第69話 上位風魔法


 地面にへたりこんだリーゼを圭が心配する。


「リーゼ、大丈夫か? 触った俺が言うのもなんだけどさ」


「どうしよう、私、赤ちゃん出来ちゃったかも」


「出来るわけないだろっ!」


「ほら、触ってみて、お腹の中で、ヘッドバンキングしてる」


「怖えよ! ヘドバンする赤ちゃんてなんだよ!

え? 何? ライブ会場なのここ!」


 圭のツッコミもなんのその、リーゼが立ち上がって圭を見据える。


「魔力、凄いことになってる、これヤバイ量の魔力だよ。

これがブルーレットの魔力なの?」


「いや、俺自身は魔力ってのがよくわかんないんだよね。

リーゼは自分の魔力がわかるのか」


「うん、体全部がすごく濃い魔力で出来てるみたい。

どれだけ使っても無くなる気がしない。

今ね、風魔法出したら一回でこの村の家全部壊せる。

それでも魔力全然減らないと思う。

かまいたいちも多分出せる」


「わかったよ、試しにあの木の根元にかまいたち打ってみて」


「うん、やってみる」


 人差し指だけ木に向けたリーゼは、なんの掛け声もなく息を吐くようにかまいたちを出した。

 あの上位魔法が使えるフィッツですら、上位魔法を出す時には気合と掛け声を出していたのに。

 今のリーゼにとっては上位魔法ですら気合の要らない、簡単な魔法でしかなかった。

 数秒遅れて木が傾き始める。

 やがて木は倒れ、その切り口はきれいな平面のように見えた。


「できちゃった……。

凄い、凄いよブルーレット!」


 喜び飛び跳ねるリーゼの姿を圭はホッコリしながら見つめる。

 自然と手が頭を撫でていた。

 これが父性というやつなのだろうか。


「えへへへへ」


 撫でられるままにリーゼが笑う。


「リーゼ、ちょっと考えたんだけどさ、風の速さや形を自由に制御出来るか?」


「多分できると思うよ、この魔力ならなんでも出来るきがする」


「よし、それならまずは、この木でやってみるか」


 圭は一番近い木に手を付いた。


「この木の周りに太い風の輪っかを出してくれ。

鋭い風が水平方向じゃなくて、輪っかの内側に向かってグルグル回るイメージだ」


「こうかな?」


 リーゼが木に向かって手をかざすと、ドーナツ状の風が木の周りに出来た。


「よし、そのまま穴を小さくして木の皮だけ剥ぐように上に昇らせてみて」


「あー、なるほど、倒す前に皮だけ取っちゃうんだね」


 意味を理解したリーゼは、ドーナツを木の表面に沿って根元から上と移動させていく。

 粉々に砕かれた木の皮が周りに飛び散る。

 やがてドーナツはてっぺんまで皮を粉砕し、枝も全て落とされていた。

 裸になった木が真っ直ぐ立っている、

 近くで見るとそれはシュールな光景だった。


「次はふたつの風魔法を同時に使ってみようか。

まずは平べったいグルグル回る鋭い風を出してみて」


「こうかな?」


「うんそんな感じだ、それならかまいたちみたいに木が伐れるでしょ。

それで木を伐りながら、倒したい方向に弱い風を当てて倒してみて。

こっちが何もないからこっちに倒そうか」


「やってみる」


 真剣な顔でリーゼが強い風魔法と弱い風魔法を両手で操る。

 風に押された木は思った方向にちゃんと倒れた。


「出来た! 出来たよ! 凄いね、こんなことが出来るなんて夢みたい!」


「夢じゃないんだなこれが。

リーゼはこの調子で村に近いほうの木から、村に向けてどんどん倒してくれる?」


「うん、わかった!」


 圭の指示を受けたリーゼは森の外、村と森の境目に向かって行った。

 残されたミミルに圭は向き直る。


「さて、ミミル、次は何をするかわかるよね」


「はいですにゃ、ご主人様にパンツをグリグリしてもらえるご褒美の時間ですにゃ!」


