第7話 困ったなぁ
そしてこの状況である。
「どうか、どうか命だけは! なんでも差し上げますから命だけはご勘弁を!」
地面に額をこすりつけひたすらに命乞いをする老人。
「いや、だから何もいらないし殺したりもしないから」
「今この村にはしがない歳老いた私しかおりませぬ、さらう価値もないただの老いぼれでございます。
ですからどうか命だけはご勘弁を!」
「うん、命はとらないから安心してくれ」
「平に平に、どうかご容赦を! たいした物はございませんがなんでも差し上げますから!」
「あー、なぜだ、なぜ話しが通じない」
立ったままこめかみを指先の爪でぽりぽりとかく圭。
先ほど目が覚めた老人は魔族の圭を見るなり、ソファーから飛跳ねて老人とは思えないほどのスライディングで土下座をかました、そして圭がやさしく話しかけるもひたすらに命乞いしかしない。
混乱しているのか気が動転してるのか、しかしその姿勢からは一刻も早く家に入り込んだ魔族に立ち去ってもらいたいという必死な訴えをかもし出していた。
管理者のシエルが言っていた「こちらの言葉が通じないかもしれない」というのはこの事だったのか、と圭は思い出しながら考える。
よく見ると老人が土下座している地面に黄色い水溜りが広がっていた。
漏らすほどの恐怖って魔族どんだけ恐れられんだよ、この先まともに意思の疎通が図れるんだろうか。
老人が不憫に思えてきた圭は語りかけるのをあきらめ、一旦家の外にでることにした。
さて、作戦会議だ。
一旦井戸の広場まで戻った圭は最初に座っていたベンチに再び腰を下ろす。
このまま他の場所に行くことも可能だが、それではこちらの欲しい情報がまったく手に入らない。
異世界初心者の身としてはこの辺の地理事情と各種族を含めた生態系、更には魔族と人間側の勢力関係とかも把握しておきたい。
なのに貴重な第一村民に会えたはずなのに命乞いしかされないこの状況。
「ふうー、困ったなぁ」
ベンチに背を預けもたれかかりながら空を仰ぎそうつぶやく。
真夏程ではないが昼時の太陽はそれなりの高さにあり圭の目には眩しく見えた。
手を顔の前にかざし細めた目をかばう。
人間を助けるどころか、俺自身が困り事の原因になってるっぽい。
村に魔族が来るとかどう考えても厄介ごとでしかないよな。
しかしなんとかしないと先に進めないのは事実。
今のこ村をあきらめて別の人間の集落を見つけたとしても、恐れられてまともに話しができないのであれば、
結局はどこに行っても結果はかわらないということになる。
ここでうまく対処できない奴にこの先対処ができるはずがない。
それに気なることがひとつある。
扉越しに老人が言っていた「助けが来たのか」という台詞。
そしてほぼ無人のこの村。
『助け』というのはどうみても老人個人に向けての『助け』ではなく村全体の『助け』なのだろう。
困っているんだったら力になりたい。
そう、俺はその目的があってこの世界に来たんだ。
いわば初仕事、このチャンス逃してなるものか、ポイント獲得のために何がなんでもやらなければならない。
「で、問題はどうするかだよな」
この見た目がダメなら何か手立ては……。
「あーーーーーーーっ!!その手があったか!」
奥田圭、25歳独身、童貞、何か思いついたようである。
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