第41話 一次試験開幕!
______試験当日。
俺たちは、ここオルテジアン国立公園に居た。
俺たち以外にも沢山の受験者が居る。
見るからに魔術士って連中から、どう見ても肉弾戦向きの体格をしている輩、ロリッ娘や子供くらいの見た目の奴らもちらほら。魔族も何人か居たが、俺たちの姿を見た途端諦めの表情と共に去っていった。
哀れ、我が国民よ・・・・・・てかこいつらオルテジアンの魔術師になってどうするんだよ。ま、そこらへんは自由にさせてあげたいところなんだが。去る者は追わず来るものは拒まない。俺の性格上無理な強要はしたくないんでね・・・・・・。
しっかしほんとにすごい人だかりだ。
お祭りでもあってんのかと疑うくらい。
オルテジアンの市民からしたらお祭りみたいなもんなんだろう。あちらこちらに露店が構え、串焼き、砂糖菓子、それから鉄板焼き?などなど日本の夏祭りの様だな。
ビール(日本のとは少し違って濁っていて甘い)も売ってるから観戦しながら楽しめる。
そう、今日の一次試験は戦闘だ。
トーナメント形式で一戦勝利すればOK。
この国のレベルに合わせて少し魔力を制御するように。そう芳田からは釘を刺されている。
そんな事しなくてもいいのに。
俺はそれほど自分が強いという認識はない。
それに魔王軍の幹部連中と訓練で手合わせした時も、あいつらはそこそこ強かった。
『鉄壁のグランドラード』師匠はとにかく屈強そのもので、何度魔法をぶつけても魔力を込めた打撃を放っても柔らかい毛布のように吸収し、一度も表情を歪ませることはなかった。
グランドラードの攻撃も単純ではあったが破壊力は抜群で、普通の人間(魔族)ならば一撃で即死だろう。文字通りの化け物だ。
計り知れない体力値を持ち、こいつを倒すことなんて無理だろ!そう本気で思った。
何度もヒットさせた攻撃のダメージが少ないことに苛立ちを感じた俺は、「この一撃で決めてやる」と言って最大限の魔力を右腕に込めた。
周囲の観戦者はみな戦慄したらしい。
その時、グランドラードは降参していた。
後に聞いた話だが、俺から殴られ続けてずっと痛くて死にそうだった。最後の一撃で殺されるかと思った。と泣きそうな顔で漏らしていたらしい。
なんかごめんよ・・・・・・。
きっと真面目なあいつのことだ、俺の訓練のためにずっと恐怖と痛みに耐えていたんだろう。俺は上司失格だった。会社員時代に俺は一体何を学んできたのだろうか。
俺は恥ずかしくなった。
改めよう。俺はいい魔王になるぞ!
