第7話 ヒーローの告白
可愛い系が二人、美人系が一人。となるとやっぱり美人系にした方が盛り上がるな。いや、盛り上がるって言うならあえてブス専の藍ドルの名前を入れた方が……止めとこ。これで盛り上がられても俺の心が削られるだけだ。
ふと、未だ黒板に書かれていない女子について思い巡らせると、白髪の彼女の名前が浮かび上がってきた。
そうだな、どうせこのクラスの奴らは変態ばかりだし、少しくらい大袈裟に言わないとインパクトもなくスルーされかねない。やるなら一気にやらないと。
「あ、ちょっと待っ――」
「俺は
どうだ、言ってやったぜ。別にそこまで思ってるわけじゃないけど、これくらい言った方がみんな印象に残るだろ。
そう思って周囲を見渡すと、半ば茫然とした顔をしている者が大半だった。俺が連中の度胆を抜いたことに満足していると、その視線の先がおかしいことに気付く。
みんなが見ているのは俺ではなくその反対側、つまり廊下側の扉を見ていた。俺もその視線を追いかけ、そして固まる。
「あ……」
扉を開いた状態で固まっている、一人の女子生徒と目が合った。
女子禁制、男子達の花園であるこの空間なはずなのに、その禁断の扉を開いている彼女の名前は
どうやら俺の発言は全て
何か言い訳をしようと口を開くよりも早く、唯一神が声を出す。
「き、君の愛が本物なのはわかった。わかったが……そのぉ、私達は出会ったばかりだし、やはり、そ、そういうのはまだ早いと思うんだ!」
「あ、あのー
俺が動揺して上手く言い訳を言葉に出来ないでいると、
「いや、わかっている。偉大なる母マリアによって生み出された私の美が君を狂わしてしまったんだろ? ああ、罪深きは私の美しさかな……そ、それでだっ! 実は私は今まで告白をされたことがなくてだな、どういう風に返事をすればいいのかわからないんだが……」
なんか自信満々だったり悲しい顔したりワタワタ動揺したり忙しいやつだな。
「私は君をどうやって振ればいいんだろうか!?」
「俺に振り方を聞くのかよ!? しかも振られるの確定!?」
俺が大声で反論してしまったせいでビックリしたのか、
「だ、だって仕方ないじゃないか! 私は君のことなんて自己紹介以上には全然知らないんだぞ! それで私の全てが欲しいだなんて言われても……その……困る」
「ッ――!?」
あ、なんか今キュンと来た。
なにこれ、
唯一神(ゆいか)可愛い、略して唯一神(ゆいか)わいい。
周りの男共の目もなんか妙に優し気というか、愛らしいものを見るような瞳をしていた。
最初の自己紹介のときは妙に張り切ってて痛い子だと思ってたけど、今思えばこのクラスの自重しない珍獣達に比べたら百倍はマシだ。それに自信なさげな今の姿は保護欲を駆り立てられる。
しかしこの子、俺の発言を聞いて照れているだけとは大物かもしれない。普通はドン引きして嫌悪感を丸出しにされてもおかしくない発言だからな。いくら俺でも男子のみの、しかも変なテンションの時じゃないととても言えた内容じゃなかったはずだ。
そして
「あー、その、ごめん! 俺が悪かった! 許してくれ!」
「……何を謝っているのだ? た、確かに君の求愛行為は突然で驚きこそしたものの、好意は素直に嬉しいものだったぞ……うん。ちょっと恥ずかしいがこう胸がポカポカするものがある」
「……うぅ」
唯一神の純粋さが眩し過ぎて、生きているのが辛い。なんだよ、何をどう育てればこんな純粋無垢な女子高生が出来上がるんだよ。
大体こういうのはもっと可愛い感じのする子がするもんだろ。どう考えても唯一神は可愛い側じゃなくて美人側じゃないか。
「と、とりあえず! やっぱりさっきのは無しだ! 忘れてくれ!」
