第15話 変態は剣よりも強し by天使
「お、丁度いいところに。おーい武蔵ー」
食堂から帰って来た
「どうした
「ちょっとこいつをどうにかしてくれ」
そう言って俺が
武蔵の木刀で成敗してもらおうと思ったのに、どうしたんだ?
「そう言えば昼休みは道場で鍛錬をしなければいけないのだった」
そう言いつつその場から逃げ出そうとしているようだが、それ以上に早く、まるで草原のハンターのように素早い動きで武蔵に飛びかかる
「むっさしさーん。相変わらずなぁんて柔らかくて大きなおっぱいですのー!」
「うひゃぁ!」
「あぁ、なんて可愛らしいお・こ・え。普段は凛として他者を寄せ付けない武蔵さんからこんな声が聴けるなんてワタクシはもう、もう……あぁぁ! もう耐えられませんわ! うえっへっへ。ここか? ここがええんか姉ちゃんよぉ?」
まるでエロ本に出てくる親父のようにイヤラシイ手つきで武蔵の豊満な胸を揉む
「あ、んん! ちょ、止め、止めろ。ん、あ、あぁ……」
「ん? 嫌や嫌やと言いつつ体は正直やのぉ。ほれ、ほれ、ほれ」
「んん!」
普段の武蔵からは考えられない、艶っぽい声に周囲の男子がちょっと前屈みになる。
凶悪な武器に惑わされがちだが、元々見た目だけで言えば
「あわ……あわわわわ!」
そして俺の横で
「おっほー。なんちゅースベスベで張りのある太腿! 流石に鍛えてるだけある最高じゃー」
「こ、こら! スカートに手を入れるな! 太腿触るなぁ!」
ひたすら凌辱され続ける
大切なクラスメイトが襲われているのだ。助けようと男子達が立ち上がる。
「ほぉら」
「ぁぁんっ!」
「「おっふ」」
しかし、俺達男子は
掌を下半身に添え、出来る限り周囲に見えないように置く。これで俺達は立つことはおろか、片手を封じられたことになる。
「クソッ! 俺達はなんて無力なんだ!」
「ぬふふ……さぁて、メインディッシュですわぁ」
無力感を嚙み締めている俺達をあざ笑うかのように、
クラスメイトが苦しんでいるというのに、俺達は何も出来ない。せめて、この光景を目に焼き付けて、悔しさを忘れないようにしなければ!
「うえっへっへ……おパンツ、行きますわよぉ」
「こ……の……いい加減に、しろぉ!」
一瞬の隙。
決まった。誰もがそう思った瞬間、
「甘い!」
「――なっ!」
「
「くっ……何と言う理不尽。これだから変態というやつは
そういえば、
「さあ! さあ! さあさあさあ! 諦めて快楽に身を委ねなさい! 最高の楽園へと連れて行ってあげますわ!」
「おのれ……変態め! 成敗してくれる!」
両手をワキワキと変態の構えを取る
そんな空気を打ち破るかのように、一人の少女が立ち上がる。
「む、むさしー! 頑張れー!」
「
「武蔵! そんな変態に負けるな! お前なら勝てる!」
俺も
「そうだ! 君の筋肉ならどんな悪漢でも倒す事が可能だ! 信じろ! 自分の筋肉を信じるんだ!」
「イエス・ロリータ・ゴー・武蔵! イエス・ロリータ・ゴー・武蔵!」
「デュフフフフ。我を倒したお主が我以外に負けるなど許さんぞ」
「行け武蔵。お前なら新しい
俺の言葉に便乗するように、クラスの男子達が一斉に武蔵を応援し始める。みんな必死だ。それはもう心の籠った、本気の応援だ。
「「む・さ・し! む・さ・し! む・さ・し!」」
「お前達……」
武蔵が俺達を見渡して、感動したように涙ぐむ。ついでに
――いいクラスだ。このクラスはいいクラスだ。
何度も何度もそう呟く
「あらあら……これじゃあまるでわたくしが悪者みたいではありませんか。全く、酷いクラスメイトですわね。そんな応援したところで、無駄ですのに」
「……ふ。そうだな」
まるで諦めたような声色。そんな武蔵を少しでも奮い立たせようと、俺達はさらに声を張る。
「「む・さ・し! む・さ・し! む・さ・し!」」
「例えどんなに私を応援したところで、先ほどの痴態を見た男子は全員記憶を消すまで殴打する。この事に変わりはしない!」
「「……………………」」
シーン。そんな先ほどまで騒がしかった男子の声が一瞬で止まる。先ほどまでの青春の一幕のような必死の応援は欠片も見当たらない。全員が絶望に顔を真っ青にして崩れ落ちていた。
それはそうだろう。俺達がこんなにも一生懸命応援していた理由のほとんどが、武蔵の艶姿を見てしまった事に対して許しを請う為だったのだから。
「……あれ?」
「だが、貴様という変態を倒す力を貰ったのも事実だ。だからな、少しくらい手加減してやることにした」
ふっ、と微笑みながら肩に木刀を担ぎ、格好良く言い切る。そのあまりの男前さに俺は自分が男だと言う事を忘れてキュンときてしまった。そして、それはどうやら俺だけではなかったらしい。
「姉御ぉ……」
絶望に沈んでいた顔を上げて、一人、一人と再び立ち上がる。
「「あ・ね・ご! あ・ね・ご! あ・ね・ご! あ・ね・ご! あ・ね・ご! 」」
「……姉御は止めろ。恥ずかしい」
そう言って顔を背けるその背中は、この学校の誰よりも力強かった。今の彼女ならどんな相手も負けはしないだろう。武蔵は手に持つ木刀の切っ先を
「さあ、決着といこうか
「……くっ」
その気迫は
決着の時が近い。このクラスの誰もがそう思った時、まさかの展開が巻き起こる。
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