健常なお前らには

ロヴィーサ

第1話

 煮えるような怒りが腹の底で燻っている。何がそんなに腹立たしいのか自分でも分からないのに、ただ明確に苛立ちが渦巻いている。重たい鉛が腹に沈み黒い霞が肺を満たし脳内は真っ赤に染まる。

 兎に角腹立たしくて怒りが止めどなく湧き上がることに苛立っている。別に嫌なことなんて毎日ある。些細なことだ。ムカつく客、同僚の愚痴、無理を言う上司、ままならない世界。

 私は我儘だから少しも嫌なことはしたくないのに世界ってやつは。次から次へと楽しくない。やりたいことだけで生きられないから嫌なことをしたくないから全てをやめて死んでしまいたい。

 と、言うと甘ったれるなと見たことも無い架空の誰かが私に言う。そしてイマジナリーエネミーは二言目には他人の不幸を私と比べる。

 生きるのがさも美徳かのように、死ぬ事が悪であるかのような言い草は意味が分からない。

 生死と善悪を混同して持論を振りかざしいかにもな正論を突きつける。死ぬ前にお前を先に殺してやると思った。

 そうだ。どうせ死ぬならこの怒りを他人を害することで発散してしまおう。お前も、お前も、どいつもこいつも幸せそうな顔しやがって。その顔無くなるまで殴ってやる。そして可哀想にって言ってやる。

 全員、全員、気に食わないから。気に食わないやつに危害を加えれば発散出来ると思った。

 怒りは残ったままだった。

 やっぱり死ぬしかないみたい。

 心が健常なお前らはいいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

健常なお前らには ロヴィーサ @Loviisa_XXX

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る