第40話 ダイの大冒険

 この国を一言で表すならば『激烈』。


 一度この国に立ち入ると、最初に目に付くのは富国を謳ったスローガンの数々。

 人々は皆一様に足元を見ながら早々と歩く。

 聞こえる会話は金か経済の難しい単語ばかり。

 至る所に武装した魔法兵が立ち、善良な市民さえ反乱因子であると決めつけるように、往来する人々をただ睨みつけている。

『物騒』であると言い換えても差し支えないだろう。

 さすがは軍事国家と称するだけのことはある。

 建築物は総じて防護壁の様に巨大かつ強靭だ。


 国家の名は『軍事国家オルテジアン』という。



 転生魔王の俺と、芳田、ミキの三人は転移魔法によりチート旅を行っていた。


 今日も徒歩で10日、馬車でも丸2日はかかるであろう距離を俺の魔法は数秒に縮めてくれた。

 そうして、魔大陸から遠く離れたオルテジアンまで旅行気分で来たわけだ。


 俺がなぜこんな魔法が使えるかって?

 答えは簡単だ。

 それは俺がだからだ。

 初めは魔力をたくさん貯蔵しているだけの俺だったが、魔王軍のみんなのおかげでいろいろな使い方を学んだってわけだ。

 それは攻撃魔法だけに留まらず、回復魔法や時空魔法、召喚術などありとあらゆる魔術の基礎を叩きこまれた。

 基礎を知ってしまえば後は楽勝。

 ちょっとだけ魔力の蛇口を捻るだけで俺の思い通りになる。

 魔法って最高に便利だったんだな。

 もう魔法の無い生活になんか戻れないっつうの。



 日本に戻りたいか?


 もちろん戻りたくはない。

 この世界の文明レベルは中世ヨーロッパ並み。と言っても実際の衛生状態はすこぶる良好。

 まるでゲームの世界だ。

 どう良好に保っているかはよくわからんが。

 まあ、魔法のある世界だ。

 都合よくなんでもできてしまうんだろう。


 だがほとんどの者は魔法は使えても、火を起こしたり少量の水を出したりという程度。

 そして、魔力切れで倒れてしまう危険性があるから、簡単には使ったりしないみたいだ。

 魔物の討伐などを生業にしている冒険者なんかは別としても、「身近で便利」ってわけにはいかないのが現実だ。


 だからか道路が舗装されていなかったり、物が十分に流通していなかったりと、不便なことも多いな。

 ア〇ゾンみたいなサービスを開発したら当たりそうだ。

 いや、便利すぎて色んな混乱を招きそうだし手を出すのは止めておこう。


 だけれどその分、現代社会の複雑さや不健康さは皆無。

 むしろ空気は旨いし水は綺麗だし最高に居心地がいい。


 そして何よりも、俺を必要としてくれている仲間がいる。


 それだけで頑張れちゃう。

 俺はつくづく馬鹿でお人好しだ。

 だけどそれでいいんだ。




 さて話は戻るが、

 この世界の国家には特別にお抱えの魔術師みたいな存在がいるみたいだ。


 その理由はいくつかあるが、もっとも大きな理由の一つとして挙げられるのが「武力」としての運用。

 かつてあった魔族と人族の争いのような大規模な戦争こそ最近は無いらしいが、近隣諸国との利権争いなどの大小様々ないざこざは絶えないのが現実である。

 それらを牽制するのが、お抱えの魔術師たち『国家魔術師』である。

 他にも教育、インフラの整備など活躍の場は多岐にわたる。

 優秀な国家魔術師を抱えることが独立国家の一つのステータスだと言えるほどだ。



 そうだ。

『グレイシード』がオルテジアン専属の国家魔術師なのだというのだ。



「ここまで来たのはまあ良いとして、これからどうすれば俺たちはグレイシードに会えるんだ?」

「そうですね。いくつか方法はあります。」

 芳田は左人差し指を一つ立てた。

「まず一つ、暴れる。」

「暴れる?」

「オルテジアンに入国したのであとは簡単。全員で思いっきり暴れればいつか絶対現れます。」

「確かに手っ取り早いんだけどよ、グレイシード本人が必ずしも現れるとは言えないだろ?」

「別の強い人が来ちゃうかもですね」

 昼食後で眠たそうなミキが言う。

「みんなやっつければいいんですよ。」

「おい、お前そんな過激なやつだったか? 俺は嫌だね。関係の無い奴とは戦いたくはない。」

「ミキもヤダ。てか取り合えず寝たいです。」

「・・・・・・」


 芳田は人差し指の次に中指を立てた。

「なるべく混乱を避けたいのであれば、潜入です。」

 そう言うと芳田は一枚の紙切れを広げた。折り目のついたそれにはこう書かれている。



 _____求ム! 国家魔術師

 この国の為に働いてみませんか?

 未経験でも高収入。実力が認められれば爵位も夢じゃない!



「・・・・・・」


 めちゃくちゃ怪しい。


 てか経済大国のくせにコピーライティングがショボすぎるな。


「奴がこの国家のお抱え魔術師だとしたならば恐らくは相当な地位に居るはず。外部の者が簡単に謁見できるとは思えません。なので前提として、僕たち三人が国家魔術士試験に合格しなければならないというわけです。」

「確かにこれが一番の近道かも知れねえな。」

「近付いて油断してる間にドンですね!」

「有り体に言えば、会えればOKてことです。」

「会うまでが試練ってわけだな。」

「そういうことですね」


 採用試験は三日後。


 俺たちは魔族であると言うことを隠しつつ試験に臨むこととなった。


 試験内容は二つ。


 一次試験は実技。ようは戦闘だ。ルールは単純明快。

 一対一の逆トーナメント戦。武器や魔法の使用は全面的に認められているが、相手を死に至らしめた時点で負け。

 一度でも勝利すれば一次試験合格となる。

 負けた場合も次の試合で勝利すればいいわけだ。


 戦闘に関しては俺たち三人に問題はないだろう。

 芳田とミキは遊びで加盟した冒険者ギルドでSランクの評価をされている。

 もちろん偽名を使い、芳田は女剣士、ミキはじいさん魔術師の変装をしてだ。


 変装の必要性はさておき、ここでの名割れ顔割れは避けておきたいところだ。


 一次試験は突破できたとして、問題なのは二次試験が「未公開」だということだ。

 これが筆記試験だったらどうしよう。俺とミキは絶望的だろう。

「花のJKになに言ってるんですか!」

 どこから来てるんだその自信は。日本の高校に通ってても何の役にも立たないんだよ!


 まあ、その時は魔法でカンニングだ!

 芳田の『心眼』で受験生の脳内覗き放題だぜ!

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