第4話 手助けしてくれる人たち

「ルエラお嬢様、こちらに」

「え?」

「旅の準備を」

「あぁ、そうね」


 母親からも捨てられて、呆然としていた私にメイドの1人が声を掛けてきた。


 彼女は、私が生活している部屋まで案内してくれた。これから私は家から出ていくことになる。その準備をしないとけいないのか。


 そのメイドは、私がすぐに屋敷から出ていけるようにと、ロウワルノール家の当主である父親から指示されたのだろう。


 それなら、旅の準備を終えてしまうと後は追い出されて1人にされるのかな。そう思って私は不安になった。けれど……。


「お嬢様、忘れ物はないように。ここを出たら、二度と戻って来られないと思いますから。何か必要なものがあれば、お申し付けください。私が代わりに取ってきます」

「ありがとう。とりあえずこれで準備は十分、……だと思う」


 旅をする予定なんて無かった。だから、準備なんて何が必要なのかすぐには決められない。それでも適当に目に付いたもの、着替えなどカバンの中に詰め込んでいく。おそらく色々と不備があるだろう。けれど、そうも言ってられない。スピード勝負。


「大丈夫ですか? なら、行きましょう。コチラです」

「どこに行くの?」

「馬車を用意しています。それに乗って王都の外へ」

「わかった。ありがとう」


 ヘンリー王子や両親たちと違って、メイドたちは私をかなり丁重に扱ってくれた。それは、貴族の娘だからという理由もあるのだろうけれど雇い主は父親だ。しかも、家から追い出される未来の無い小娘だというのに世話を焼く理由がない。どうして、こんなに優しくてくれるのだろうか。


 以前と比べて、より一層手厚く大事に扱われているような気がした。もしかすると彼女たちは、私のことを哀れに思っているのだろうか。不憫だと思う気持ちで、私のことを助けてくれているのかな。そうだとしか思えなかった。


「ルエラお嬢様をお連れしました」

「よし。荷物は?」

「こちらに」

「これだけ?」


 馬車置き場には、何人か使用人たちが待ち構えていた。メイドが運んでくれた私の荷物を受け取りながら彼らは会話している。私は、ちょっと離れた場所で彼らの様子を観察していた。


「お嬢様、忘れ物は無いですか?」

「え? えぇ。他に必要なものは無いと思うけれど……」

「了解しました。旅の道中、必要な物があれば遠慮せずにおっしゃってください」

「えっ? そうなの。ありがとう」


 やはり、とても気を使われている。


「さぁ、乗ってください」

「分かったわ」


 使用人の男性に補助されて、私は馬車に乗り込んだ。使用人やメイドたちが何人も同行するようだった。


「彼らも一緒に来るつもりなの?」

「はい。ルエラお嬢様と一緒に」


 同行するという彼らの顔を眺める。その集団の中には、父親の右腕として活躍している優秀な人たちも居た。


「アネルやジーモンも、私と一緒に旅を?」

「はい」

「でも、貴方や彼らは他に大事な仕事があるんじゃ……」


 私を屋敷から追い出すだけ。そんな簡単なお仕事に割り振る人材じゃない。何処に連れて行くつもりなのか知らないけれど、王都から出たらポイッと捨てるだけだろうに。


「大丈夫ですよ。我々は、お暇をいただきましたから」

「え!?」


 ロウワルノール家の使用人を辞めた、と彼は言った。どういうことなのか、すぐには理解できない。


 まるで、私のために仕事を捨ててきた、というように聞こえた。聞き間違いだろうか。


「ここに集まっている者たちは、ルエラお嬢様の幸運に助けられた者たちですよ」

「幸運? でも私は、災厄の存在だって……」

「一部では、そういう風に言われているようですね。ですが我々は間違いなくルエラお嬢様が幸運の女神である、ということを信じていますよ」

「いや、そんなことは……」


 幼い頃から災厄の存在だと言われ続けてきた。幸運の女神だなんて、初めて言われた。


 自分が不運を振りまく災厄の存在であるという自覚はない。その逆に、幸運の女神だと言われる自覚もなかった。運という不確かな存在に振り回されている。


 結局のところ、私はどういう存在なのか……?


「それじゃあ、出発しますね」


 自分のことについて悩んでいる間に、馬車は出発してしまった。まだ行き先は知らない。

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