第29話 お買い物
圭と一緒に暮らしたいと言うリーゼに村長が助け船を出す。
「ブルーレットさん、リーゼもまだ子供です。
兄を亡くしたばかりで今は家族がおりません。
村に居る間だけでも、一緒に居てあげてください」
「うん、パンツを人質に取られたら、俺、逆らえないから」
「そうですか、色々と苦労があるんですね」
「あ、そうだ!」
土下座から立ち上がる圭。
「みんなにもお土産買ってきたんだ、これから寒くなるし、布団とか布とか。
サトウさん、馬車から荷物降ろしてくれる」
「おう、ヨシダ、お前も手伝え」
「はいっ」
広場に広げられるお土産の山。
「これ、一体どうされたのですか?」
「狼の毛皮売ったお金で買ってきた、みんなで分けて。
それでちょっとお願いがあるんだけどさ。
この布と皮を使って俺の服を作ってほしいんだ。
誰か裁縫できる人いたらお願いしたいんだけど」
「それなら何人か服作りが得意なのがいますので」
「さすがにこの先もシーツ1枚だと不便かなってさ。
できれば皮も使って丈夫なやつがいいかな。
足も全部隠れて、手が自由に使えて、フードみたいなので頭が隠れるやつ。
旅人っぽいデザインでお願い」
圭が買ってきた物の中に牛皮が数枚、厚手の織物生地もあった。
それは圭が旅人服を仕立ててもらおうと思って買ったものだ。
もちろんそれ以外にも村人が使えそうな生地がロールで数本買ってある。
村長の指示で2人の女性が、圭の服の仕立役に選ばれた。
数組の布団は村の年寄りに試しに使ってもらうことになった。
この村にはないフカフカの綿入り布団。
腰が悪くなりやすい老人にはもってこいだ。
何着か買った服も村長の采配で配られていく。
「村長さん、俺の服ができるまでまだ何日かかかるし。
その間、することないから、街に買出し行ってこようか?
まだまだ必要なものがあったら買ってくるよ」
「おお、それなら俺も便乗していいか?」
そう声を上げたのはサトウだった。
「移住するってなったけどよ、考えてみたら俺達着の身着のままなんだよ。
街のアジトに服とか武器とか色々置いてきたままだしな。
取りに行けるなら助かる」
「あ、そうだな、そこまで考えてなかったよ。
武器は……必要かもな、村の自衛手段として、3人の力が必要になるかもしんないし」
「それなら3人分の荷物、頼むよブルーレットさん。
行くのは俺一人で大丈夫だ、3人共同じアジトだからな」
「それじゃ、まずは3人の荷物引越しが優先だ。
荷馬車だと片道だいたい8時間かかるからなぁ。
考えてみたら今から街に向かっても着くのは夕方だから、買い出しは厳しいよな。
そっから村に帰ってきて夜中、荷物降ろして、また街に向かって着くのが昼か。
よし、買い出しは明日だな」
「はーい、私買い出し行きたい!」
そう手を挙げたのはリーゼだった。
「そうか、それじゃ今からサトウさんと出るから。
今日のうちに村長さんと、何が必要なのか話し合っておいてくれ。
今日は早く寝るんだぞ、夜中起こして連れていくからな」
「うん、わかった、気を付けて行ってきてね」
「それじゃ、サトウさん、行こうか」
「っと、その前になんだが、腹減った、何か食わしてくれ。
昨日から何も食べてないんだ」
「あ」
お腹が空かない圭だからすっかり忘れてたけど、そう、人間は食べないとダメなのだ。
「よし、今からみんなで朝食だね」
リーゼの主導で村長の家を借りて朝食を済ませ。
いつものボロシーツを被った圭が荷馬車を曳く、サトウは荷台に布団を持ち込みそこに寝っ転がった。
荷馬車の耐久度限界までのスピードで走ると、クッションが絶対に必要になる。
布団なしでは8時間も耐えられない。
サトウは片道を経験してるだけあって、荷台のほうが楽だと思いそうした。
時間は流れその日の夜中。
村に帰ってきた圭とサトウは荷物を一旦、圭の家(今はササキの家)に運び込む。
リーゼを起こしてまた街に向かい荷馬車を曳く圭。
サトウのアドバイスを受け、リーゼもまた荷台の布団のお世話になった。
さらに時間が経ち、昼少し前。
「ついたー! ただいまジェラルドの街ぃ~~~」
元気よく叫ぶリーゼ、いつになくテンションが高い。
村人にとってお金を使っての買い物なんてのは一生縁のないものだ。
普段の生活に必要な物は、村同士の物々交換が基本だからだ。
ましてや街でのお買い物、村の女の子の憧れイベントである。
はっちゃけないほうがおかしい。
「あんまり大声出すなよ、田舎者丸出しでちょっと恥ずかしいだろうが」
荷馬車を曳く圭の横に並び、一緒に歩くリーゼを圭がたしなめる。
「そうだけどさ、そうだけどね、お買い物は楽しいんだもん。
村のみんなが喜ぶんだよ! 早く買って帰りたいけど、たくさん時間かけて楽しみたい!
あーもう私どうしたらいいのっ!」
「まあ、気持ちはわからなくもないな、みんなの喜ぶ顔が見たいのは俺も一緒だ」
「まずは、何か食べたい、もうお昼だし、露店に行こうよ」
「そうだな、食べ歩きするか」
適当に露店を何軒か回って食べ歩く。
最初の1軒目で銀貨を出したらすごく嫌な顔をされた。
どうやら露店では銅貨を使うのがマナーらしい。
そして辿り着いたのは、一度来ているフェルミ商会。
店の前を掃除していた少年が、見覚えのある荷馬車と、それを曳く圭の姿を見て、あわてて店の中に飛び込んだ。
すぐさまニコニコ顔の会頭が店の外へ出てくる。
「これはどうも、馬車の使い心地はどうですか?」
「ああ、重宝してるよ。無理言って譲ってもらったけど、助かってるよ」
「それはなによりです、それで、今日は何か御入用ですか?」
「色々と揃えて欲しいものがある、品目はリーゼに聞いてくれ」
「かしこまりました、ささっ、中へどうぞ」
「荷馬車は荷受場に回しておくよ、リーゼは店に入ってて」
「うん、わかった」
商会の横から裏に回ったところにある、荷受場へと荷馬車を付ける圭。
そのまま裏口から商会へと入る。
中ではすでにリーゼが会頭に欲しいものを説明していた。
必要な物を聞いた会頭は木簡にオーダーを書き記していく。
紙が貴重で、一般的なのは羊皮紙だが、メモ書きに使えるほど安いものでもない。
商会ではメモ帳代わりに薄い木簡を使うのが普通だ。
「なるほどなるほど、これはかなりの量ですね」
「今日中に用意できるか?」
「ちょっと難しいですね、明日の朝までお時間をもらえないでしょうか」
「どうするリーゼ、今日はこの街に泊まるか?」
「そうだね、急いでるわけでもないし、ゆっくりしようか」
「ありがとうございます、明日の朝までには必ずご用意いたしますので。
荷馬車は如何なさいましょう、こちらでお預かりもできますが」
「そうしてくれ、できれば荷物も積んでおいてくれ。
こっちは適当に宿探して、街をフラフラしてみるよ」
「それでしたら、こちらで宿のほうを手配いたしましょうか?」
「そこまでしなくていいよ、宿を探すのも旅の醍醐味だから。
もし宿がみつからなかったらその時は頼むよ」
「わかりました、それでは明日また起こしください」
「ああ、また明日来る」
こうして圭とリーゼは宿を探しながら街を散策することにした。
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