第14話

 更新が滞り申し訳ございません。

 訪問ありがとうございます。

 もう少しだけ猶予ください(泣)


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 その衝撃は唐突だった。

 昼を幾らか過ぎたころ、研究機関の支部では打ち合わせが終わった。

 研究員は交代で夜も勤務する。昼間は比較的全員揃うことが多いので、会議などはその時間に行われることが多い。


 微かに天井が音を立てた。

 リウは何処から音がしたのか探すように見上げる。

 壊れた様子は感じなかったが、目に見えない亀裂があるのかもしれない。業者を呼ぶか悩んでいたところ下から突き上げるような揺れに襲われた。


 けたたましく警告音がなる。

 地震?

 しかし、すぐに否定する。

 地下に眠る岩盤の動きで起こる地震が起きるはずはない。


 支部はもともと、現聖女王ミラが候補時代に試験を受ける場所に造られた。

 そのため聖女王の加護があり、外的要因での振動が伝わることはない。


 地震でなければ、これは何なのだ?

 リウは周りを見回す。

 室内にいた研究員たちは慌てて机の下に潜り込んでいた。

 扉の近くにいるものは大きく開け、逃げるための道を確保する。


 自分の身を守るのが優先だが、ふと気になり振り返る。

 そこには立ち上がり自分の机に両手を付いたまま、ピクリとも動かないレインニールがいた。

 何か宙の一点を厳しい目で見ている。

 揺れのせいなのか、ふわりと銀髪が浮かんでいるような気がした。


 まさか、本当に外的要因で揺れているというのか?

 あり得ない、とすぐに否定するが、その言葉をあざ笑うかのように支部全体が大きく横に揺さぶられる。机の上にあったものが落ちるとともに机自体も大きく音を立てる。

 もしものためと床と机を器具で留めていて良かったと安堵する。


 やがて、振動が小さなものになっていく。

 2,3度大きな揺れが抵抗するように起きたが、潮が引くように止まった。

 ただ、警告音だけが鳴り、呆然としてしまう。


 リウは我に返ると、声を上げる。

「至急、全員、外に避難を!」

 弾かれたように研究員たちが立ちあがる。

 いつまでも室内にいるのは危険だった。

 建物が崩れることはないと思うが、万が一のことがある。

 研究員たちの命を守るほうが先であった。


「レインニール様!」

 動きを止めた彼女はいまだ同じ姿勢のまま、何かを必死に探っているようだった。

 リウはレインニールが普通の人間とは違う感覚を持っていることに気が付いているが、詳しいことは知らない。

 ただ、そのために礎や聖女王に呼ばれることがあると認識している。


 瞬きさえもしなかったレインニールがせわしなく周囲を確認する。

 それは室内を見ているのか、はたまた違う場所を見ているのかリウには分からない。


 常識的に考えて、ここは避難するところだ。

 レインニールが留まるというのなら、強制的に連れ出すべきだ。

 分かっているのに立ち尽くすことしかできない。


「リウ」

 思いのほか、小さな声でレインニールが呼びかける。

 主に飛びつく犬のようだと胸の内で自嘲しながら、呼ばれたことに喜びを覚える。

「ここにいます。皆には外へ出るように指示をしています」


 レインニールはわずかに顎を引いて、了解している意思を示した。

 視線は合わないので、意識のほとんどはここではないどこかへ向けられていると察した。


「暫く、ここを任せる」

 身を翻すと廊下へ出る。

 突然の行動にリウは意味が分からず、縋るようについていく。

 行き先は外ではなかった。


 誰もいない廊下は静かでただ、二人の足音だけが響く。

「聖域に侵入者があった。恐らく、攻撃を受けている」

 横でリウは息をのむ。

 そんなことが起こるはずはない。聖域を攻めようと考えるものがこの世界にいるはずはない。

 まさか、とレインニールの顔を確認する。


 いつも冷静な彼女の顔が青ざめている。

 レインニールの深刻な表情に絶望が押し寄せる。

「分からない。ただ、聖女王と礎に危機が迫っている。助けに行きたいがそれよりも」

 リウはレインニールが気にしていることが分かった。


 支部には試験当時、聖女王候補が祈りを捧げていた広間がある。

 今もそこは毎日、清められいつでも使えるようになっている。

 二人が歩いている道の先に大きな扉が現れた。


「誰も近づけさせるな」

 レインニールは暫く、ここに籠るつもりらしい。

 聖女王の力を持たない彼女にどこまでできるのか不安が付きまとう。

 下手すれば、彼女自身がもたない。


 迷わず、部屋に入っていくレインニールの腕を強引に掴む。

「レインニール様、良いですか?無茶はしないでください。一日、一日だけ我慢します」

 暫く睨むようにリウの顔を見つめる。

 やがて、短く息を吐いて三日だと告げると扉を閉めた。


 三日。

 食事なし、睡眠なし、人として当たり前のことが出来ない状態で耐えられるギリギリのところだろうか?


 リウは踵を返す。

 それまでに、支部の復旧と現状把握、聖域状態や振動による世界の影響、レインニールが三日後どのような健康状態になっていても介抱できるように準備もしなくてはいけない。

 聖域が使えないなら、代わりにここがその役割を担わなければならない。


 聖女王が力を使えないもしもに備え、レインニールがその力を使うのだろう。

 それができる彼女はいったい何者なのだろう。

 浮かんだ疑問はここに来てからずっとある。問いただす勇気はない。


 昔、同じく疑問を持った地の礎がレインニールをひどく傷つけたらしいことは聞いている。

 だからこそ、言葉にすることが出来ない。


 ゆっくりしている暇はない。

 研究員たちが集まっているだろう外へ、リウは駆け足で向かうのだった。

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