第54話 ノームさんは欲しがりさん

 詰め所での指示を出し終えた圭がやってきたのは教会の治療室。


 治療室に入ったら空いている治療台のベッドに僧侶が横になっていた。

 おそらく魔力切れで仮眠を取っているのだろう。

 そして治療中のベッドではミミルが寝息を立てていた。

 顔以外はタオルケットを被せてあり、治療の進み具合はわからない。

 圭は気になっていた足の部分だけタオルをめくってみた。

 昨日は折れ曲がっていた片足が、今は真っ直ぐになっていて、見るか限りでは骨折は治ったようだ。

 しかし折れていた箇所の皮膚は、いまだに赤紫色の打痕があり、見るに耐えられない痛々しい状態だった。


「よく耐えたなこの子、痛かったろうに」


 そっと頭をなでる圭、なぜか寝ている女の子を見ると、勝手に手が動くようになってしまっていた。

 なでるついでに猫耳もサワサワと指でなぞってみる。


「おお、これが人類欲してやまない最高の癒し、ザ・ネコミミか。

ヤバイ、ヤバイよこれ、偽物じゃない本物のネコミミとかもう国宝級のアレだよな」


 思う存分頭を撫で回してると「ん……んにゃ」とミミルが目を開いた。



 目が覚めたミミルの頭から手を離す圭。

 名残惜しい、もう少しネコミミを堪能したかった。


「あ、ゴメン、起こしちゃったね」


「あれ? えっと、ブルーレットさん?

ここは……、ミミル確か牢屋の中で」


「あの後牢屋からミミルを連れ出してね。ここは街の教会だ。

足の調子はどうかな、まだ痛かったりする?」


「足? あ、あれ? 痛みが」


 上半身を起こし、足にかけられたタオルをめくるミミル。

 その瞳には折れていたはずの足が真っ直ぐに映っていた。


「えええええええ! なんで! 治ってる!」


「うん、俺が僧侶に無理やりお願いしてね、今治してもらってるんだよ。

体の傷もちゃんと治るって言うから、それまでは安静にしててね。

とりあえず足の骨折は治ってるっぽいけど。

それでもまだ全身の傷は痛いでしょ」


「うん、痛いけど、足がだいぶ楽になったから。

ホントに助けてもらえたんですね、ありがとうございます!」


「俺は手助けをしただけだ、助かることを選んだのはミミル自身だよ。

それにお礼を言うのは俺のほうだ。

本来なら俺がフィッツを殺すべきだったのに、ミミルにその役を押し付けちゃう形になって。

ごめんね、イヤな役させちゃって」


「そんな! 謝らないでください、ブルーレットさんはミミルにとって命の恩人です!

親に捨てられて奴隷になって、買われて、そのまま殺されてたかもしれないのに」


「命の恩人は大げさだよ、助かったと思うなら、それは運が良かっただけだ。

むしろフィッツに買われた時点で運が無かったとも言えるけど。

そう考えるとプラマイゼロだな。

とにかくイヤなことは忘れて、体を治すことに専念して」


「はい、がんばります!」


「まあ、頑張るのはそこで寝てる僧侶なんだけどね」


「あはは、そうですね」


 まだぎこちないけど少し笑顔を見せたミミルに、ほのかに安心する圭。

 心に負った傷も含めて、早く回復してほしいと思う。


「ねえ、その奴隷服ていうのかな、ちょっと汚いし寒そうだね」


 ミミルの着ていた服は服と呼ぶには、あまりにも粗末な代物だった。

 縦長の大きな布に頭を通す切り抜きがあって、頭を通したら体の前後を布で挟む。

 そして体の両サイドを紐で結んで留める。

 両脇のスリットから見える体には下着の類は着けてないように見えた。


「今、服を出してあげるよ」


「服ですか、何も持ってないようにみえますけど」


「うん、俺の持ってるスキルは特殊でね、魔法で服を作ることができるんだ」


「すごい! ブルーレットさんすごいですね」


 会話しながら圭はミミルを採寸してみた。

 背は見た目でもわかるけどリーゼと同じ位で150センチ程度。

 服のサイズはM、下着もM、ブラは驚きのG65だった。

 リーゼとは正反対だな、しかしこの痛々しい体に普通のブラってのは痛いかもしれない。

 大きさがあるならチューブトップにしたほうがいいだろう。


「それじゃ、まずは下着から渡すね」


 ライトグリーンのパンツとチューブトップを手から出して渡した。


「この三角のは下に履いて、それでこれは胸につけるやつ、頭から被ってみて」


 受け取ったミミルは、なんの恥じらいもなく奴隷服の結び目を解き頭から脱いだ。

 あらわになった二つのメロンを直視した圭はあわてて後ろを向いた。


「だ! ちょっとミミル、着替える時は、裸を見せちゃだめ!

