無題(Under The Twilight)

@ayumi78

無題(Under The Twilight)

「こっちを選んだのは失敗だったなあ。いくら近道とはいえ、こっちは【多すぎる】よ」

俺はぼやきながら道を急ぐ。

何故【多すぎる】と思ったか?

俺は【視える】からだ。この通りには、いわゆる霊ってやつが沢山いる。地縛霊なのか何処からともなくやって来たのかは知らないが、とにかく【いる】のだ。

「今日に限って、清めの塩も忘れたし。ついてないなあ……」

とりあえず念仏を唱えるが、ビクともしない霊もいる。宗教の違いなのか、それとも強力な霊なのかは分からないが、本当に厄介だ。

と、霊のうちの一体が、俺の存在に気付いたらしい。威嚇するように、こちらに向かって進んできた。手を顔の近くまで上げ、伸びた爪を俺の方に向け、ニヤリ、と笑う。

これはかなりヤバい状況だ。このままではやられてしまう。何とかしなければ、と思っても、足首を他の霊に掴まれ、動く事すら出来ない。あ、もうダメかな、と思っていたら、「助けたろか?」とのんびりした声が聞こえた。

え?頭上?

見上げると、そこに少年がいた。どこにでもいるような少年だが、右手手には大きな鎌を持っている。左手には鳥籠よりも一回り大きな籠。中には薄青い光を放つ丸い物体がいくつもひしめいている。

「いや、だからな、助けて欲しいんやろ?あんた」

「あ、ああ、助けてくれるなら嬉しいが、君は一体何者なんだ?」

少年はニヤリと笑うと、「死神や」と言って、地面に足をついた。

霊達は少し怯んだように見えたが、俺を攻撃しようとした霊は違う。少年の方を見ると、馬鹿にしたように鼻を鳴らした。そして凄い速さで少年に向かって突進した、が、少年は「アホか」と言い放ち、霊に向かって大鎌を振り下ろした。


驚いた。死神って本当にいたんだ。

という事は……

「いやいや、あんたは連れていかへんよ。安心し」

ボクは無理やり生きてる人間の魂を刈り取ったりせえへん。ボクの仕事は、これから死にゆく魂とか、こんな風にさまよってる魂を連れて帰ることや、と、死神は言う。

「そ、そうなのか?」

「当たり前やろ」と、さっき刈り取った魂を籠に押し込みながら、死神は呆れたように言った。

「てか、こいつしぶといな……は、よ、は、い、れ、や!」

ややあって、ようやく魂を籠に詰め込んで、死神はふう、とため息をついた。

「あ、そうそう、あんた」

「……なんだ?」

「あんまりこの辺通らん方がいいよ。見えるんやろ?そういう奴に、こいつら寄ってくるから」

「分かった。ありがとう」

「今日はたまたまボクが通ったから良かったけどな」

じゃ、と言い残し、死神は地面を蹴って宙に浮く。そしてそのまま姿を消した。

もう、霊達の姿は見えない。さっきの出来事で怯えて消えたんだろう。

さて、俺も急ぐか。

ありがとう、風変わりな死神。

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