第17話

 テーブルにはお茶とお菓子、サンドイッチにスープも並んでいる。

 聖女王ミラはやや行儀悪く、両肘をテーブルに乗せて口を尖らせる。

「だいたい、勝手にこっちの世界に来て自分がいた世界の道理を振りかざすなんて、品がないと思わない?」

 隣でアデライドが陛下、と低い声で窘める。


 ため息を吐いてミラは姿勢を正す。

「今回はポレットのおかげで撃退できたけど、こんなのが何度もあっては堪んないわ」

 恥ずかし気に顔を赤らめながら笑顔でポレットは頷く。

「聖女の力をこんなことに使うなんて全くもってがっかりよ。私たちの力はこの世界の調和のためにあるんだから」

 ねぇ?と新世界の聖女王に就いたポレットに覗き込みながら同意を求める。


「警備体制も甘かったのかもしれません。今まで、聖域が責められることはありませんでしたし、いい機会になったことでしょう」

 優雅に紅茶を飲みながらアデライドが指摘する。

「新世界にも兵士を回してくださってありがとうございます。まだ、組織自体ぎこちないのですが、おかげさまで何とかなりそうです」

 エメリーヌがミラとアデライドに向けて頭を下げる。

 横で慌ててポレットも続いて首を垂れる。


「新世界も人が少ないのに良く乗り切ったわ」

 ミラがにこりと笑い二人を褒める。

「えぇ、本当にご心配をおかけしました。まだ世界自体も不安定ですし、どうなるか分からない状況ですが、レインニール様が研究員の方を派遣してくださってとても助かりました」

「陛下。一研究員に敬称は不要です」


 それまで黙っていたレインニールが口を挟む。

 皆は紅茶を飲んでいたが、彼女だけ色の濃いスムージーが幾種類も用意されていた。

 やや険しい顔で、三杯目を飲む。


 四人はその様子をじっと見つめる。

 その視線を浴びてもレインニールは表情一つ変えない。


「レインニールのおかげで影響は最小限度に抑えられたわ。ありがとう」

 ミラは礼を言う。

「私は私のできることをしたまでです。直接、相手と戦ったわけではございません。労をねぎらうならポレット様を」

「いえ、私なら大丈夫です。聖女王として責務を全うしたにすぎません。レインニール様は私を援護してくださいました。私が憂いなく動きやすいように取り計らってくださったのでしょう?」

「さて、どうでしょうか」


 スムージーを何とか飲み干し、デザートに手を伸ばそうとするとすかさずアデライドが具沢山のスープをレインニールの前に置いた。

 非難するようにレインニールが睨んだが、アデライドは素知らぬ振りをした。

 仕方なしにスープを口に運ぶ。


 おかしな攻防を繰り広げるのを他の三人は眺める。

「陛下、こちらのスープはレインニール専用ですから我慢してください」

「そういうことじゃないわ」

 物欲しそうにしていたわけじゃないとミラが拗ねる。


「フロランとリウから報告を受けたのよ。2.3日に一回しか食事を取ってないって」

「身体機能には特に問題ありません」

 レインニールが反論するが、アデライドは軽蔑するような瞳を向ける。

「そういう問題じゃないです。良い大人なんですから、食生活くらい管理してください」


 アデライドは深くため息を吐く。

「確かに、食事を取る暇もなく対応してくださって感謝しています。けれど、そのために体を壊したとあっては我々も穏やかではいられません」

「レインニールの悪い癖ね。一つの事に集中すると他がおざなりになるのは」

 ミラの指摘にレインニールは反論できない。

 彼女を評するなら研究員気質ということだろう。没頭すると食事から寝ることまでどうでもよくなってしまう。

 フロランとリウに口酸っぱく言われているので身に覚えがありすぎてたじろいでしまう。


「レインニール様にお会いする際は、栄養があるものを持参するようにいたします」

 ポレットはアデライドの言葉を真剣に受け取った。

 絶望を感じてレインニールは眉を寄せたが、断りはしなかった。

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