は落ち着いた態度で続け、軽い力で擦られているだけなのに私はすっかり参ってしまった。何も言わない分頑なな意志を感じ、まだどこも削れていないのに逃げ出す足を失ってしまった。

#140字小説



#架空文庫

室内に突然現れた害虫のように、視界の端をよぎった人影のように、普段の場所に予想外のものを感知した経験をするとそこを意識するようになる。

初めて男を経験した帰り、内腿をひとすじの液体が伝った。紅白の混じる粘液は牛の出産めいていた。

成熟は喪失と共に。

春、あの場所へ帰る。



あの人が大事そうに扱うあまりに、あたしは瀬戸物になってしまった。裸のそのままのあたしを抱くと冷たいから、あの人は温めたお湯を中に注いでからあたしをきゅうと抱きすくめる。物になったあたしへの力加減をたまに間違え、体がみしりとひずむ。割ってしまいたいのかな、割られたいのかな、なんて。

#140字小説



憂鬱な午後の雨を傘でよけながら帰ると、母が庭で洗濯物を干していた。綺麗に巻いたはずのカールの髪が濡れそぼって萎れ、城址公園の屋台のゴミみたいにブラウスを肌に張りつかせておかえりと笑う。もうすぐ日が暮れる。母の腕を掴むと手の洗濯物が落ちて、白いワイシャツが泥水に浸った。

#140字小説 時間の迷子



その街では「さよなら」が高値で取引されていた。

安定した気候、自然に富んだ地形、固からず緩からず保たれる秩序、理性的な住人たちの暮らす街。そのまま居着く旅人も多いことで知られる。

首狩りを起源に持つこの楽園から去るにはただ一点、代償として最大の物を支払わなければならない掟があった。

#架空文庫



#女を14文字以内で

くのいちたれ



#嘘を17文字以内で表現する

信じたくないものと信じさせたいもの



お喋りな女はシャボン玉製造機。

辞典は開かなければ文字は見えないし読まなければ意味もわからない。

考えるほど言葉にできなくなる。

シンプルで孤立した考え。

うまく伝えようとすれば膨大な言葉が必要になる。

伝えない言葉を抱え私は生きていく。

ただそこにありたい。

開いた人が読める状態で。

#140字小説 伝えない



#怪談大喜利

数を数えおわり顔を上げると夜だった。外の明かりがひとつもない。頭の後ろにお面があって、それを顔に回して隠れん坊を探しに行く。 https://t.co/rqc2f2XVzM



「アフロディーテならまだしも」

どうやら喩えが気に入らなかったらしい。しかし波打つ金髪に秀でた額、堂々たる肉体からそう連想してしまうのはしかたない。欠月の瞳で彼女は鞭の柄を僕の肛門にあてがった。

「クイーンと言うべきでしょう、バカ」

鋭い痛みを伴いながら内臓が異物を受け入れる。

#架空文庫



ひぃ孫に因数分解された99歳の僕の因数の中に赤ん坊がいた。彼は笑ってる。よかった。

#生首ディスコのドレスコード https://t.co/3GFtkSIkkX







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