springtime of life

景浦 為虎

springtime


私には好きな人がいます。

同じクラスのタクヤくんです。

タクヤくんと過ごしていると私って青春してるかもって思います。

お姉ちゃんは

「小学生のアンタには青春なんて早いわよ。青春のリアルなんて知らないのに青春だなんて言わないの」

と言いますが、高校生のお姉ちゃんは青春のリアルを知っているのでしょうか。

私は青春のリアルを知っています。

青春ドラマみたいに簡単に手を繋ぐことはできないし、ましてやキスなんてできない。目が合えば好き。会いたいと思うのならそれは恋。それが青春のリアルなのでしょ?

でも、お姉ちゃんは違うというのです。

「手なんて簡単に繋げるわよ。キスなんてしてる奴らはわんさかいる。目が合うのなんてただの偶然。目が合っても好きじゃない事だってあるのよ」

恋なんてリアルから一番離れた感情よ。

そう言ったお姉ちゃんはとても悲しそうでした。


◇◇◇


最近妹に青春のリアルについてよく聞かれる。

小学生が青春のリアルなんて考えるものなのだろうか。

妹のリアルは、青春の白昼夢でしかないように思える。

好きな人と手を繋げれれば、キスができれば、両想いであれば青春しているとでも思っているのだろう。

青春はそんなにキラキラしたものじゃない。


◇◇◇


今日はタクヤくんといっぱい面白い話をしました。

昨日のテレビの話。

先生が廊下でコケた話。

今日の体育の話。

何気ない話でも、とても楽しかったです。

何気ない話が楽しく思える事が青春のリアルなんでしょ?

そうお姉ちゃんに尋ねると

「確かにそうかもしれないけど、そんなに優しいものじゃないわよ」

と言って自分の部屋に入って行きました。


タクヤくんはいつもクラスの人気者です。

いつもはユミちゃんと話しているけど、今日は私と二人きりで話してくれました。

ユミちゃんはクラスで一番カワイイ女子です。

タクヤくんと話すとき、ほっぺがいつも赤くなってるユミちゃんは、タクヤくんの事が好きなはずです。

つまり、私のライバルです。

だから、私はユミちゃんに負けないように、タクヤくんといっぱい話していっぱい笑ってタクヤくんに気に入られるように努力しています。

タクヤくんが本当に好きです。

今すぐに会いたいです。

タクヤくんが好きだとお姉ちゃんに言うと

「なんでアンタはタクヤくんの事が好きなの?」

それは当然、人気者でスポーツができてカッコよくて勉強ができるからです。

お姉ちゃんは

「本当に理由はそれだけなの?それだけなら、クラスの他の人でも良いんじゃない?」

と言いました。

タクヤくん以外にもカッコよくて勉強ができてスポーツができる人はいます。

タケルくんです。

タケルくんはあまり人気者ではない気がします。

そして、私も好きだとは思いません。

「なんで、タケルくんじゃなくてタクヤくんなの?」

そうお姉ちゃんに聞かれたとき、私は答えることができませんでした。


◇◇◇


妹は青春のリアルの前に、恋のリアルを知っていない。

恋なんてものに答えなんてないのだろうけれど、なんでその人が好きなのか、その人との会話がなんで楽しいのか。それを答えられなければ恋と言えない気がする。

何となく好きで、何となくでその人と一緒にいたい。

それが恋だというのなら、恋はただの生理現象になるだろう。

この事実を妹はまだ知らない。

恋なんて空虚なものだと早く知ってほしい。


◇◇◇


最近、タクヤくんは私と二人きりで話すことが多くなりました。

タクヤくんから話しかけてくることも多くなりました。

これはいわゆる「脈アリ」と言うやつらしいです。

好きな人から積極的に話しかけられるようになる。二人きりの時間が増える。前より話が弾む。

マンガや小説では「脈アリ」のとき、そんな事が大体起こっているから、そう思うのです。

私はタクヤくんが好きで、タクヤくんは私が好き。

私はこの気持ちをもう抑えられません。

そう、告白をしようと思います。

でもどうやって告白しよう……。

「告白ってどうやってするの?」

お姉ちゃんに聞きました。

どうせ、お姉ちゃんは

「青春が何かもわからないアンタが告白ね……やめるべきよ」

と言うだろうけど。

でも

「告白ね……そりゃアンタの気持ち素直にそのまんま伝えるべきよ。好きですって。まぁ……」

そう肯定してくれました。

私は自身が湧きました。

素直に気持ちを伝えれば想いは伝わるのだと。

でも、

「やっぱりなんでもない」

と最後まで言ってくれなかった事が少しだけモヤモヤするけど。


◇◇◇


私は何を心配しているのだろう。

妹が告白をすることで青春のリアルを知るというのに。

私は何を心配しているのだろう。

必ずしも妹がフラれる訳ではないのに。

きっと、妹にはこの心配はどうやっても伝わらないのだろう。

私はイヤな姉かもしれない。

それでも、妹が傷つく事だけはあってほしくない。

妹よ、たとえリアルを知ってもどうか傷つかないでほしい。


◇◇◇


「私はタクヤくんの事が好きです。だから……」

付き合ってください。

私はタクヤくんにそう伝えていました。

そこには風の音さえもない静かな空間が広がっていた。

恥ずかしくてタクヤくんの顔が見れない。

きっと、私の顔は羞恥心と恐怖心で醜く歪んでいるだろうな……。

「いいけど、なんで僕なの」

タクヤくんの口から出た言葉はあまりに意外なものでした。

なんで僕なの。

それは……

理由が上手く見つかりませんでした。

「理由なんてどうせ無いんでしょ」

「……」

「じゃ、帰るよ?」

私はタクヤくんの背中を見ることしかできなかった。




私はお姉ちゃんにフラれたことをしっかりと話した。

顔をクシャクシャにして。

上手く喋れたかなんてわからなかった。

悲しかった。

寂しかった。

もう分からなくなりそうだった。


お姉ちゃんは少し黙って口を開いた。

「そう。フラれたのね」

そこには冷たい沈黙があった。

「青春のリアル、分かった?」

唐突にそんなことを質問された。

「わからないよ。そんなの」

「少しは考えてみなさいよ」

「フラれること」

「違う」

「悲しくなること」

「違う」

「バカバカしくなること」

「違う」

「じゃあ何なのよ!」

それはね。

お姉ちゃんはそう言って

「その人を今まで好きでいた気持ちと、愛なんて一生分からないと言う気持ちを嫌というほど知ることよ」

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