「い、いや……あれほど熱烈な告白はドラマでも見たことがないし、忘れるなんて中々出来そうもないな。あっ、不味いな。ドキドキして今日は寝るのが遅くなるかもしれない……我が母マリアにも遅くまで起きてちゃ駄目だって言われてるのに……どうしよう」
「畜生! なんだよこれ滅茶苦茶可愛いじゃないか!」
「あ、あぅぃ……ま、また可愛いって言ったな! 忘れろと言った癖にこれじゃあ忘れられないし眠れないじゃないか! どうしてくれる!」
「わかった! ごめん! もう忘れろなんて言わない! 代わりに俺を振ってくれ! それでとりあえずこの場は収まるから!」
これでいい。色々爆弾発言をしてしまったが、ここで振ってもらえれば全部笑い話で終われるはずだ。
「……だ、だが私が振ったら君は傷付くんだろう? 何せクラスメイトの半分がいる中であれほど心の籠った告白をしてきたくらいだ。私の振り方によっては学校を辞める決意まであるんじゃないのか!? 私はせっかくのクラスメイトを傷付けたくないぞ!」
「いい子だけど面倒臭ぇぇぇ!」
なんなのこの子、意外と妄想力がたくましいな! ていうか最初の自己紹介のときにした上から目線の俺様発言はなんだったんだ!? 実は強がっていただけの寂しがり屋なのかよおい!?
「だ、だからといって中途半端な気持ちで君の事を受け入れるわけにはいかないと思うんだ。あ、言っておくと別に君の事を嫌いだなんて思っているわけじゃないんだぞ! だがやはりこういった事はちゃんと将来を見据えて考えなきゃいけないし……」
そして段々クラスの野郎共が放つ殺気が濃くなってくる。こんな可愛い子困らせてんじゃねえぜ旦那、とかいう幻聴まで聞こえてきた。
わかってる。俺も申し訳ない気持ちで一杯なんだ。だから時々もっとやれとか、涙目な女子さいこー! とか言う発言も聞こえるが、そいつらは後でボコる。
ふと
「あぁぁ……もし中学の時に友達がいれば色々教えてくれていたんだろうか? だけど誰も私に近づいてこなかったしなんかみんな怖かったし……それに今だってちゃんと自己紹介で仲良くしようって言ったのに誰も話しかけてくれないし……ぅぅぅ」
どうやら中学生の時は誰にもこの性格を受け入れて貰えなかったようだ。もしかしたら苛められていたのかもしれない。こいつ自分の性格を隠すの下手そうだし、クラスの中心人物にでも嫌われたら一発だからな。
――友達……か。
「あのさ、
「ひゃっ、何だ!? いつの間にこんなに近くに来てたんだ!? びっくりしたじゃないか!」
「さっきの話なんだけど、とりあえず保留で」
「むっ?」
よくわかっていないのか
「だから、俺の告白は一度置いといて、とりあえずお互いの事を知っていくことから始めてくれないか?」
「それはつまり、私と仲良くなりたいということか?」
「そう、友達として……な」
「…………友達」
その言葉を聞いた
「それで、俺と友達になってくれるのか?」
俺の問いかけに
「ああ! 仲良くしてやってもいいぞ!」
そんな風に上から目線で言うものだから呆れてしまう。
「それは……友達として?」
「ああ、もちろんだ!
「よろしく」
きっとこんな友達のなり方は普通じゃない。普通じゃないけど、元々俺達は生まれた時から普通じゃない名前を付けられ、普通じゃない見方をされてきたんだ。だから、こんな普通じゃない友達の成り方も、俺達には丁度いいのかもしれない。
この学校は俺達にとって最高の環境にあるのかもしれない。生徒会長が言うように、最高の仲間が見つかれば、こんな名前でも良かったって思える日が来るのかもしれない。そんな未来がやってくれば、俺はこの名前を好きになれるだろう。
だがそれでも、世の中の親にはこれだけは言いたい。
キラキラネームはほどほどにしとけよな、と。
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