あなたしか居ないのです。
「絶ッッッ対に認めんぞ……!! リアムと結婚など!!」
「僕もはんたーーい……!」
「私からも何度も考え直すように言ったのですが……」
「紫音様はあの男に騙されているのではないですか……!?」
金髪碧眼の、この国のトップになった若き国王と、
この国一番優秀な、腹黒ショタ魔法使いに、
口は悪いが根は優しい緑髪片眼鏡の宰相、
大国とも渡り合える短髪筋肉剣士は、
今日も今日とてくだらない集まりを開いていた。
転生者、〈轟 紫音〉が、レムファー王国の悪役公爵に「結婚して下さい──!!!」と、求婚してから1ヶ月が経とうとしている。
「はぁ……………、今日もなのね……」
「全くなのです……!」
「えぇ、本当に……」
「どうしてこうなっちゃったのかしらね。」
と、女4人(内幼女1人)、
こちらも今日も今日とて頭を抱えていた。
幾人もの猛者共を押し退けその場所を勝ち取った、レムファー王国現国王の正式な婚約者である金髪金眼の女、
この国一番の魔法使いにライバル心を燃やす、二番目に優秀な魔女っ娘、
男爵家私生児で虐げられながらも、その頭脳で官僚まで登りつめた地味で恥ずかしがりやな女性、
幼き頃、小さな剣士に『おおきくなったらおれとけっこんしよう……!』とプロポーズされた伯爵家の長女。
転生者、〈轟 紫音〉と最初に打ち解けたのは彼女らであった。
紫音の完璧に作り上げられたボディに、国王の婚約者の女性が最初に目をつけた。
より高次元の美を求めていた彼女は、紫音に初めて会ったとき、「どんな努力をされてますの?」と思わず聞いたが、どうせ返ってくる答えは
「いえいえ、努力なんて、そんなだいそれた事していませんよ」とか、
「貴女様ほどではないですよ」とか、
「全然何もしてないですぅ」とか、今回もそんな答えだと思っていた。
けれど、紫音はしっかりと「いやー、色々し過ぎて話が長くなりますよ」と真っすぐ目を見て言ったのだ。
それで彼女のことが気に入った。
その努力とやらを詳しく聞くと、騎士のように筋肉を鍛え、身体がしなやかになるよう筋を伸ばしたりと、大変なものだった。
なかでも驚いたのが、「誰かに見てもらうこと」だと言っていきなり脱ぎ始めたこと。
今では紫音をトレーナーに、女4人(内幼女1人)下着姿になり、筋トレするのがお決まりになっている。
日に日に変わっていく身体に、より自身が持てた。
しかし己の身体ばかり気にしていたら、いつの間にか婚約者の気が紫音に向いていた。
とても複雑だった。
確かに己の身体ばかり構っていて婚約者は放ったらかしだったが、この身体は婚約者である国王陛下に捧げる身、強くしなやかに美しくありたい、
『貴方に見せいたいから』
『貴方を悦ばせたいから』
そう思って鍛えていたのに。
幸いだったのは、紫音の気持ちがこの女4人の想い人に、微塵も向いていないことだった。
あろう事か紫音は、あの穢らわしい公爵を好いているという。
女4人にとってとても都合が良かったが、紫音は本当にそれで良いのだろうか?
たとえ自分の婚約者が紫音のことを想っていても、紫音は大切な友人であり先生だ。
この世界では長く生き、そして幸せになってほしい。
その前に自分達の将来を考えなければいけないのだが……。
恐らく今日も紫音は、公爵に逆プロポーズでもしている事だろう。
『あの娘みたいに素直になれたなら』と、今日も今日とて頭を抱える女4人(内幼女1人)だった。
「リアム様、もうそろそろお仕事終わりますか?今日も待ってていいですか?」
1日の業務が終わりそうな頃、彼女は彼の職場にやってくる。
「あぁ、」と一言答えるだけで、彼女はポッと顔を赤らめ近くのソファーに座るのだ。
外交関係の業務を扱う部署の端の端、そこに彼のデスクがあった。
端の端のわりには、公爵と言う立場に相応しいデスク。
レムファー王国にとって、外交全般は大変需要のある仕事だ。
人気も高く、常に憧れの的で、美男美女の名に恥じぬよう人件費も一番掛かっている部署。
人数も大変多い部署だが、その中で公爵の部下はたったの3人、しかもその3人も公爵家の人間だった。
誰も汚い仕事になど手を出したくない。
美男美女といえばの国であるため、男女年齢問わず平民が奴隷商に連れ去られる事がしばしばある。
誰がどこでどんな繋がりを持っているのか知る為には、この部署に身を置くのが手っ取り早いのだ。
先々代の時代から、もうずっとここに居る。
花形の職につくこの部署の人達にとって、リアムは格好の餌食だった。
蔑んだ瞳で『穢らわしい』と日頃の鬱憤を彼にぶつけていた。
(私自身が恐ろしいからか、面と向かっては言ってこないのだが……)
しかしここ最近──、リアムへの態度が変わってきた。
それは勿論彼女、〈轟 紫音〉のお陰だろう。
彼女が初めてのこの職場に来たときは、それはそれはもう大変な騒ぎだった。
紫音が、『我が国が誇るレム
紫音は、その姿を間近で見たことがない平民まで噂が届くほどアイドル的な存在であった。
別の世界の、全く違う感覚を持ち合わせたどこか儚げでミステリアスな女性。
そんな彼女が『うちの部署に来た!』ともなればそりゃあザワつくだろう。
『一体誰に会いに』
『それはどんな用事なんだ』
