罪人の俺に課せられたのは【魔族+パンツ=人間】というルールだった
なまにく
1章 魔族とパンツ
第1話 プロローグ1
奥田圭。25歳。会社員。独身。独り暮らし。恋人はいない。
今の会社に新卒で入り入社3年目。
初めて勤めた今の会社に特に不満はない、取り立ててブラックという訳でもないし、会社の同僚ともそれないりに上手くやっているとは思う。
残業する日もあれば、定時で上がれる日もある、世の中のブラック企業からみたら普通かホワイトに分類される平凡な会社だと思う。
そんなこの会社でも年に一度繁忙期が訪れる、夏の7月末からお盆までの約2週間、家に帰れる日はほとんどなく不眠不休とまではいかないが
仮眠をとりながらあちこちの客先を廻り会社での寝泊りを余儀なくされる。
入社から3回目の夏、奥田圭は溜まった疲れを瞼に乗せながら社用車を運転していた。
時は8月9日の日曜日、あと3日程度頑張ればこの激務も終わる。
土曜の夜から徹夜で仕事をこなし、出先から車で2時間の運転を経て会社に戻って仮眠を取る。
そのはずだった……。
わりと直線でそれなりにスピードの出る幹線道路。
もう少しで会社に着く、会社の建物を視界に捕らえた時、奥田圭はほんの少し安堵し気が緩んだ。
その安堵のわずか数秒、重い瞼が閉じハンドルを握る手から力が抜ける。
それは日本中どこでも起きているありふれた事故だった。
珍しくもなんともないただの居眠り運転の事故。
ニュースで流れても数日経たずに皆の記憶から忘れ去られる。
そう、それはただの運の悪い事故。
奥田圭は25歳にして痛みを感じる暇もなく路肩に乗り上げ電柱に衝突した衝撃で絶命した。
その時、友達とプールに行く約束をしていたため、歩道を歩いていた小学生の梶野奈々江11歳を巻き添えにして……。
何もない壁があるのかさえわからない遠近感もないただの白い空間に椅子があり、その椅子に座っていた圭の意識が覚醒する。
「あれ?こ、ここは……」
「気がつきましたか奥田圭さん」
目の前にいる淡い色のスーツ姿のような若い女性が自分に話しかける。えっと誰だろこの人。
「はじめまして、私は管理者のシエルといいます。今の状況に少し戸惑うかもしれませんが説明しますね」
シエルと名乗った女性は名前の通り、日本人の容姿とは少し違い髪の色は水色で目も水色、外人というよりはコスプレのような容姿、
しかし整った顔立ちは可愛いというよりは美人と取れるような雰囲気。そして流暢に話す日本語に違和感がないのが逆に違和感を感じる。
「ええと、いきなりでショックに思うかもしれませんが、奥田圭さん、あなたはつい先ほど死にました」
「え? 死んだって……!?」
「はい、車を運転していたところまでは覚えていますか?」
「うーんと、ああー、あ! そうだ! 運転してた、ってまさか!」
「ええ、そこまで覚えているのならわかりますね、居眠り運転で自爆事故起こして即死したんですよ」
「マジかよ」
「マジです」
目の前の女性、シエルをマジマジと見つめる、その表情に透けて見える感情はなく、ただ機械的に微笑んでるように圭には見えた。
25年も生きていれば大体わかる、これが嘘や騙しの類でないことぐらいは。
圭はただ現実を現実として受け入れるほかないのだと思うも、正直感情が追いついてこない。
とりあえず状況を整理するために言葉を紡ぐ。
「そうですか、死んだんですか俺」
「はい、居眠り中の即死だったので魂にも苦痛とかそういった記憶が刻まれなかったのは幸いですね」
「俺、今、魂ってやつなんですか?」
「そうですね、肉体から離れた魂そのまんまですね」
「ってことはココはあの世的な場所ですか」
「あの世とい言いますか、わかりやすく表現すると霊界ですかね、死んだ魂がいったん行き着く場所です」
「それで俺はこのあとどうなるんですか? 天国ですか?それとも親よりも早く死んだから地獄行きとか?」
「あーよく勘違いされてる方が多いんですけど、天国も地獄もありませんよ」
「え? ないの?」
「この世界に天国も地獄もありません、備わっているのは死んだ魂がまた転生されるという機能だけです」
「天国も地獄もないとか坊さんが聞いたら腰抜かす新事実だなこりゃ」
「ちょっと雑談しましょうか、この話しは転生する前に知っておいても損はないでしょう」
「奥田圭さん、地球に数多くある宗教ってなんのためにあるかわかります?」
「さあ、なんだろうね、金儲けとか政治利用のためのツールとか?」
「ふふっ、日本人ならではの偏見ですね、そういった見方もできますが答えではありません。
歴史に名を残した宗教家と呼ばれる人たちは皆、行おうとした事はひとつです」
「単純に人間の幸せを追求したとかかな」
「そうですね、それが正解です、人間が幸福になるためにはどうしたらいいか、その方法や哲学を形にしたのが宗教と呼ばれるものです。
