梗概(ネタバレ)

※本編のネタバレを含みます。











 竜の実在する現代英国。ロンドン王立竜医療センターの外科医マリアは、上流階級が占める竜医師としては数少ない労働者階級の出身で、一部の同僚に煙たがられている。急性膵炎疑いの竜ジェフを診た日、マリアは自分に対する陰口を聞く。やって来たのは公爵令嬢であるアデレードとその取り巻きで、陰口は取り巻きたちのものだった。マリアはその場を去るが、わだかまりを感じる。翌朝、センターに運び込まれたのは王女アーリアの竜ステラだった。マリアは担当の軍人と治療の優先順位で揉める。平民では王女の騎竜に釣り合わないと、執刀者はアデレードに決まる。診断は前十字靱帯断裂症。マリアはアデレードに術式についてアドバイスをしようとするが、反対に自分自身の傲慢さを指摘されてうろたえる。アデレードは失望し立ち去る。手術は成功に終わる。その晩マリアはステラの情報を呼び出し、前十字靱帯断裂症と竜医学が根本的に抱える困難、アデレードのことを考える。二週間後、ステラが脛骨骨折でセンターに運び込まれる。今回は落竜して怪我をしたアーリアも共にセンターに来て、アデレードに前回の様子を尋ねる。マリアが割り込んで口論になると、アーリアは二人に執刀を命じる。アーリアが去った後、落ち込むアデレードに、マリアは自分の半生を聞かせる。母親は出て行き、ギャンブルに溺れる父親から逃げ出し、里親の元で育った。しかし父親に連れられた違法の闘竜賭博で見た竜たちは美しく、その姿が自分をここまで連れてきた。アデレードも竜が好きだという一点では同じはずだ。マリアの煽りを含んだ言葉でアデレードは立ち直り二人は撮像した画像を前に手術計画に取り組む。その時マリアの電話が鳴る。告げられたのはジェフが死んだこと。センターにやって来た飼い主はマリアに感謝の言葉を告げるが、何度経験しても死には慣れることができない。マリアはアデレードから涙を隠し、患者が亡くなった時の所定の手続きとしてカルテの整理に向かう。同行したアデレードはカルテを見て、ジェフが以前、ステラと同様の脛骨骨折を経験していることを指摘する。にもかかわらずジェフの歩行には問題がなかった。マリアはそれをヒントに前十字靱帯断裂症の画期的な治療法を考案する。進化が不完全であるゆえに竜の膝関節には力学的欠陥が存在する。マリアはそれを是正する術式を脛骨高平部水平化骨切り術と名付ける。王女の騎竜で新しい術式を試すという大胆さに呆れるも、アデレードはその術式に自分自身の進退を賭けると告げ、マリアはその姿をまぶしく思う。予定通り手術が進む。途中経過を見るためのレントゲン撮影の合間に、マリアはアーリアの婚約者であるアデレードの兄が見学に来ていることを知る。手術は無事終わり、ステラのいる入院舎にアーリアとアデレードの兄がやって来る。王女は感謝を告げ、兄もアデレードに声をかける。二人が去った後でアデレードは、自分が竜医を選んだのは兄のように完璧な貴族としての道からの逃避で、自分の「好き」は偽物なのだと言う。マリアは家畜化症候群について話す。それは人類を含む家畜化した動物に共通する形質のセットであり、人間に友好的な個体を掛け合わせ続けると、子孫が家畜化症候群を示した実験がある。家畜化は友好性を選択する。それが数あるヒト属の中でサピエンスが生き残った理由であり、彼らと固い友誼を結ぶことのできたのが今の竜の祖先である。竜の膝関節がそうであったように進化は不完全だが、それは同時に偶然の産物を必然のものにしていく過程でもある。もしもその「好き」が偽物でも本物にしていくことはできる。二人の距離は以前よりすこしだけ近づく。

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