2章 領主編

第41話 ジェラルドの街

 8時間後、ジェラルドの街に入った2人は、今後について話し合う。


「とりあえず、しばらくこの街に滞在しようと思う」


「え? 今日は泊まるだけで明日また出るんじゃないの?」


「ちょっとやっておきたい事があってね、それが片付いたら街を出る」


「何かしたいことがあるのね、いいよ、付き合う」


「あまり大きい声では言えないんだけどね。

ここの悪どい領主をなんとかしようと思ってさ」


 周りに聞かれると困るから圭はリーゼにそう耳打ちした。


「なるほど、みんな逆らえないけど、ブルーレットならなんとかできるかもね」


「困ってる人はたくさんいるはずだからね、ついでにフェルミ商会もなんとかしたいし」


「あははは、あの成金会頭、私なんだか嫌いだな」


「俺も好きにはなれないな、俺達を殺そうとした償いはしてもらうさ」


「そうだね、やっちゃおう!

う、お腹空いた、何か食べたいよブルーレット」


「おお、もう夕方だもんな、宿に入る前に飯にすっか」


「うん、屋台~露店~食べ歩きぃ~♪」


「金貨30枚しかないから、それ以上は食うなよ」


「そんなに食べたら死んじゃうよ!」


「あ、そういえば金貨と銀貨しか持ってなかったな」


 以前露店で銀貨を出したら嫌な顔をされたのを思い出した。

 銅貨=100円単位の食べ物に対し、銀貨=万券を出したらお釣りに困るのは当たりまえだ。


「食べる前に両替しようか」


「うん」


 街には両替商とかもあるかもしれないが、どこにいるかもわからない圭は、ブラウン服店にやってきた。



「救世主キターーーーーーーーーーーーーーー!」


 店に入るなり圭にすがりついた女店員ことメリッサ。


「ちょっと! ブルーレットにくっつかないでよ!」


 圭にくっつくメリッサをリーゼがひっぺがす。


「にゃうん! 失礼しました、喜びのあまり取り乱してしまいました」


「どうしたの、いきなり」


「はい、実は、パンツが飛ぶように売れまして、もう在庫が無いんです。

お客様からはいつ入荷するんだって、クレームがバンバン状態で。

どうか! どうかパンツを卸して下さい!」


「パンツをおろすって、誤解を招く表現だな」


「お願いします、今予約が入ってるだけで500枚超えてるんです!」


「てか予約取ったの? 俺がもう来ないかもしれないのに」


「すいません、お得意様ばかりで断るに断れなくて。

でも入荷は未定だとちゃんと説明はしてありますよ。

入荷したら優先的にお売りする。という約束です」


「まあ、俺も来れたら来るって約束したし、パンツはちゃんと渡すから」


「ありがとうございます、助かります!」


「何日かはわからないけどこの街に滞在するから、来れるなら毎日持ってくるよ。

それで今日来たのは、銀貨を銅貨に両替して欲しいと思ってさ」


「銅貨ですか? ありますけどどのぐらいですか?」


「うーんとそうだな、銀貨2枚を大銅貨18枚と銅貨20枚に、できる?」


 1万円札2枚を千円札18枚と百円硬貨20枚へ両替するのと同じ感覚だ。


「その程度の両替ならすぐにでも大丈夫ですよ。

ブルーレットさんが両替って仰るから、てっきり数百枚単位の両替かと」


「そんなにいらないよ、リーゼと露店を食べ歩くのに細かいお金がなくてね」


「ああ、なるほど、露店で銀貨は使えないですよね」


「それともうひとつなんだけどさ、これからパンツを卸すことになるわけだ。

色々とめんどくさいから、約束して欲しいことが一つある」


「約束ですか? パンツを卸してもらえるなら何でも致します」


「ただの人間がパンツを一日に何百枚も、作れるわけないのはわかるよね。

俺は普通の人間じゃない、むしろ人間そのものとは違う。

約束してほしいのは俺の正体と能力について、一切口外しないというものだ。

できるか?」


「はい! 商人が信用失ったらそれはもう商人ではありません、絶対に約束は守ります!」


「わかった、俺の能力は魔力を使ってパンツを作れる魔法が使えることだ。

そして、その手はこんな手だ」


 グローブを外した圭の手を、驚きながら見つめるメリッサ。


「人間ではないということはわかりました、亜人の方は正体を隠したほうがいいですからね。

特にこの街では」


「うん、俺も最近知ったんだけどね、この領土に人間しか居ない理由を」


「領主様があれですからね、あまり大きい声では言えませんが」


「とにかくそういうわけだ、内緒で頼むよ。

俺の魔力で作れるパンツは1日に800枚が限界だ。

でも魔力切れ起こすとしんどいから、毎日600枚、これが卸せる数だ。

そしてパンツと同じようにある物も作れるようになった。