男がいる時は後ろ向かせて着替えて!」

 

「え? そうなんですか、よくわかりませんけど、そうします」


「はあ、リーゼといいミミルといい、なんでこうなるんだ」


「はい、着けてみました、これでいいですか?」


「えっと、うん大丈夫だ、体痛くない?」


「はい、少し痛いけど大丈夫です」


「次ぎは、寝巻きを出すね、手握るよ」


 圭はミミルの手を取り、夏用のパジャマを出した、色は薄いピンク。

 あまり体にフィットすると傷が痛むと思い、ゆったりめのLサイズを着せた。

 ダボダボでも胸だけはその存在感をしっかりと強調している。

 夏用の半袖パジャマだと寒いので、冬用のモコモコパジャマも出して羽織ってもらった。


「これすごいです! 暖かいですよ! ありがとうございます!」


「着替えの予備も出しておくね、あと完治したら着る服も出しておくよ。

それと替えの下着も何枚かおいておくね」


 圭はパジャマの予備、ブラとパンツ10枚、冬用セーラー服を出した。

 尻尾があるからズボンよりはスカート系のほうがいいと思いチョイスした。

 一応セーラー服の着方も説明しておく。


「また、時間があったら来るから」


「はい、ありがとうございました」


 ブルーレットが治療室から出ようとすると『グゥーーーー』と擬音が部屋に響いた。


「あ、もしかしてお腹空いてる?」


「えっと、あの。だ、大丈夫です!」


「ちょっと待ってて」


 それだけ言うと圭はリーゼの元へ走った。

 銅貨だけ受け取り、街の露店で暖かい食べ物と飲み物をしこたま買い込んだ。

 そして教会に戻ってきた圭は、ミミルに食べ物を渡す。

 ミミルに何度もお礼を言われ、圭は教会を後にした。


 

 所変わってノームの家。


「ねえブルーレット、さっきはいきなりどうしたの?」


「えーとね、フィッツの屋敷で殺されそうになってた亜人の奴隷がいてね。

助けて今は協会で治療してもらってるんだけどさ。

お腹すいてるみたいだったから、食べ物あげてきた」


「また色々助けて回ってるのね、ブルーレットらしいといえばらしいけど」


「それで、今日からは宿に戻る?」


「うん、そうだね、ノームさん、お世話になりました」


「お世話になりました」


 2人でノームにお礼をする。


「いえいえ、こちらこそ沢山お洋服もらっちゃって、ありがとうね。

主人も年甲斐もなく喜んじゃって、大変なのよ~」


「あ、それならアレが使えるかも」


 圭は絶対に生成したくないと思っていた服をテーブルの上に出した。

 それはスケスケのワンピースのような破廉恥な物体だった。


「なにこれ?」


「何って、ベビードールだよ。俺の居た国だと高貴な人はこれをパジャマにするんだ」


「いやいやいや、これはさすがにナイでしょ、こんなの恥ずかしいよ」


「まあ、これを見せてもいいのは夫婦とか恋人とかだから、条件は限られるけどね。

やっぱコレはちょっとダメかな、ごめんね変なの出して」


 圭がテーブルの上の服を掴み、仕舞おうとすると、ノームが反対側からガッツリとベビードールを掴んだ。


「オホホホホホホ」


 ノームはただ微笑みながらベビードールを手繰り寄せ、今日一番の笑顔を見せた。

 旦那さんに愛されたいのですね、わかりますわかります。


 試しに色違いのをもう一枚生成して、テーブルの上に置いてみた。


「オホホホホホホ」


 それも笑顔で手繰り寄せ抱きかかえるノーム。

 なんだか圭も楽しくなってきた。

 さらにもう一枚、違う色のを生成してノームから遠い場所に置いた。


「ウフフフフフフ」


 身を乗り出しそれさえも手するノーム。

 もうなんか凄く幸せそうな笑顔だ、余程今夜が楽しみなのだろう。

 脳内では旦那さんとの深夜のプロレスごっこが繰り広げられてのだろうか。

 なんにしても円満な夫婦は見ていて微笑ましい。


 長居しても意味がないので、圭は最後にチアガールの衣装を出して、ノームの家を去った。



 時同じくしてジェラルドの街のはずれにある古びた屋敷。

 その中では20名近くの男が雁首そろえて話し合いをしていた。

 応接間のような部屋で、テーブルセットのソファーに座り葉巻をふかす20代後半くらいの若い男。

 その対面に座り蒸留酒を口に運ぶのは、30代半ばくらいの男


 その周りを立ったまま囲んでいるのは、元兵士と元官憲18名。

 全員警備隊になることを拒み、圭の元を去った人達だった。


 その中心に居る葉巻を咥えた人物が口を開く。


「ドレイクには悪いが死んでもらった」


「やはりやったのはエレン、お前か、さすがというか、同胞をためらいも無く殺すなんて、鬼畜だなぁ」


「おいおいエリック、俺1人を悪者みたいに言うなよ。

俺もそうだがドレイクが死んで安心してるのは、ここにいる全員一緒だろ?」


「違いない、よくやってくれた。

私も商人として助かるよ、ドレイクの縄張りを荒らせるんだからね」


「まずはあのブルーレットとかいう魔人、どうするか皆の意見を聞きたい」


 不穏な空気が流れる屋敷の中で、20人が話しを進めているようだった。

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