「ほな、始めますか?」


 今は廃墟と化したビルの中、一輝の明るい声音が木霊している。


 此の場所は誰も来ない為、普段は攫った溝(どぶ)の拷問場所にしていた。故に思う存分に、暴れる事が出来る。


「……ッあ! 其の前に、一つ約束して下さい!」


「何や?」


 煙草に火を付けて、一輝に問う。どうせ又、下らない事を謂う心算だろう。


「俺が勝ったら、さっきの姉さんに想いを伝えて下さいッ!」


 唐突な言葉に、思わず噎(む)せていた。


 睨み付けるが、屈託の無い笑みを向けてくる。


「好きなんでしょう?」


 真っ直ぐな瞳が、死神の心に問い掛けていた。


 答えは既に出ていたが、応えられずにいる。


「兄貴、本当に素直じゃないっすね!」


 おもむろに煙草を取り出しながら、楽しそうに笑う一輝が不思議で仕方がなかった。


 自分と此れから喧嘩をしようと言うのに、どうしてこんなにも笑っていられるのだろう。


「御託は良い。偉そうな口上は、俺に勝ってから言えや」


 煙草を乱暴に投げ捨てると、幸四郎は構えた。


 精々、拳で語って貰うとしよう。

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