第01話 はじめての下校デート ①
「あ~~~~~~、大変な目にあった……」
入学式が終わると同時に体育館から全校生徒が出てくる。
敦たち新一年生は、入学式が終わるとクラスで説明会があり、午後で帰宅することになる。
「全く、敦は朝は弱いよな」
話しかけてきたのは、小学校からの腐れ縁で親友の
「まあ、昨日は眠れなかったし」
「なんだ、緊張か」
「そんなんじゃねーよ、ただまあ、色々あってな」
「ふーん、まあ何かあったら相談しろよ」
「ああ」
相談なんて出来る訳がない、第一敦が悩んでいる事に関しては黒河が絡んでいる。そんな事本人には言える筈もない。
「なあ、これから――」
「黒河くん」
突如、黒河の会話を遮り聞こえてきた声は敦の悩みの種でもあり、中学卒業と同時に告白する前に振られた相手、
黒河が何を言おうとしていたのか敦には分からなかったが、ただ今分かっている事は黒崎が黒河を誘って放課後デートをする、という事だ。
(畜生……心臓が痛い……)
「わりぃな敦、これからデートだ。また、今度誘う」
「おう、黒カップル楽しんでな」
精一杯の掛け声、自分で掛けといて嫌味にしか聞こえない。
「ったく、人の気もしらないで」
「ホントっすよね」
「……!」
「なんだ、居たの」
「当り前じゃないですか」
黒河の小さい頃からの幼馴染であり、絶賛片思い中である。
「敦はいいの、今のままで」
「思うところはあるけど、本人たちが幸せなら俺にはどうする事も出来ないよ」
本当は黒崎の事は諦めきれない、だが今の関係や黒崎の笑顔を失うくらいなら今のままでいいと思える。
「ねえ、私とデートしようよ」
急にどうしたのかと思う、先ほどまで隣にいた安眞木は、敦の前に出て両手を後ろに回し上目使いで問う。
「何だよ急に、傷心してる俺をからかってんのか?」
「そんな訳ないじゃない」
安眞木から先ほどのイタズラ笑みが無くなる。
「私は、蓮の事が好きなんだよ。小さい頃から好き好きで堪らなくて、でも隣に居られるのは私じゃなくて、どんなに好きな気持ちが強くてもどうしようもなくて、だからさっきの事、からかったり、馬鹿にしたりする訳じゃなくて、私の蓮への気持ちをかき消して欲しいの」
安眞木の心は折れそうになっていた。小さい頃から蓮の事が好きで、黒河には彼女ができてしまい、黒河の彼女になれなった。安眞木も敦と一緒だったのだ、これ以上お互いとも自分には決して向けられない好きな人の幸せな笑顔を見るのは限界が来ていたのかもしれない。
「安眞木も辛かったんだな」
自然とだった、それは普段は行わないような行為、安眞木の瞳が潤っていたからではなく、敦は自然と彼女の頭を撫でていた。
「でも、大丈夫か? そんなに簡単に諦めてしまって」
「大丈夫……じゃない、苦しいしきつい……でもゆっくりでいいからさ、私の心を溶かしていってよ」
それは、春に咲く満開の桜のような笑顔だった。泣き後を隠そうともしないで、辛くても前に進もうと必死に頑張ろうと、そんなのズルい。
「そうだな、とりあえずどこ行こうか」
全く、考えていた入学プランが一ミリ単位も意味がなっかたじゃないか。
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