5話 戦闘!魔族
「敵がモンスターテイマーだなんて、どうして分かるのですか?」
極夜の森を、俺は聖女を抱えて走っていた。
「一つ、フロストグリズリーが罠に掛かってからしばらくの間罠が作動しませんでした」
「それが、どう繋がるのですか?」
「フロストグリズリーは非常に知能が低い魔物です。森に罠があったとしても、仲間にそれを知らせるという発想に至るはずが無いんです」
「……なるほど、しかし相手は途端に罠を警戒した。伝達を受けずとも知覚を共有する手段があったと?」
「そういうことです」
俺達が今回の奇襲を事前に察知している事は考慮していない、あるいは考慮していたとしても、察知していないという前提で動くはずだ。なぜなら俺達が敵の動向に気付いた時点で奇襲は奇襲として機能しなくなるからだ。
(警戒する必要のない罠を警戒したんだ、敵はフロストグリズリーが罠に掛かったことを知ることができる魔族に限定される)
これが群れで行動する魔物だったら厄介だった。
例えばゴキブリは、危険な場所では警戒フェロモンと呼ばれる化学物質を分泌して仲間に危険を知らせるという。最初の罠に掛かったのがその手の魔物だと、敵の特定に苦労したのは間違いない。
「相手が、モンスターテイマーである根拠は分かりました。しかし、罠は複数点で同時に作動しているんですよね? 私たちが倒すべき相手がどこにいるかは、どうやって絞り込むのですか?」
「絞り込む必要はありません」
「どうしてですか」
「罠が
相手はよほど頭が切れると見える。
たった一匹のフロストグリズリーが罠に掛かった時点で、俺達人族が今回の奇襲に対策を立てていると見抜いたのだろう。
「ここまで考え至れば、どうしてわざと罠に掛かり、こちらに位置情報を伝えたのかが見えてきます」
「まさか……誘導ですか?」
「十中八九」
まず間違いない。
「そして、俺が仕掛けた罠から逆算すると、敵が経由したルートが浮き上がってきます」
「そこまで考えて……」
「……そろそろ接敵すると思われます。警戒を」
走る、走る。
薄暗闇の森の中。
俺の考えが正しければ、敵はすぐそこにいる。
「……っ、いました」
「どうされますか?」
「聖女様はここに居てください。俺は奇襲を仕掛けます。まあ、警戒されているでしょうし、防がれるでしょうが」
「でしたら! 私もつれていってください!」
「……はい?」
何を言ってるんだ、この聖女は。
「魔族と、真正面から戦うことになるかもしれないのでしょう? 魔族は人より身体能力が優れているのでしょう? でしたら、私も共に戦います!」
「聖女様、しかし」
「勇者様は私を守り抜くと言いました。私も同じです。私にもあなたを守る義務があります!」
――足手まといだって、
言われないと分からないですか?
言い掛けた言葉を飲み込んだ。
それは
俺が掛けるべきは……。
「俺は、聖女様を守り切れないかもしれません」
「それでも、私も共に……!」
「……しっかり捕まっていてください」
くそ、どうなっても知らねえぞ。
*
「待て、魔族」
俺は魔族に声をかけた。
奇襲は諦めた。聖女を抱えて切り込んだところで、手痛いカウンターを受けるのが関の山だ。
「ここから先には通さない」
「……はて? 何の事でしょう? 私は人族ですよ」
「惚けるな。お前も情報が筒抜けだってこと分かってんだろ?」
無意味な腹の探り合いに付き合う気は無い。
そんなサブテクストを言葉に乗せて、俺は魔族に投げかけた。
返ってきたのは、不吉な笑い声だった。
「く、ふふ……、くふはははは!」
「何がおかしい」
「おかしいさ……、どうして今回の奇襲作戦をあなた方が察知しているのですか。どうしてこの広い森から私の居場所を突き止められたのですか。おかしい、おかしいのですよ」
「人は、お前が思っているほど愚かな種族じゃないってことだ」
「く、ふふ……、ふひ。いいですか、あなた達は私に挑んではいけなかった。なんと言いましたか、ええ、そうです。『飛んで火に入る夏の虫』という奴です。自らの愚かさを、思い知るといい!!」
魔族が迫りくる。
人基準で行けば、とても速い。
が、こちとら諜報活動を何年も行ってきたんだ。
ある程度は目も慣れている。
聖女と魔族を結ぶ線分上に割り込むよう足を運ぶ。
「はぁぁぁぁっ!」
魔族が、俺の間合いに割り込んだ。
瞬間、抜刀。一筋の剣閃が迸る。
「おっと、危ない」
「っ!」
クロスカウンターを狙った抜刀術。
しかし、どういうことか。
俺の一刀は、何故か魔族に届いていなかった。
「«
「ごぶっ!?」
「うおおおぉぉぉっ!!」
剣を持たない左手で風魔法を放つ。
威力は大したことないが、隙を潰すには十分だ。
振り抜いた剣を膂力で無理やり切り返す。
今度は、魔族の喉を確かに切り裂いた。
(生物を殺す感覚は、いつまでも心地悪いままだな)
そんな事を思いながら、納刀し――
「危ない危ない。危うく三途の川を渡るところでしたよ」
「……っ、お前、なんで」
「『殺したはず』、ですか?」
――すぐに、鯉口を切る。
ほどきかけた構えをすぐに戻す。
「その程度じゃあ、まだまだ死ねませんねぇ」
確かに引き裂いたはずの喉。
現に、吹きこぼれた血は彼の衣服に付いたままだ。
幻覚なんかじゃない、だが確かに、そこには――
「……不死身かよ」
――傷など負った様子の無い魔族が、歪な笑顔を浮かべていた。
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