それぞれの日常

file01 ある支部長とハッカー

UGN、N市支部。ここでは日夜、巻き起こるレネゲイド事件の調査や解決に明け暮れている。

N市支部長はまだ高校生であり、高校生としての生活もある事から、平日の昼間などは他のエージェントや大人が支部を回している。

これは、そんな中の支部での一幕である。


───午後6時。学校も終わり、通勤帰りの社会人や、部活終わりの学生が帰る頃。

雑居ビルに偽装されたビル内の一室で、N市支部長「上園夏目」はパソコンと向き合っていた。

「全く、いつ見てもメールが減らないわね……」

任務に関するメールや資料が、今日もまた何件も送られて来ている。

最近の日課の一つは、こういった任務に関するメール・資料の整理である。

「とりあえず、送られて来たのが一番時間遅いのから……」

ネットなどに強い友人はメールの確認はそうする様にしている、と言っていたので、その通りにしている。機械音痴では無いのだが、あまりネットに慣れている訳では無いのである。

そうして確認と整理を終えて、ひと段落着いていると、部屋の扉がノックされる。

「ん、はい!開いてますよー?」と扉の外に向かって呼びかけると、

「失礼しまーすっと。やっとこっちも解放されたから来ちゃった。」と、同年代位の茶髪の少女が入って来る。

「あら、凍火ちゃん。そっちの方、もう片付いたの?」

「そりゃもちろん!あの位なら、あたしじゃ無くてもやり方さえ分かってれば整理は簡単だよ?」

茶髪の少女……「立花凍火」はそう語る。彼女は支部のイリーガル(外部協力者)でありながら、ハッカーとしての腕を買われ、支部のネットワーク関係にも手を出している。

今日は、凍火に支部の共有ファイルの整理を頼んで居た所である。共有ファイルなどのデータサーバーは、支部長以外の人物も使用する為、膨大なファイルが存在し、更に日々更新されている。その為、週に一度は整理が必須なのである。

「流石ね……。私はこのパソコンのメール整理で手一杯よ……。」

「うーん、上園ちゃんが良いんだったら、そのパソコンのデータ整理もしたいとこなんだけど……そうはいかないよね。」

「ええ。流石に他に見せるのはまずい情報とかも色々あるから……。」

「だよねぇ……」たはは、と少し苦笑いしてから

「そうだ、上園ちゃん。今から暇だったりする?あたし、これからエフェクトの訓練でもしようかと思って……。」

「あら、珍しいのね?凍火ちゃんはノイマンのエフェクトはだいぶ使えてるって聞いてるけど……。もしかして、サラマンダーのエフェクト訓練?」

「うん……。せめて、身を守る為の力は欲しくって。最近事件も多いでしょ、だから……。」

「なるほどね。それで、私はどうすれば良いのかしら?訓練を見れば良いの?」

「う、うん!私のエフェクトを見て、どこを直したら良いかとか教えて貰えたら良いなって」

「分かったわ。それじゃあ行きましょうか、訓練場。」

そう言って、二人は支部地下のエフェクト訓練場へとやって来た。


地下訓練場は無機質な白い壁と床で出来ており、モルフェウス持ちが作った攻撃用のターゲットが幾つか置かれている。

「じゃあ、行くね……!」ターゲットからある程度の距離を取り、凍火は手を構える。

凍火のシンドロームはサラマンダー/ノイマン。サラマンダーは炎・氷を操る事に長けた能力である。

「……当たれっ!」声と共に、小さな火球がターゲットへと向けて飛んでいく。

だが、その小さな火球は、ターゲットに当たると容易く霧散してしまった。

大体のサラマンダー能力者は、凍火の様に火球を飛ばすだけでも、容易くターゲットを壊す事ができるのだが、凍火の今の攻撃は、当たった瞬間に火球の方が壊れてしまった。

「うーん……。やっぱりだめだなぁ……。」

「……凍火ちゃん。無意識に手加減してないかしら?」

「えっ?手加減なんて……そんなわけ」

「いや、昔に私と模擬戦やった事あるでしょう。あの時、私を黒焦げにしちゃう位の炎が出せたじゃない。……もしかして、気にしてるの?」

その言葉に、凍火は少ししょんぼりとして

「……だって。」

「あたし、そういう力の使い方……向いて無いし……」

「だから加減間違えて、上園ちゃんの事、黒焦げに……」

「それは違うわ、凍火ちゃん。」

「それはただ、力に慣れてなかったってだけで、そういうのに向いて無いって訳じゃないわ。」

「……それに、それでも私の力になってくれようとしてるんでしょう?」

「それだけ……心強い事は無いわ。」

そう言って、夏目は凍火に微笑んで見せる。

「上園ちゃん……。」

「……あたし、頑張ってみる!」

「ふふ、そう……。じゃあ、このまま訓練しても良いけど、ちょっと課題を加えましょうか。」

そう言って、夏目はターゲットの近くに立ち。

「凍火ちゃん。実践だと思って、私に攻撃を当てないで、ターゲットを壊してみて?」

「え、ええっ!?」

「で、でも、さっきの感じじゃ……。」

「だからこそ、よ。実践想定の訓練の方が、より集中できるでしょう?」

「い、一理あるけど……。」ひとまず、さっきと同じ様に手を構えて

「け、怪我したら、ごめんね……?」

「大丈夫よ。これでも丈夫だし、それに……。」

「───信頼してるもの。」


夏目のその言葉と共に、凍火の脳がフル回転を始める。

凍火のもう一つのシンドローム、ノイマンはコンピューター並、もしくはそれ以上の頭脳を使いこなす能力である。

(あたしがそのまま撃てば、ターゲットの破壊はできる……。だけど、上園ちゃんへの被害は免れない。)

(上園ちゃんへ被害が飛ばない様にして、かつターゲットだけを破壊する方法……。)

(……そうだ、今まであたしは『炎だけ』を使ってターゲットに攻撃しようとして来た。)

(サラマンダーは氷を操って、温度を下げる事もできる。だったら……!)

凍火の周囲の温度が下りだす。しかし、それとは逆に、凍火の手には再び火球が生成されている。

火球は周囲の温度が下りながらも、その大きさを徐々に増し。

「今回、こそは……っ!」

「いっけぇぇぇ!!!」

その凍火の叫びと共に、火球は大きさを維持しながら夏目の横を掠め、ターゲットに命中する。

先ほどと同じであれば、ターゲットではなく火球が壊れるはずであった。だが今回は、命中したターゲットが凍結されて行き、最後に残っていた火球の炎が弾け、ターゲットを破壊する事に成功した。

「……凍火ちゃん!」

「やった……!やったよ上園ちゃん!!」


───親友の成長に、二人の少女は互いに抱きしめあった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自キャラの書き溜め 甘味屋(あまみや) @amamiya_XX

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る