第7話
あたしは週二回、休むことなくアトリエに通った。伝書鳩のような律儀さで時間にも遅れることなく、きっちりと。
他の部員らは江崎が部屋にいる間は雑談も控えている。いつでもどこでも彼は破格の扱いを受けているように見えた。彼の絵のモデルであることが誇らしかったが、周りにはそんな気配を見せなかった。本音で言える相手はなぜか、かれんさんだけだ。
しかし、どんなに通っても恋が芽生える気配は一向にない。アトリエに行く、黙々とモデルをする、静かに珈琲を飲む、またモデルを続ける、アトリエを出るという流れだけだった。
江崎は必要なことしか喋らないし、珈琲を淹れたり片付けなどの雑用は柘植尚人の領域で、あたしがつけいる隙はなかった。
そうこうしているうちに秋も去り、クリスマスが近づいてきた。絵も仕上げの段階に入り、焦りがしだいに募っていく。
「クリスマスまでに絵は完成しますから楽しみにしてくださいね」江崎の言葉が頭の中でこだまして、何か手立てがないものかとモデルをしている最中も悩まされた。
たまにマリと講堂や学食で話すこともあったが、恋愛相談に協力するつもりがないのだから、つれなくするしかなかった。光源氏みたいな男があいだに入ると、女の友情なんてハムより薄いかもしれない。紫式部も幾人もの女たちとの源氏争奪戦をつらつらと書いていたではないか、それが恋愛事の世の常だと言い訳したりもしていた。
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