第16話 あっさりと手に入った秘宝

「それが、ヴァルタル様の探していた秘宝なのですか?」

「そうだよ、ルエラ」


 彼の手のひらの上で透き通った青色に光る、小指の爪ぐらいの小さな玉が転がっていた。それが、彼らの探し求めていた秘宝らしい。


「とても小さい。本当に、これで願いが叶うのでしょうか?」

「みたいだね。これを握りしめて、頭に思い浮かべて願うと効果が発動するらしい」


 ヴァルタルは私に、発見した秘宝を見せてくれた。見せてもらった後、彼はそれを失くさないよう小袋の中に入れると丁寧に胸元へしまい込んだ。


 入手してから、誰にも奪われないように肌身離さず持ち歩いているようだ。


 思っていたよりも、簡単に秘宝を見つけてきたヴァルタルたち。どうやら、各地で集めた情報から辿り着いた遺跡を捜索して、発見に至ったらしい。


 そのアイテムを使えば様々な願い事が叶うという。グレムーン王国の貴族として、そんな大事な物を他国の人間に持ち出されようとしているのは止めるべき、なのかもしれない。


 それは王国の土地で発見した物だから、王国の人間の物とも言えるだろうから。


 けれども私は婚約を破棄されて、ロウワルノール家からも追い出されてしまった。ただの小娘でしかない。グレムーン王国との関わりは、断たれてしまった。だから、彼には何も言わなかった。


「それじゃあ次は、メーウブ帝国に行こうか」


 実は、秘宝は世界各地に複数個あるらしい。ヴァルタルたちは情報を集め、何個も秘宝を手に入れるつもりでいた。グレムーン王国での捜索を終えると、次はメーウブ帝国に行く予定を決めたらしい。だが私には、気になることがあった。


「メーウブ帝国は今、戦争の準備をしていると噂になっていたと思いますよ。危なくありませんか?」


 ヴァルタルたちの強さを知っているから、旅をするだけならば問題は無いと思う。だけど、戦争に巻き込まれてしまうと危ないかもしれない。私は、貴族である一部の人間だけしか知らない情報なども包み隠さずヴァルタルたちに伝えた。本当ならば、他国の人間に流出させるとマズイ情報なども。


 それだけ、ヴァルタルたちのことを信用していた。まだ、彼について詳しい素性は知らない。私も、ヴァルタルたちにはロウワルノール家の令嬢であったことを話していなかった。家から追い出されたことも。お互いに、そういう話をしてこなかった。いつか、話さないとイケないと思っているがタイミングを逃していた。


「それは、おそらく大丈夫だと思う。まだ、しばらくの間はメーウブ帝国が他の国へ戦争を仕掛けることは無いと思うよ。あと、半年ぐらいは安全だと思う」

「そうなのですか?」

「あの国は、占いの結果などを参考にして政治をしているからね。その占いで、特定の時期は戦争するのを止めておいたほうがいい、というのがあるらしい」

「なるほど。そのような時期があるから半年ほどは大丈夫、ということですか」


 メーウブ帝国について、詳しく教えてくれたヴァルタル。冒険者として、そういう知識も豊富らしい。彼は今までグレムーン王国だけでなく、メーウブ帝国も旅をしてきたのだろう。


 ということで次の目的地が決まった。とうとう私は、生まれ育ったグレムーン王国から旅立つことになるらしい。


 生まれて初めて他の国へ行くことになる。ワクワクして、とても楽しみだった。

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