第65話 報告

 翌朝、圭はリーゼとミミルを連れて警備隊本部へと来ていた。

 時間は朝の8時くらい。

 そこには警備隊全員がそろっていた、総勢39名。


 中の事務所には入りきらず、本部の外に整列している。

 一歩前に出ているのは隊長のロッカだ。

 その後ろに整列する面々のなかには間諜で出ていたニックの姿もあった。


「みんなおはよう」


「「「「おはようございます!」」」」


 全員が元気よく返事をする、そして圭が言葉を続ける。


「えーと、まずみんなに報告することがる。

領主のフィッツについてだけど、ノイマン家は廃爵になった。

それで領主の屋敷はそのまま俺が貰い受けることになった。

これからは領主業務の拠点にするつもりだ。

そしてエレン男爵だけど、デニスとドレイクを殺した罪で王都に投獄されてる。

当然だけど国王に爵位を剥奪された、今はただの罪人だ。

後日デニスの両親が王都に行って、エレンの処遇を決めてもらう段取りになってる。

仇は取ったから安心してくれ」


「おお!」


 隊員が口々に感激の声を漏らす、中には涙目になってる者さえいた。

 皆、想いは一緒である、志半ばで倒れたデニスを偲ぶその想い。

 その仲間意識は圭にとって、とても頼もしいものに見えた。


「それで今から話す内容は昨日王都で国王に決めてもらったものだ。

今日のみんなの仕事は、その内容を領民にできるだけ伝えてもらいたい。

できれば全ての村にも。

まず、俺が正式にこの領地の領主になった。

それで悪徳領主のフィッツをなんとかした功績から爵位を貰った。

領主が貴族じゃないってのは恰好がつかないからね。

ブルーレット・オクダ侯爵、それが新しい領主の名前だ」


 狼の角を献上したことは面倒くさいので圭は伏せた。

 侯爵という単語を聞いた全員が驚愕の声を漏らす。

 こんな田舎領の貴族が子爵ではなく侯爵になったなんて、前代未聞だからだ。


「あとこの領地の名前もノイマン領からオクダ領に変わった。

子爵領から魔族が統治する侯爵領になったわけだ。

魔族が統治とか言ったら領民が混乱するかもしれないけど。

そこらへんはみんなで上手く説明してくれると助かる。

さて、もうひとつ大事な話がある。

これは警備隊として全員に知っておいてもらいたい。

昨日王都で国王に言っちゃったんだけどさ。

俺の本当の目的は魔王を含めた魔族を倒すこと」


「魔王ってあの魔王ですか!

噂で聞いたことがありますが、実在していたなんて」


 ロッカが驚きの声を上げる。


「うん、俺も見たことないけど、いることはいるらしい。

だからそいつを倒さないと、いずれ人類は大変なことになる。

そうならないように俺は倒すと決めた。

言い方を変えれば俺の目的は人類を魔族から救うってことだ。

当然だけどこの領地に魔族はいない。

だから目的を果たすためには、あちこちの国に行く必要がある。

つまり、魔王を倒すまで領主不在になっちゃうってことだ。

みんなにはその間の街と村の平和を守ってもらいたい。

領地の運営には国王に頼んで領主代行を派遣してもらうようにお願いした。

運営に関しての土台が出来上がったら俺は旅に出る。

それ以降は領主代行から指示を受けてくれ」


 圭の発言に対して隊員全員が言葉を失った。

 魔王討伐などという途方もない宣言をした圭。

 それがどれほどの難業であり偉業か、想像すらできないのだ。


「えーと、新しく来る領主代行は確か……、イレーヌ・トンプソンさんって名前だったかな。

女性の人だから、みんな協力してあげてね。

代行だけど俺がいない間は領主として動いてもらうから、みんなもそのつもりでお願い」


 ロッカが恭しく跪くと、それに倣い全員が跪いた。


「侯爵様、爵位の叙勲、おめでとうございます。

このロッカ含め、隊員全員、命に代えてもこの領地をお守り致します」


「あー、ありがとう、気持ちは嬉しいんだけどね。

俺さ、貴族だから偉いとか、領主だから偉いとか、そういうの好きじゃないんだよね。

侯爵様とか、ブルーレット様とか、勘弁してほしい。

普通にブルーレットさんとかでいいから」


「いやしかし。侯爵様相手にそのような無礼は!」


「本人が無礼じゃないって言ってるんだからいいじゃないの。

よし、決めた!

今からこの領地では領主に様付けを禁止するっ!

横暴でもなんでもいい、領主権限で発動する!」


「そ、そんな、ご無体な!」


「俺はね、魔族とか人間とか亜人とか、そんな種別の壁を取っ払ってさ。

同じ人間でも上も下もない、国王だろうが平民だろうがみんな平等でみんな偉い。

そんな世界を見てみたいんだよ。

みんなだってそうだろ? 

まあ、俺が領主になったのが運の尽きだ、諦めて固定概念を捨ててくれ」


「わかりました、ブルーレットさん」


 ロッカの対応を皮切りに跪いていた全員が立ち上がる。


「うん、明日以降はここに顔出せるかわからないけど。

今言った内容の周知を頼むよ。

何か変わったことがあったらまた朝に来て全員に伝えるから」


「はい」


 その後、ロッカが指揮を執り今聞いた領地新政の内容を領地に伝播すべく、隊員が各々散っていった。

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