第21話 旅の終わり

 メーウブ帝国の国境を超えて、私たちはリムサフス王国まで辿り着いていた。


 帝国には、とても短い期間だけ滞在した。幸運なことに、短い期間でヴァルタルは秘宝を入手するという目的を達成することが出来たらしい。


「……」

「……」


 リムサフス王国に入ってから、ヴァルタルとの会話が少なくなっていった。私は、旅の終わりを感じて憂鬱な気分だった。いつ、彼から別れを切り出されるだろうか。私の方からは、何も聞けなかった。


 馬車の中から、ボーッと外の風景を眺めるだけ。リムサフス王国は、自然がとても豊かな土地だった。穏やかでのびのびとした気候。とても生活がしやすそうだな、と私は思った。


「今日は、ここで一泊しようか」


 自然の中にポツンと建っていた宿屋の前で馬車が止まって、一番最初に建物の中へ入っていくヴァルタル。


「お嬢様、お手を」

「ありがとう」


 メイドに補助してもらい、馬車から降りる。そして私も宿屋の中へ入っていった。


「ルエラ」

「え?」


 先に建物の中へ入っていたヴァルタルが、私のそばに近寄ってきて名前を呼んだ。彼は、とても真剣な表情だった。


「今夜、君に話したいことがある。だから、起きて待っていてくれると嬉しい」


 あ。とうとう来たんだ、という気持ちだった。彼のお願いを聞いて、私は頷いた。


「はい。お待ちしております」


 私は、笑顔で返事をすることが出来ただろうか。私の答えを聞くと、ヴァルタルはアネルたちが居る方へと歩いて行った。今後の予定について話し合うのかな。


「準備しないと」


 最後の別れは、ちゃんと身を清めてからにしたいと思った。ヴァルタルと約束した夜に向けて、水浴びをして身体を洗い、メイクをして、綺麗な洋服に身を包み準備を整えた。


 メイドたちに手伝ってもらって準備を整えた後、部屋で1人になってヴァルタルが来るのを待った。




 太陽が隠れ、月が姿を現してしばらく経った頃。扉が、トントンとノックされた。ヴァルタルが部屋に来た。


「ど、どうぞ」

「失礼する」


 ヴァルタルが、部屋の中に入ってきた。彼も1人だけだった。


「すまない、待たせたかな」

「いえ、全然大丈夫です」


 ぎこちない会話だった。もっと親しく会話できていたはずなのに、緊張して会話がおぼつかない。


「……」

「……」


 2人とも沈黙する。ヴァルタルに顔を見られているような気がした。私は、彼の顔を見ることが出来ずにうつむいている。しばらく、静かな時間が流れる。


「君に、話したいことがあるんだ」

「はい」


 私は顔を上げて、彼の言葉を聞く。珍しく緊張している様子のヴァルタル。そんな彼の声を聞いて、ちょっとだけ余裕が出てきた。


「その、だな。えーっと……」

「ヴァルタル様が私に話したい事とは一体、何でしょうか?」


 私が聞き返すと、彼は覚悟を決めたような表情に変わった。とうとうこの時が来たと、私も覚悟を決める。だが。


「ルエラ、俺と結婚して欲しい」

「……え?」


 予想外の言葉を聞いて、私は変な声を漏らしてしまった。

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