第38話 王都シベル
「さあ、出発だ」
サガンが高らかに宣言した。
暫くの間滞在した『シベリアリスの町』を離れ、私たち五人は王都を目指す。
準備万端。
これほどに充実した出発は今まで一度もなかった。
私たちはそれぞれ十分以上の装具を身に着けた。
これも冒険者ギルドのおかげだ。
初めは様子見でCランクの依頼をこなしてきたが、タオの戦闘力の成長が著しく、私たちのメインの依頼はBランクの討伐になった。
『デススコーピオン狩り』は特に報酬が高く、しかも討伐経験済みだったので攻略法も手の内。
まさに金の生る蠍だった。
初めこそ体液でドロドロにされていたハズレ役のサガンも、要領を得て急所突きの一撃必殺で討伐した。
その場に居合わせた旅の商人は、サガンを命の恩人だと称えて町中を歩いた。
そこで付いた異名が『デススコーピオンキラー』。
『頭痛が痛い』ような何とも絶妙な異名だった。
「どうでもいい」
そう吐き捨てたサガンだったが、胸当てにはその異名が彫られていた。
どうやら嬉しかったようだ。
Bランクの依頼で一番報酬が高かったのが『サンダーキャットの捕獲』である。
『サンダーキャット』は、その愛らしいルックスから貴族の中で絶大の人気を誇った。
頬の電気袋から高威力のライトニングを放ち、動きは肉眼で追えないほどに素早い。
広範囲の攻撃魔法で挑めばすぐに死んでしまうほど脆弱なため、通常ならば捕獲に大変な労力が必要だった。
通常ならばだ。
私たちは頭脳戦に切り替えた。
まずは目撃情報のあった巣の近くに張り込んだ。
星は時折姿を見せたが素早いうえに警戒心が旺盛。
そこで登場したのがタオの召喚獣『サンダーキャット』のチュウチュウである。
何とタオは『サンダーキャット』をも召喚することができたのだ。
チュウチュウが『サンダーキャット』の警戒心を解く。
それからあとは簡単だった。
私の「
リールの「
こんな荒れ果てた地で暮らすよりは、貴族の御屋敷で可愛がられて欲しいものだ。
そして、なんとタオにも異名が付いていた。
その名も『サンダーキャットマスター』
数々のサンダーキャットをゲットした称号だとか・・・・・・。
そんなこんなで私たちのお財布は十分な潤いを享受したわけだ。
『シベル共和国王都』までは歩いて3日程。
リンファちゃんに乗っていけば1日で到着しちゃうんだろうけど、みんなを一度に乗せるのは無理だし、あ、飛べるのは秘密だったんだ。
道中は野宿を余儀なくされた。
快適な宿屋のベッドでの生活に甘え切っていた私たちは、久しぶりに味わう土の匂いや冷たさに神経をすり減らしていった。
本日の行程は順調に進み、今夜は偶然見つけた洞窟で休むことにした。
食事当番は私とリール。
本日の献立は「ホーリートードのスパイス煮込み」と「キラートレントのサラダ」だ。
さっき倒したホーリートードは血抜きした後、皮を剥いでぶつ切りにしする。
モモ肉以外は細かい骨が多く食べ辛いので、その辺の野犬にあげる。
塩と胡椒で下味をつけておく。
この際、モモ肉はスジに切り目を入れておくと食感がよくなる。
スパイスはシベリアリスの町で調達した渡来品。
熱した深めのフライパンに油とニンニク、玉ねぎを入れ色が付くまで炒める。
ホーリートードに焼き色がつくまでしっかり火を通し、四種類のスパイスと熟したトマトを入れ蓋をして暫く煮込む。
ちょっと味見。
「・・・・・・うん! 美味しい!」
「もう旨いで! 完成品が恐ろしいな!」
煮込んでいる間に、キラートレントの皮を剥ぎ芯の柔らかい部分を斜めにスライス。
この時期のキラートレントは葉が柔らかくそのままでもいける。
オリーブオイルと塩、少量のはちみつを掛ければサラダの出来上がり。
そうこうしてる間に、煮込んでいたホーリートードもいい塩梅になっていた。
トマトの水分で無水のスパイス煮込みの出来上がり!
最後に塩で味を調整して・・・・・・完璧ね!
荷物で簡易的なテーブルを作るとそこにシートを敷く。
皆のお皿に適量を取り分けて・・・・・・
「いただきます!!」
「ねーちゃん!カエル旨いぞ!」
「もー、カエルって言わないでよー」
「キラートレント食べたことある奴なんて聞いたことないで~」
「意外と食えるな。食感がいい。」
「サガン。その言い方なんかちょっとむかつくー」
「す、すまん。気を付ける」
「我の固いパンはどこじゃ~!」
笑い声と共に夜は更けていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
荒野を歩き続けた聖女ホノカ御一行はついに北の大国『シベル共和国』の中枢、『王都シベル』に到着した。
そびえ立つ高い城壁、そこからは無数の砲が顔を出し、城壁の周辺には堀がある。
堀の水はとても澄んでいて小魚が確認できる。
トラド山脈からの雪解け水がこの国を豊かにしているようだ。
シベルにはタオの祖父リリアスさんの友人である『大賢者アイリッシュ』が居るという。
大賢者様は大変変わった人物だそうだけれど・・・・・・。
衛門をくぐり王都に入った。
まずは宿屋探しね。
物価もよく分からないから慎重に。
私たちは町の冒険者ギルドで情報収集をすることにした。
驚くほどに立派な建物だった。
歴史的な建築様式で作られた由緒正しき建造物。
神話の登場人物を模したモニュメントが荘厳さを表現している。
重々しい扉を押して入ってみると、広く上質な空間があった。
都会的で小奇麗な佇まいの冒険者達が一斉にこちらに注目している。
対して私たちの服装ときたら防寒用のくたびれた装い。
臭わないかな・・・・・・。
私は鼻をきかせてみた。
さながら田舎の冒険者といった様子だ。
冒険者だけでなく、受付の女性たちも洗練されている。
お揃いの制服を身に纏い、統制されているかのような薄化粧。
その制服のスカートは短く胸元は大きく開いている。
まるで何者かの趣味を体現したかのようだった。
そんな受付嬢に見惚れていたリールの肩に、1人の男の手が掛けられた。
その男の顔に見覚えはない。
しかし、私たちはその男の放つ只ならぬ迫力に足を止めざるを得なかった。
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