『もしかして私かも』
期待が渦巻く広い部屋をどんどん奥まで進み、私の目の前で足を止めた。
────「リアム様……! もうすぐ終わると聞いて会いに来ました!」
その後の皆の反応は予想通りだ。
リアムが出張で居ないとき以外、必ず紫音がこの職場までやってくる。
彼女の仕事のほうが、早く終わるのだ。
貴族の女性に何やらレクチャーする仕事らしいのだが、男性にはその内容は明かされていない。
彼女は、結婚するまでこの城に住まうことを義務づけられているため、仕事が終わり次第、庭園を散歩しながら他愛ない話をするのが日課になっていた。
リアム自身、たったそれだけの行為が毎日の楽しみになっていた。
素直に感情を表す姿や、分け隔てなく接する姿、目標の為に努力する姿、
もうとっくに、惹かれていた。
「…………貴女は、毎日毎日、こんな所へ来て、私なんかと話をして、本当に楽しいのですか?」
定時を迎え、部署の賑わいもまばらになった頃、
出された紅茶を片手にリアムを眺め、にこにこ微笑む彼女に聞いた。
「もちろんです。 私は貴方に会って、貴方の声が聴きたいんです。」
「はぁ……、そんなに言うほど大した存在ではありませんよ。」
「そんなことないです! 私大好きなんです、リアム様まるごと含めて大好きなんです! その吐息ももう最高……!」
「っ〜〜〜……」
何故そんな恥ずかしい台詞を堂々と目を見て言えるのか。
(まだ人が居るというのに……)
生まれた血筋のせいで、謙遜という名の否定が当たり前のリアムだが、紫音の答えがその斜め上を行き過ぎて困ってしまう。
彼女がリアムと結婚したいと言っているのは、本当なのだろうか?
「貴女には、もっと相応しい人が居ると思うのですが……」
「なぜ? それは私が決めることです。 私が、リアム様が良いっていってるの! だから、私に相応しいのはリアム様です。リアム様しかいません!」
「っそんなに、ハッキリ言われると……、その……」
「ッぁあーー!尊いっ……! 尊すぎて爆死しそうっ……!
たまこうやって暴走する紫音だが、こうなると大変だ。
止めるのに一苦労する。
「わ、分かったから、紫音、それぐらいに」
「そこで名前呼びはズルいっ……! はぁはぁっ、噂には聞いていたけどホント恐ろしい男……!」
「………、噂違いだと思うのだが?」
「そんなこと無い! だって……、私っ、リアム様に囁かれるのを想像しながら、毎晩ひとりで──、」
「ちょ、紫音……! それぐらいで止めようか!?」
「──ゴクン、」とまた、いつかのように、まばらに残った男達の生唾を飲む音が聞こえた。
毎晩ひとりで何をしていたのかと続きを期待している部署の男達に、「終わったならさっさと帰れ」とリアムは一言。
それで紫音が落ち着くのを待とうと思ったのだが、「その低くて強い口調もぞくぞくしちゃう……! 私のことも叱って下さい……!」とどうやらまた発情させてしまったらしい。
熱い吐息と濡れた唇、そんな
リアムも紅茶をひとくち飲んで、「はぁ……」とひと息。
また背中をゾクゾクさせているだろう紫音には、今は目を向けないでいよう。
でないと本当に理性が飛びそうだ。
それから幾分か──、紫音の吐息が落ち着いてきたのでリアムは口を開いた。
「紫音、貴女は、本当に私と結婚したいのですか?」
1ヶ月程前のあの日から、会う度にプロポーズされるリアム。
リアム自身、何度も何度も考えて、決心した。
「はい……!」
真っ直ぐな気持ちと瞳。
疑うはずも無いが、やはり今までの事があるから少し不安だった。
「分かりました。 私も、いつの間にか貴女を愛してしまった。 紫音、私と、結婚して下さい。」
「 !! 」
「但し、半年の婚約期間を経た後に、正式な婚姻を結びましょう。」
「何でですか! 今すぐ結婚したっていいじゃないですかぁ!」
「早く抱いてほしいのにっ……!」とまた訳のわからない暴走を始める紫音に、「貴族の結婚はそう簡単じゃないんだよ」となだめた。
紫音の言葉の通り、この国では婚約中は誰であろうと身体を許してはいけない。
それがいずれ結婚する相手だったとしても。
相手の為だけに捧げると言う意思表示と、初夜の日に身体を美しく作り上げる為だ。
元々見た目が美しい人間ばかりのこの国では、婚姻の際『努力』や『貴方の為だけに』と言う意思表示が重要になってくる。
とすると、陛下とその婚約者は相当我慢しているということだ。
「貴族の結婚はそう簡単じゃないんだよ」と言っておきながら、本当は紫音に期間を与えるためだ。
出逢ってからまだ1ヶ月も経っていない。
人の情熱と言うものは3ヶ月程で冷めてくるものだ。
時間が経てば、きっとリアムへの熱も冷めるだろう。
因みに半年にしたのは、自分の性欲を我慢できる期間が半年が限界だと思ったからだ。
「でも恋人になれたのなら良いっ……! 早速デートして下さいっ……!」
「あぁ、そうですね。 何処に行きたいですか?」
いつか覚める夢ならば、覚めるまで存分に楽しもうと決めたリアムだが、覚めない夢もあるのだと気付くのは、
また別のお話───。
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