次に強かったのは『黄昏のサイエン』だ。
あの怪しい見た目に反して奴の戦いはさわやかだった。
というのもサイエンは風の魔神の加護を受けている。繰り出される攻撃はまさに「疾風」そのもの。素早さで言えば恐らく魔族一。
攻撃力こそは軽いものの、その俊敏さに翻弄され気が付いた時にはあたりに乱気流が発生していた。
それらはお互いにぶつかり合い至る所から斬撃のような疾風が飛び交った。
竜巻の壁に包まれた瞬間、光すら届かない空間が出来上がる。
そこからは外の音も声も温度も何もかも遮断される。
あるのは真っ暗な空間。
まるで精神の牢獄に囚われたような。
一つ牢獄と違うのは、全周から切りつけられるということ。ここはサイエンの手の中なのだ。
『
そう聞こえた時の魔力の膨張にはさすがの俺もまずいと感じた。
俺はまずこの風の壁を払おうと自分の魔力を体から爆発させた。
あっけなく風の壁は取っ払われた。
風が引いた跡には、目をアニメさながらにぐるぐると回したサイエンが倒れていた。
これも後で聞いた話だが、失礼の無いように全力で風の壁を作ったあと、張り切りすぎたサイエンは段々と自分の魔力が切れていくのを感じていた。最後の大技を放とうとした瞬間に、爆発的な魔王様の魔力に圧倒され失神してしまったのだとか・・・・・・。
こいつも意外とメンタル弱いんだな・・・・・・。
何だか親近感をおぼえる。
だが使い方によってはサイエンの力は驚異的だろう。
対象を風の壁に封じ込めてしまえば中からの攻撃はかき消されてしまうだろう。
それに壁の中から外の様子が分からないのは恐怖だと言える。
音も温度も光さえも遮断される空間は閉じ込められるのは、けっして楽しいものじゃなかった。
こうして部下の能力を把握することも大切だ。
リスクヘッジだと言えるだろう。
これらの幹部連中と戦ってきて気付いたことがあった。
それは自分の能力についてだ。
俺に、芳田の『心眼』や、ミキの『エナジードレイン』のような特殊な能力は無い。(ユニークスキルというらしいが)
だが一つだけ、みんなと、いや誰とも違う能力があった。
その名は『
これは俺の切り札だと言える能力だ。
恐らくこの能力の発端は先代魔王の性格に起因するところが大きい。
側近だったバズじいさんが教えてくれた。
魔王アルスは胃痛持ちだったとさ。
「アルス・・・・・・。あんたも苦労したんだな」
「井上さんっ! もうエントリー始まっちゃうよ!」
最近のミキときたら敬語すら使わなくなった。
こいつが俺のお世話係だってことはもはや誰も覚えちゃいない。
「いつかメイド服着させてやるからな!」
想像すると悪くない。いやむしろいい。
そのあとスイリエッタのメイド姿も想像した。
あいつなら喜んで着てくれそうだ。
「ダ、ダイ様・・・。恥ずかしいですわ・・・・・・」
うむ悪くないぞ。
帰るのが楽しみだ。
「井上さん・・・・・・。またいやらしいこと考えていますね・・・・・・」
「え! またミキでエッチなことを考えてたんですか!?」
「か、考えてねえよ!!(汗)」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
国立公園の中央には闘技場が作られていた。
石畳の闘技場の周りには円状に客席がある。
ざっと見積もっても10000人以上の観客が観戦できるよう、階段状に形作られていた。
その闘技場の正面に位置する観客席の上には貴族の特別観覧席があった。
そこから戦いの様子がよく見ることができ、なおかつ魔法兵に警護された安全地帯となっているようだ。
観客席に座りきれないほどの数の観戦者。
至る所で売り子が飲み物を捌いている。
今日だけは、堅苦しいこの国の雰囲気を忘れているかのように、市民は皆一様に騒ぎ楽しんでいるように見えた。
まさにお祭り騒ぎといったところだ。
俺もミキも何だか落ち着かず、芳田の目を盗んでは露店で食べ物を買って食べた。
ミキに至っては、この後に控えている戦闘のことなど忘れている様子で、存分にお祭りを楽しんでいる。
やっぱりJKだからな。楽しんでくれ。
だけど怪しい男には付いていくなよ!
ミキは何度もナンパされていた。
『静まりたまえ!!!』
魔力拡声装置の大音量が会場に響き渡った。
オルテジアン軍参謀長オルテガだ。
オルテガは人々を静まらせたあと、装置から身を引いた。
そして、特別観覧席の中央にある玉座から老人が一人立ち上がり、聴衆の面前に姿を現した。
オルテジアンの現国王である。
聴衆は静まり返っている。
『ゴホン。・・・・・・我がオルテジアンの市民よ。
新たな力を得る時だ。存分に楽しめ。すべては国家の為! ここに開幕を宣言する!』
口下手か。実に短いスピーチだった。
いや、スカートとスピーチは短い方がいい。
俺も見習おう。
聴衆は大歓声で迎えた。
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