第27話 ピエロはイケメンを処す

イリスは後ろを振り向くと、そこには壁に寄りかかっている蓮見悠助がいた。


「は、蓮見さん。」


「悠助って呼んでいいぜ?イリスなら許してやっからよ。」


悠助はそういうと、イリスに近づく。


「わ、私は行きません!もう、お誘いは遠慮いただけますか?その…、迷惑なので!」


ここできちんと言わないと、今後もずっと誘いに来ると思ったイリスは勇気を出して悠助を突き放す。


「はぁ?迷惑?何言ってんだ?てめえの考えなんてどうでもいいんだよ。俺が来いって言ったらくればいいんだよ!」


悠助は語気を強めて、横にある壁を殴る。壁はコンクリートでできているのだが、ひびが割れて欠片が落ちる。


「ひっ!」


イリスは、レベルが上がってからモンスターと対峙しても特に臆せずに戦うことができた。しかし目の前にいるのは人であり、人の言葉を発して怒鳴られることには慣れていない。イリスは頭が真っ白になり、恐怖で震えてしまう。


「ははっ!そんなビビんなよ!一緒についてくりゃぁいい思いさせてやんだからよ!」


そう言って悠助は、イリスの手を掴もうとするが…。


「や、やめてください!これ以上はあなたの事務所に連絡して警察とも相談させてもらいますよ!!」


マネージャーがイリスを助けようと声を荒げ、イリスの前に立つ。


(はっ!?)


頭が真っ白になっていたイリスは、正気に戻る。


(どうしよう!?このままだとマネージャーさんが危ない!)


イリスは、悠助が殴ったひび割れたコンクリートを見て、悠助がステータスを獲得しており、レベルも上がっていると気付く。


(私が、戦うしか…)


しかし、イリスは人と戦うことが怖かった、これはステータスは関係なく性格上の問題だ。


イリスが悩んでいると…


(あ、イリス?今大丈夫?ダンジョンの事について話そうと思ったんだけど。)


信之から念話が来る。


(信くん!助けて!)


イリスは目を見開き、信之に助けを求める


(!わかった。すぐ行く。)


信之は理由も聞かずにすぐに了承する。イリスにとってはそれがとてもありがたく、安心することができた。


「うぜぇんだよ!くそがっ!」


念話が終わったその時、悠助は怒鳴り、マネージャーを殴る。


「がっ!」


マネージャーは2メートルほど転がり動かなくなる。


「マネージャーさん!?」


イリスはマネージャーのもとへ走ろうとするが…


「おっと。イリス~、いうこと聞かねえ奴はお仕置きだぞ?今日は寝れねぇからな?」


悠助は、イリスの腕を掴む。その顔は醜悪に歪んでおり、イリスは怖気立つ。


離して!とイリスが声を出そうとしたところ。


「いやいや、今どきの若い子は勢いが良すぎるんじゃないかな?」


目の前にピエロが現れた。



「なっ!?てめぇ、どっから現れた!?」


驚いた悠助は、掴んでいたイリスの手を放し、後ろへ飛ぶ。


(信くん!)


(遅くなってごめんねイリス。助けに来たよ。)


助けに来た。この言葉にイリスは安堵し涙を流す。


(ありがとう…信くん。)


(おう!こいつは俺にまかせて、マネージャーさん助けてあげて。)


(うん!)


悠助から解放されているイリスは、走ってマネージャーのもとへ向かう。


「あ!イリス!勝手に動くんじゃねぇ!」


悠助はそれを見て怒鳴り上げるが、イリスは歯牙にもかけない。


その態度が許せない悠助は、イリスを追おうとするが。


「こらこら、君の相手は私だよ。」


シルクハットを抑えながら、信之は悠助の目の前に瞬間移動する。


「なっ!?て、てめぇ、ステータス持ってやがるな!?」


悠助は驚きながらも信之に話しかける。


「さぁ?どうだろうね?」


信之ははぐらかす。


ピエロの笑っているような顔も相まって、馬鹿にされたと感じた悠助は、怒りで顔を歪ませる。


「くそ野郎が!ぶっ殺してやる!」


人が来ることが考えられるテレビ局の駐車場ということは既に頭から消えてしまった悠助は素手や蹴りで信之を攻撃する。


しかし、信之にはその攻撃は遅すぎた。

信之はシルクハットを片手で抑えながら、攻撃が当たる瞬間にまるで消えるように、攻撃を避ける。


「く…くそがあぁあああ!もう死ね!ファイアスピア!!」


苛立ちが頂点に達した悠助は、ファイアスピアを唱える。


ファイアスピアが信之のもとに飛んでくるが、信之は瞬間移動でそれを避ける。


ファイアスピアは駐車している誰かの車に着弾し、大きな音とともに燃え上がる。

誰の車かはわからないが…ご愁傷様状態である。


「あ~あ、やっちゃったねぇ。君大丈夫?これ完璧に犯罪だよ?」


信之がそう言うと、悠助は自分のやったことに気付き大きく目を見開く。


こうなることを見越して、信之はファイアスピアを止めずに回避したのだ。


「はっ、俺よりもてめえがやったことになんだろ!てめえみてえな不審者誰も信じねえしな!」


悠助は開き直り、信之が疑われると信じているようだ。


「君、ステータス獲得しているのにお馬鹿なのかな?ここには目撃者もいるし、監視カメラもある。誰がやったかなんて一目瞭然だよ?」


「…!」


論破された悠助は固まる。捕まることの想像や、捕まった時の言い逃れを考えているのだろう。


「まあ、頑張って罪を償いなよ。クックック。」


信之はさらに悠助を煽る。ここまで来たらそんなことをする必要もないのだが、信之も苛立っていた。


イリスがあそこまで焦り、懇願することなんて今までなかった。その原因となった目の前の男のことが許せなかったからだ。


「ちっくしょぉおおおお!てめえだけでもぶっ殺してやる!!」


考えることをやめた悠助は、信之に殴りかかる。


「じゃ、こっちは正当防衛しなきゃね。」


信之はパンチを回避し、右手を悠助の腹部へもっていく。そして手を広げ魔法を放つ。


「ウインドインパクト」


「がふっ!?」


ウインドインパクトを放たれた悠助は勢いよく吹き飛ぶ。

ウインドインパクトは射程距離が圧倒的に短いが、威力はそれなりに高い魔法だ。


「さて、これで終わりかな。」


(イリス、マネージャーさんはどう?)


(まだ目を覚まさないみたい。ヒールをかけたから、もう大丈夫だと思う。)


どうやらマネージャーは、気絶しているようだ。イリスが魔法を使えることがバレずに済みそうだと信之は考えた。


「あれ!?悠助さん!?いったい何が!?」


「きゃっ!悠助くん!?」


どうやら人が来たようだ。


「あ、あそこにピエロがいるぞ!」


「後ろにいるの、イリスちゃんじゃない!?」


「警察!警察を呼ぼう!」


「あぁーー!?僕の車がぁあああ!」


(イリス、帰るの遅くなっちゃいそうだね。)


(あ…そっか…説明しなきゃだもんね。)


イリスは、この件を警察や周りの人に説明する必要があると思うと少し億劫になった。


(でも、これであの人からもう狙われることはないと思うから、そこは凄く安心できそう。)


(そうだね。これで捕まれば万事解決だな。)


(うん、ありがとう。信くん。)


イリスは嬉しそうに微笑む。


(はいよ!じゃあ、俺は行くわ。また今度ね!)


信之はテレポートを使用し、その場から去る。


数十分後に警察が来て、イリスは事情聴取を受けた。

悠助やマネージャーは救急車で運ばれ入院するようだ。


その後、警察は駐車場の監視カメラを確認し、悠助がストーカー行為や暴力、破壊行為を行っていることを確認し、悠助に逮捕状が出る。


が、しかし…。






病院に搬送された悠助は次の日、姿を消すのであった…。

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