第29話 天使にカウンターをキメました。

信之とイリスが一緒に過ごし始めてから、二週間が経った。


悠助からあのような連絡が来たが、今のところ特に何かされたということはない。

勿論、信之もイリスも警戒を怠ってはいない。


今日は珍しくイリスの仕事が休みだ。悠助への警戒を毎日していて気が滅入ってきてしまったイリスは、なにか気分転換がしたくなった。


二週間の間は、信之と一緒に経験値の間へ行ってレベル上げをすることが多かった。レベル上げをしている間は悠助の事を考えずに済むし、現実の世界に戻ってきても疲れてすぐに寝れるということもあり、かなり入り浸った。


おかげで魔法士のレベルも☆7をカンストして現在イリスは聖女という職のレベルを上げている。


聖女は補助魔法・回復魔法に特化しており、特にパッシブスキルが強力だ。

その中でもオートプロテクションは規格外で、視覚内外問わずに自動で発動し攻撃から守ってくれるスキルだ。


オートプロテクションのデメリットとしては、このパッシブスキルを使用中は常に一定量のMPを使用し続けるというものなのだが、イリスは信之同様、大魔導というスキルを所持している。


大魔導のスキルは魔法士☆7となってカンストした際に取得できるスキルで、

・魔法力大幅増加

・MP回復速度大幅上昇

・キャストタイム大幅減少

この3つのメリットが内包されている。


その中のMP回復速度大幅上昇によって、オートプロテクションを使用し続けてもMP回復速度の方が上回っているため、MPは全く減らないのだ。


そんなレベル上げオタクのイリスでも、ここ最近は経験値の間に行き過ぎて飽きてしまった。


なので今日は、信之との距離を縮めたいとイリスは考えている。

二週間ほど信之の家に居候をしているが、特に信之とは何もない。


イリスは、ゴブリンに襲われているところを信之に助けてもらってから、恋心が芽生え始めた。その後も何度も助けてもらい、信之に惹かれていった。


悠助との事件の際には、「絶対に守る」と言われ、それがとても嬉しく、信之のことが本当に好きであると実感した。


しかし、現在イリスと信之の仲は全く進展がない。厳密に言うと仲は良いが恋仲ではなく、守ってくれるお兄ちゃんと守られる妹という感じなのだ。


(このままだと、信くんと良い仲で終わっちゃう…)


焦りを感じたイリスは、決死?の覚悟で信之に提案することにした。


「の、信くん、今日一緒に買い物にいかない!?」


二人で買い物となると、=(イコール)デートということを考えてしまい、緊張して噛みながらも信之に伝える。


「買い物?俺は全然良いけど、イリスはいいの?天使様が男と一緒にいるところを撮られでもしたら問題じゃない?」


そんなイリスの覚悟に全く気付いていない信之は、天使様という単語を使ってイリスをからかう。


「て、天使じゃないですぅ~!」


頬を膨らましながらいじけるイリス。


「マスクと眼鏡をかけて、帽子も被れば大丈夫じゃないかなっ?えと、せっかくのお休みだし、何かしたいなって…。」


両手の人差し指同士を突き合い上目づかいで信之を見るイリス。

そんなことをされたら信之に否という答えはない。


「わかった!じゃあ行こうか!」


「う、うん。」


結構な覚悟を決めてデートに誘ったイリスであったが、信之を見ていると本当にただの買い物だと思っていそうで、ヤキモキしたイリスはここで大胆な発言をする。


「もし、撮られちゃったら…ちゃ、ちゃんと責任取ってね?」


「…え?」




数秒間の沈黙となった。


イリスにはその沈黙が数分かのように長く感じた。

その沈黙の中でイリスは考える。


(あれ!?よく考えてみたら私から誘っておいて、バレたら責任取ってとか…え?私悪女見たいじゃない!?何言っちゃってんだろう私!?どどどどうしよう。信くんに嫌われちゃったかな…)


沈黙中に顔を真っ赤にしたり、青くしたりと忙しくしているイリス。

そんなイリスを見て、信之はイリスの発言を思い返した。


(あ、そういえば誘ってくれた時なんか緊張してそうに思えたけど、もしかしてデートしようっていうお誘いだったのかな?)


イリスを見ると、イリスは恐る恐る信之からの返答を待っているようだ。


それを見た信之はイリスをいじめたくなってしまった。


「うん、もちろん責任取るよ。じゃ、デートしようか。」


笑顔で答える信之。


「…責任…デート…きゅ~…。」


信之から想定外のカウンターをもらったイリスは、責任を取る。デートをする。その二つの言葉を頭で処理することができず、脳内クラッシュを起こすのであった。

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