それがコレ、ブラジャーだ」


 圭はメリッサを採寸し、その手からD70のブラを出した。

 受け取ったメリッサはブラを不思議そうに眺める。


「使い方はリーゼ、教えてあげてくれ」


「うん、わかった。さあコッチきて着替えようね」


 以前の買い物とは逆で、今度はリーゼがメリッサを試着室へと連れて行く。



「うおおおおおおおおおおおおおお!」


 ほどなくしてメリッサの雄たけびが店に響き渡る。

 ブラ姿で勢いよくカーテンを開けたメリッサが圭に詰め寄る。

 完全に興奮したメリッサは羞恥心など吹っ飛んでいた。


「こここここここれ! 売ってください!」


「うん、気持ちはわかるけど、ちょっと落ち着け、そして服を着ろ」


 毎度のことなので、メリッサの気性の激しさにはもう慣れた圭。


「売ってくれるのですか?」


「卸す予定のない物をわざわざ見せ付けたりしないよ、も一回言うぞ、服を着ろ」


「あ、ありがとうございます!」


 礼を言って試着室に戻るメリッサ。

 興奮さめやらぬままのメリッサが服を着て試着室から出てくる。


「こんな下着、初めて見ました、これは凄いですよ。

胸当ての付いたコルセットも扱ってますけど、それ以外は布の胸巻きしかありませんからね。

これは間違いなく売れますよ。

ブルーレット様は一体何者なんですか」


「ただのパンツ伝道師だよ。

それでこのブラジャー、略してブラについて説明しておく。

ブラはパンツみたいに誰彼同じものを使っていいって訳じゃない。

それぞれに合ったサイズの物を使わないとダメなんだ。

俺には採寸ってスキルがあるから、ピッタリのサイズのブラをすぐ出せる。

でもこの店にずっといるわけにはいかないからさ。

売るとなったら何種類かを用意しておいて、採寸してから自分に合ったものを買う。

そうするしかないってことなんだよ」


「もうこの店の店員になってくださいよ!」


「ははは、さすがにそれはダメだ、俺は旅人だし、やらなきゃいけない事があるからね。

数日後にはこの街から出て行く。

だから居る間は卸すけど、それ以降は自分の工房でなんとかして再現してみてよ」


 全く同じ物はムリでも、機能として及第点を取れる模倣品なら作れるだろう。

 あとは職人の腕次第だ。


「わかりました、それでどのぐらいの量を卸してもらえるのですか?」


「俺の魔力でこの店に卸せるのはパンツとブラ合わせて600枚。

どっちをどのぐらい作るかは、そっちで決めてくれ」


「合計で600枚ですか、それでも凄い量ですが、売れ行きから考えたら、悩むところですね。

値段はどうしますか?」


 そういえばブラなんて買ったことないや。俺男だし。

 相場って幾らくらいだ? わからん。

 高く設定してもあとあと面倒だし、パンツと一緒で大銅貨1枚にしようか。


「ブラ1枚で大銅貨1枚が売値だ」


「安い! 安すぎますよ! これなら銀貨1枚でも売れますって!」


「ダメ、高くするとあとあと俺が困る。

大銅貨1枚、これが独占販売を許す条件だ」


「わかりました、ではパンツと同じで大銅貨1枚で売ります。

卸値はパンツと一緒で5割でいいですか?」


「ああ、それでいいよ。

今日はもう魔力使いまくったから、明日の朝600枚持ってくる。

ブラとパンツ何枚にする?」


「とりあえず300ずつでお願いします」


「わかった、それじゃ明日また来るよ」


 そして銀貨を銅貨に両替し、店を後にした圭とリーゼ。

 露店で楽しく食べ歩きをして、しばらく滞在する宿を探す。


「ねえ、この前の温泉付き宿でいいんじゃない?」


「そうだな、温泉か、のんびりできていいかもな」


「うん、そこにしよう! 荷馬車も置けると思うし」


 飛び込みでも宿の部屋は空いていて、泊まることができた。

 宿泊費は2人1部屋で1泊銀貨1枚。

 温泉付きということもあり。相場よりは若干高い。

 温泉とベッド、どこまでも一緒にピッタリ着いてくるリーゼに、たじろぐ圭だが。

 いまさら無碍にすることもできず、成すがままにリーゼの好きにさせることにした。

 お父さんが娘に逆らう権利などないのだ、そう自分に言い聞かせる圭だった。



 2人が寝静まった頃。


 某所で商人の耳にある情報が入った。


「コンプトン様、探していた亜人が温泉宿に入ったと知らせがありました」


「うむ、網にかかったか。ご苦労、何か動きがあったらまた知らせてくれ」


「御意」


「さてどうしてくれようか、フィッツのいる前で正体をバラすのが一番だが……」


 圭の知らないところで、コンプトン商会が何やら始めようと画策していた。

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