第51話 警備隊

 そこからの圭の行動は早かった。

 気絶したミミルを抱き抱え地下室から飛び出し。待ち構えていた執事に治療の宛てを聞く。

 民間療法程度の治療医は何人か街にいるが、それではダメだ。

 骨折などの治療となると、光魔法が使える僧侶が必要と言われ。

 僧侶のいる教会へと圭は走った。


 教会に突然魔族が現れ「僧侶を出せ!」と叫んだ件に、多少の混乱はあったものの。

 なんとかミミルの治療までこぎつけた。

 教会の牧師に治療のお布施だのなんだのと言われたが。

『いいから全力で治療しろ! 穴という穴にパンツねじ込むぞ!』

 というわけのわからない圭の脅しに僧侶は治療を開始した。


「治療にはどのくらい時間がかかる?」


「開放骨折ではないので、一晩かければ骨を真っ直ぐ繋げるくらいはできるかと」


「全力でやってくれ、全身の傷やアザは治すことは可能か?」


「できますが、その前に私の魔力が切れます、魔力を回復させながらだと3日はいただかないと」


「わかった、また様子を見にくるから3日で頼む」


 踵を返し、教会を出ようとする圭は、コートのポッケに金貨が2枚あることに気付いた。

 投獄中にブラウン服店に2回行ったときの金貨だ。


 治療室に戻り、僧侶の手にその金貨を2枚握らせた。


「これは!」


「治療費だ」


「全力でやらせていただきますっ!」


「ああ、頼んだぞ」


 僧侶にとってお布施として教会に払われる治療費は、半分以上ピンハネされるのが普通だ。

 それが教会を通さずに金貨2枚貰える。

 たった3日の仕事で非課税の60万円相当の収入だ、張り切らない訳がない。




 圭が領主の屋敷に戻った頃には、兵士と官憲が58人全員揃っていた。


 いつか温泉宿でリーゼが言った台詞を思い出す。


『私難しいことはわからないけど、いっそのことブルーレットが領主になったらどう?』


 そう、圭はそのヒントをそのままに、この領地を支配するという結論に至った。

 声高らかに、58人の公務員とも呼べる兵士と官憲相手に、圭は再び宣言する。


「俺は魔族のブルーレットだ、たった今、領主のフィッツは死んだ。

フィッツに代わりこのブルーレットが、この領地を支配することをここに宣言する!」


 ノイマン領始まって以来の魔族の支配宣言。

 それはフィッツが作り上げた腐りきった統治形態を一新する宣言だった。


「先に一つ言っておくよ、俺は魔族だけど、悪事が大嫌いだ。

つまりフィッツのようなやり方は好きじゃない。

わかるよな?

ここにいる官憲や兵士が俺を捕まえる時に何をしたか。

そういう腐った連中はこの街に必要ないんだよ。

もちろん今まで君達がやってきたことは、ある程度フィッツに命令されての事だと思う。

それを考慮してだ、選択肢を与える。

これから先、兵士として、官憲として、一切の不正を働かず、領民を守ることを第一の優先として、その命をかける覚悟がある者だけこの場に残れ。

それ以外の者は武器と制服をあとで返却してくれ。

俺がまず最初にやりたいのは、この街の為政組織から腐った人間を排除することだ。

当然だけど今ここで残ることを選択しても、今後悪事を働いたら即刻解雇にするから」


 兵士、そして官憲がざわつき、お互いの顔を見合わせる。

 皆、自分達がフィッツの手駒として、この領地で何をしてきたのか理解している。

 大なり小なり悪事の片棒を担いだ経験があるのだ。

 中には美味い汁を吸うために自ら率先して、兵士や官憲の立場を利用していた者さえいる。


 そんな中、1人の兵士が前に出た。


「ブルーレット様」


 兵士長のロッカだった。

 ロッカは圭の前に出ると跪き、腰に刺していた剣をその前に置いた。


「このロッカ、ようやっと仕えるべき主に出会うことが出来ました。

自分は領主の都合のいい手駒として、兵士になったわけではありません。

叩き上げの剣士としての腕を買われ兵士になりました。

しかし領主の元では正義のために剣を振るうこと叶わず。

長い間葛藤の日々をを過ごしてきました。

しかしその不毛な日々も、貴方様に出会う為のものだったと今理解しました。

このロッカ、ブルーレット様に忠誠を誓い、この命、街の為に捧げます」


 ロッカの宣誓に触発され、兵士や官憲が次々に跪いていく。

 結局忠誠を誓ったのは兵士46名中35名、官憲12名中5名。

 計40名が心を入れ替え、街のために働くことを選択した。


 それ以外の18名は手にしていた武器をその場に置き、領主屋敷から去っていった。

 フィッツと組んでいたからこそ、その恩恵を受けられたのだ。

 その旨味がなくなるのなら、兵士や官憲をしている意味などない。

 そう思う連中も少数ではあるが居たのだ。


「皆の忠誠、確かに受け取ったよ。

これからは一切の悪事を見逃さず、領民の為に尽くしてくれ。

それじゃ、今日はこれからの仕事を指示するよ。

まずは明日、そこに転がっているドレイク・コンプトンの公開裁判を街中でやろうと思う。

それまでは官憲詰め所の牢屋に拘留しておいて。

傍聴人としてはできるだけ多くの人に集まってもらえるように、これから街に出て宣伝してほしい。

それと平行してドレイクの悪事の被害者、もしくは証言を集めておいてくれ。

裏工作一切無しのガチの裁判だから、盛大に見せしめとして吊るし上げよう」


「はっ! 仰せのままに」


「組織としては人数が減っちゃったけど、しばらくはロッカが兵士と官憲両方を指揮してくれ。

そうだな、組織編制ってことなら、兵士と官憲両方解散しようか。

警備隊って名前を変えてみるか」


「警備隊ですか?」


「うん、ロッカは警備隊の隊長ってことでヨロシク」


「隊長の任、謹んでお受けいたします」


「街のために頑張ってね。

制服は新しく用意するつもりだから、しばらくは今の装備のままでやってくれ。

さてと、みんなにちょっと聞いてみたいんだけどさ。

ドレイクみたいにフィッツと裏でくっついてる悪い連中、心当たりあるよね。

それ全部教えてくれるかな」


 ロッカ以外は皆、ばつが悪そうに顔を見合わせる。

 それもそのはずで皆、フィッツと繋がりのある悪人には間接的に仕事上関わっていたからだ。


「立場上話しにくいなら、しかたないけど、どのみち潰すから遺恨は残らないよ、多分だけどね」


「それでしたら……」


 隊員が次々と街の大物の名を上げていった。

 色々と話しを聞き、まとめてみたところ、重要な人物は3人に絞られた。

 商人のドレイク・コンプトン、男爵家嫡男のエレン・ド・ローラン、外交商のエリック・トーピー。


 他にもそれらの取り巻きの小者はいるが、この3人をなんとかすれば、なし崩し的にブルーレットの側に付くだろうとの見解だ。

 総合的にみた領地のテコ入れはおいおい考えるとして、まずはドレイクの処遇を優先することにした。

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