めぐりあえたとき reincarnation

ぺんぺん

第1話 新緑の季節の出会い

「りお!はやくいこー!」

満面の笑顔で言っているだろう可愛い声、玄関から『彼』が、私を呼ぶ。

ちらっと顔を出すと、少し大きめの甚平を着ているのが見えた。可愛い。私が作ってあげたものだ。


私はというと、まだ浴衣の帯が結べずに悪戦苦闘中だった。

「ちょっ、、ちょっと待ってね!恭ちゃん、早かったねーー」

「りおと行くのが楽しみだったから、待ってるね!!」


言葉の端々から、今日のお祭りを楽しみにしていただろう、恭ちゃんのウキウキした気持ちが感じられる。恭ちゃんのそんな顔を想像して、私もくすりと微笑まずにはいられなかった。


夏真っ盛りの7月24日。今日から恭ちゃんの小学校は夏休みだ。恭ちゃんが隣に引っ越して来てから3ヶ月。初めての引っ越し先ののお祭だが、これが数百年前から続くというなかなかの盛大なものだった。


去年までは友人達と行っていたのだが、今年は恭ちゃんにどうしても連れて行ってほしいとお願いされ、じゃぁ、と私が連れて行くことになったのである。

ちなみに、私は彼氏とお祭りに行ったことはないのだが(大きな声では言えないが、彼氏がいたことがないのだ)、去年まで一緒に行っていた友人達の何人かは、彼氏と行く約束をしているようだった。


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今年の4月、新緑が芽吹く一年で最も眩しい季節に、お隣に恭ちゃん、、高峯恭一くん一家が引っ越してきた。


その日、私は高校の入学式で、初めての学校の、これからの高校生活に心弾ませながら、式を終えて帰ってきたところだった。隣の空き家をリノベーションしてるらしきことは、何となく知っていたが、大きな引っ越しトラックとせわしなく運び込まれる荷物に、ああ、お隣さんも新しい生活が始まるのねと、勝手な親近感を感じながら玄関をくぐろうとしたときーー


「・・・・・りおな、?」


後ろから声がした。小学校くらいの男の子が、目を大きく見開いて、私を見ている。さらさらのちょっと茶色がかった髪。子供ながらに整った顔立ちは、おそらく年齢より凜とした印象を与えるだろう。

そんな彼は、かなり驚いているらしく、口を半分あけて固まっているのが分かった。手に持っていた荷物は全て、道路にばらまいてしまっている。


「えっ?、、えっと、私?、、

私、、、わ゛っ!!」


私は「りおな」ではない。とても惜しいが、「りお」。

神崎莉央(かんざきりお)なのだが、あれ?表札には苗字しか書いていないと思ったけど、、


などと、言葉に出す前に、彼が私に抱きついてきた。身長差があるので、お腹あたりにダイブしてきた、というのが正しいだろうか。みぞおちなので、ご想像どおり、ちょっと苦しい。


そんなこと気にも止めず、彼は私を離さない。彼は少し、震えていたーー。


「・・恭一!?」

お隣の、恭一君のお母さんらしき人がびっくりして、そして困った私の顔を見て焦ったのか、慌てて彼を引きはがそうとした。

長い髪が印象的な、きれいな人で、恭一君はお母さん似のようだった。


「ごめんなさいね・・!!ちょっと、恭一、どうしたの!?」

顔をあげた恭一君は、、少し涙ぐんでいるように見えた。


「あっ、大丈夫ですよ。気にしないでください。恭一君、て言うのね。私は、神崎莉央。お隣さんだね、よろしくね。」


にっこり笑ってそういう私を、恭一君はぽかんと見ていたが、何かを悟ったらしく、少し黙ったあと、

「おれ、、高峯恭一。、、、りお、よろしくね!」

と自己紹介した。


なぜだろう、恭ちゃんが、悲しそうな、寂しそうな、

悔しそうな顔を、一瞬したのは。


その時、そう思った事を、私はしばらく忘れてしまっていた。

その後の恭ちゃんは、そんな出来事無かったかのように、無邪気に私に懐いてくれた。


私が兄弟がいないというのもあって、恭ちゃんは本当の弟みたいな存在で、可愛く思っていた。でも、彼は、本当は、心の内に多くの事を秘めていたのだ。それを知るのは、ずっとずっと後になってから。


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