「違うから、いや、違わないけど違うからね、断じてご褒美じゃないからね。

あとグリグリもしないから、ソフトタッチでサワサワするだけだから」


「そうですかにゃ、それでも嬉しいですにゃ」


「だから喜ぶなよ、お願いだから恥じらいを持ってくれよ」


「恥じらいなんかないにゃ!」


 ミミルは圭に抱き付いて尻尾をパタパタと振る、セーラー服のスカートから覗く尻尾の先が、ミミルのテンションを雄弁に物語っていた。


「ご主人様、早く魔力が欲しいにゃ!」


「わかったわかった、だから落ち着けって。

それじゃ触るぞ」


 圭はミミルのスカートに手を入れパンツを触る。

 リーゼの時と同じようにゆっくりと指を動かす。


「にゃぁあぁ~あ、くすぐったいですにゃご主人様」


「1分だけ我慢してくれ、俺も我慢するから」


 何を我慢するかは口にしなかった圭。


「胸がポカポカしてくるにゃ、フワフワするにゃ。

とっても、とっても嬉しいにゃ。

ご主人様」


 抱き付いたままで圭を見上げたミミルもまた、リーゼと同じように瞳がうるんでいた。


「ぎゅってして欲しいにゃ」


「こうか?」


 言われるままにミミルを片腕で抱きしめる圭。


「うにゃ~、溶けそうだにゃ」


 溶けるのは俺の脳だよ、ものすごい2つの弾力が押し付けられている。

 ヤバイ、このままだと俺の中の軍曹さんが宇宙そらへ逝ってしまう。


「ふにゃぁ~ 気持ちいいですにゃ、もっと、もっとグリグリして欲しいにゃ」


 完全に発情していた、それは童貞の圭にもはっきりとわかった。

 タガが外れそうになるのを必死に抑える。

 村のためとは言え、これは本当に地獄だ、生殺しだ。

 1%の残った理性にしがみついて、圭はなんとか1分を乗り切った。


「終わりだ、ミミル」


 圭はスカートの中から手を引いた。

 名残惜しそうに蕩ける顔をしたミミルの表情が、一瞬で別のものに変わる。


「うにゃっ!!」


 目を見開き、抱き付いていた圭から飛び離れる。


「なんですかにゃ! これは凄い魔力ですにゃ!」


「ミミルにもやっぱり魔力がわかるんだね。

わからないのは俺だけだったのか。

なんでなんだろう」


「体がすごく変になったにゃ、魔力だらけだにゃ!」


「よし、ミミル、今からレンガを作ってみようか、出来るか?」


「出来ると思うにゃ」


「あ、ここで作ったら運ぶのが大変だから、村に近いところでやろうか」


 圭の提案で村のそばに戻ってきた2人。

 村からセターナ村へと続く街道。その脇の村の入口付近には小山があった、その周りはだだっ広い草原。

 小山には土が豊富にある。


「ここらへんがいいかな、この小さい山の土を使って作ろうか」


「はいですにゃ!」


「その前に、もう変身は必要ないな」


 頭からパンツを外した圭は魔族の姿に戻った。


「あれ? 服!」


 変身を解いた圭は違和感に気づいた。

 人間に変身する時、パンツを触ることで頭がいっぱいだったから気づかなかったけど。

 魔族の旅服のままパンツを被って変身したのだ。

 その時に着ていた旅服は消えた。


 そして今、変身を解いたらちゃんと旅服を着ている。

 フィッツとの闘いの時には律儀に旅服を脱いだのだが。

 どうやら変身時は服ごと変身に巻き込まれるようだ。

 それか勝手に収納されるのか。


 いずれにしても、旅服を脱ぐ必要がないとわかった。


「変身にこんな便利機能があったんだな、知らなかった」


「ご主人様どうしたんですかにゃ?」


「いや、なんでもない。

さっそくだけど、レンガ作ってみてくれるか?」


 果たしてミミルはレンガが作れるのだろうか。

 地面に対峙するミミルを圭がそばで見守っていた。

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