では質問です、悪人だらけの世界と善人だらけの世界、どっちが幸せな世界だと思います?」
「どうみても善人だらけの世界じゃないか、悪人だらけとか不幸な未来しかみえないよ」
「だから宗教家と呼ばれる人達は世の中で善い行いを増やし悪い行いを減らすために色々と考えたんです。
そして引き合いに出されたのが天国と地獄です。悪いことばかりする人はまわりを不幸にし自身も結果的に不幸になります。
逆に善い行いをする人はまわりを幸せにし自身も幸せになります、ラブアンドピースですね。
人間死んだあとのことはわかりません、そして死とは抗うことのできない恐怖です。
その恐怖を利用して天国と地獄を設定し、善行と悪行の振り分けが行われるとでっちあげた。
善い事をすれば天国に行けると、方便を使ったんです」
「おおー、なるほど、そういうことだったのか」
「日本に馴染みのある仏教では極楽浄土と無間地獄って言葉が引き合いに出されますね」
「あーなんか聞いたことある」
「で、奥田圭さんは地獄には行かないんですけど、現世での罪が残ってます」
「罪というと?」
「人を殺しました」
「え? ちょっとまって、俺人を殺したことなんてないよ!」
「記憶の上ではですよね、最期の事故で11歳の少女を巻き添えにして奥田圭さんは死んだんですよ。
生きていれば法律に従って罪を償うこともできたのですが、死んでしまったので償いも叶わなくなりました。
そして通常、人間が死んだ場合は人間として生まれ変わるのですが、同族殺し、つまりは殺人を犯した人は人間に転生できなくなるんです。
ペナルティーとして他の命に生まれ変わります」
「う……」
言葉にならなかった、自分が死んだのは仕方がない、自業自得だ、悔やんだところでどうにもならない。
しかし俺の意識の外で他人の命を奪っていただなんて、後悔よりもさらに重い感情が心にのしかかるようだ。
そうか、俺は人間になれないのか、これが罰なら受け入れるしかないんだろうな。
「そうですか、わかりました」
「しかしですね、たとえルールとは言え殺意を持った殺人と、殺意のない不可抗力の殺人を同罪にするのはですね、なんといいますか、
この二つは罪の重さが違うと思いませんか?」
「いや、どっちにしろ人を殺したことには変わりありませんよ」
「潔いですね」
「死んだ身ですから」
「まあそう悲観しないでください、本来ならこういった会話もなくただ事務的に転生を行うのが通例なのですが、
それをせずにこうして話しをしていることに何か意味があるとは思いませんか?」
「ん、何かあるんですか」
「今回は故意でない罪ということで、贖罪のチャンスを用意しようと思ってます。どうです、乗ってみませんか」
「話しがよく見えないんですが」
「罪滅ぼしの転生をしてみませんか?というお話しです」
「それはただの転生とは違うんですか?」
「普通の転生は記憶も何もかもリセットして生物として一からスタートすること言います。
そして罪滅ぼしの転生は罪に相当する贖罪をするために、今の記憶を持ってちょっと厳しい条件での転生を行います」
「具体的には何をするんですか?」
「そうですね、ありていに言えば地球とは違う世界に転生して人類を救ってもらいます」
「異世界ってことですか」
「そうですね、そこで多くの人間を助けるのが目的になります。地球以外にもいくつか世界があるんです。
そのうちのひとつが今ちょっとピンチになりかけてて、テコ入れでなんとかしないといけないんですよ。
とはいえ私は魂の管理者なので現世に直接手出しはできない縛りがあって、でも転生業務の範囲内なら間接的に手を出せるということです」
「つまり俺はそのための駒ってことですか」
「理解していただけたようですね」
「俺に拒否権は?」
「もちろんありますよ、このまま無脊椎動物として転生するか、贖罪を経て人間になるかの2択です」
「せめて哺乳類にしてよっ!」
「ワガママですね、イルカになりたいんですか?」
「そーじゃねーよ! 陸上生物だよ! 猫とか犬とかあるだろっ!」
「いやー、ペット系は人気があってハードルが高いというかなんというか」
「さいですか」
「人間から猫に転生したいって希望けっこうあるんですよ、だからあきらめてください」
「社畜の夢は『生まれ変わったら猫になりたい』がデフォですからね、そりゃ人気も高いでしょう」
「それでどうしますか?」
「うーん、無脊椎動物はイヤだから異世界に転生しかないのかな~、罪滅ぼししないとすっきりしないしね」
「決まりですね、それでは奥田圭さん、異世界転生決定ということで」
こうして俺は死んだだけでは留まらず、転生先で人間を救うことになったらしい。
夢じゃないよね?
てか猫の人気に激しくジェラシー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます