CORE

気体仮面

Prologue

0-1「発生」

 大雨の中、男は、傘も差さずフラつきながら歩いていた。人通りの少ない道が、転びそうなほどに蛇行している彼の奇怪さを強調する。

「もっと…浴びないとォ…」

 浴びないと。雨のことを指しているのだろうか、男は腕を広げ、仰け反り、喚く。

「あァ…浴びなきゃ…洗わないとォなあ」

 男の喚きは次第に大きくなっていき、その様子も異常さを増していく。

 先程までは雨を浴びているだけだったが、その腕や足から何かを洗い流そうと擦っている。男が擦った箇所からは、何か、黒い液体が溶け出していた。

「汚い汚いキタナイキタナイキタナイキタナイキタナイ」

 体を擦る速度は次第に速くなっていき、溶け出す液体も段々と濃く、ドロドロとしたものになっていく。

 男から溶け出すその"泥"は男の足元に溜まっていった。そして。

「ァああっ⁉︎」

 男が転倒。転倒した男は足首から下が無くなっており、その断面からはあの泥が流れ出していた。

「ああァ…」

 男は、転んだのを皮切りに、背中から急激に溶け出した。脳まで溶け出しているのか、もはや喚きもしなくなり、ただ口をパクパクさせているだけだった。そして、その顔さえも泥に飲まれていく。

「い…いや…だあアァ…」

 男の叫びも虚しく、やがて完全に泥に溶け出してしまった。雨に流され、下水道へと流れていく。

 その泥はまるで地上に這い上がろうとするようにうごめいた後、奈落へと引きずり込まれていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る