殴られ案山子と知りたがり少女

@040413shun

プロローグ 殴られ案山子

むかしむかし


世には、人間と魔族と呼ばれる種族がいた。


人間は、個々人に強い力はないが、数の多い種族。

様々な困難を大勢で協力し、助け合うという特性がある。


魔族は、一人一人が一騎当千の力を持っている種族。

肉体、魔力、知能と、数多くを持ち、各々が頂点に立つことを好む特性がある。


ある時、この二種族が大きな戦争を巻き起こした。



苛烈を極めた戦争は、互いの数を大きく減らした後、最後には魔族の方に軍配が上がった。


そして、人間は彼らの支配下に置かれ、長らく魔族の長である魔王により、この世界は安寧を手に入れました。


しかし、その安寧も永くは続きませんでした。

元々、個を重視し、己のみが至上と考える種族。

争わないわけがなかった。



世は、互いに互いを潰し合う修羅の世界へとたちまち変貌してしまいました。





そんななか、それは突然現れた。


とある魔族の支配する町の中央

市街地のちょうどど真ん中、広場の中心に、一つの奇妙な物が置かれた。


それは、十字に組まれた木の棒に

両手足、首、腹をギッチリ縛られた、汚ならしい麻袋の人形でした。


そして、そのとなりには立て札が一つ

そこには、こう書かれていた。


【こちらの案山子

どんなことも、どんな当て付けも、どんな不満でも。

全て受け止めます。


憎き相手、憎きもの、憎き事柄

その全て、この案山子がお引き受けします。


ご自由にお使いください。】




立て札を読み終え、案山子を見たものは、皆驚愕する。


案山子が、その人物の最も憎むものへと変貌し、見たもの全てを煽るのだ。


ある人は、昔別れた男の姿を

ある人は、家族を奪った仇の姿を

ある人は、なんとなく鼻につく隣人を



そのことごとくが、本人の本当に嫌いな物を写し出し、はりつけにしていた。

しかも、その案山子がこちらを最も効果的に煽ってくるのだ。


人々は一様に憤慨し、案山子を攻め立てる。



そこに、男、女、老人、子供、人種


あらゆる知的生命体、全てに例外はない。



案山子を見たもの全てが、一様に激怒し、それを滅ぼさんと殺到する。







いくら殴っても、いくら汚しても、いくら燃やしても、いくら溶かしても


案山子は、変わらずそこに有る。




やがて、周りから案山子はこう呼ばれるようになる。









“殴られ案山子”

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