第31話 デススコーピオン
「ねーちゃん。 まだ着かないのかよ~。 オイラもう歩けない~」
深い森を抜け約一月が経った。
私たち4人はシベル共和国へ向けひたすら歩を進めている。
新しく仲間になったエルフの少年タオはとっても甘えん坊だけれど、低級な召喚獣を使役できるほどに成長していた。
「ヘルハウンド!!」
小枝を拾って地面に描いた魔法陣に、魔力を込めたその瞬間、黒いオオカミが飛び出してきた。
「な、なんやねん!! びっくりすんなー!」
「リールは乗せてやんないもんね~」
「ええわ! そないな乗りもん気持ち悪ーてかなわんわ」
タオは召喚したヘルハウンドに、ヘルッチというあだ名をつけてすっかり仲良くなったみたい。
そうしてヘルッチの背中に乗ってるから、すぐに遠くに行っちゃう。
「こらー! あんまり先に行っちゃダメよー!」
何度言っても聞かない。
でも、元気を取り戻してくれて本当に良かった。
リリアス師匠と約束した通り、私たちが面倒を見てあげなきゃね。
そんなことを思っているとサガンの視線に気が付いた。
「ホノカ、なんだか変わったな」
「え? どういう意味?」
「すっかりお姉ちゃんだ」
サガンも変わった。
すっかりタオのお兄ちゃんになったみたい。
あの『ヨルムンガンド』との戦闘後、私は意識を失っていた。
その間、私は記憶を少し取り戻したようだ。
思い出せたのは、私が『転生者』だっていう事。そして『聖女』だと呼ばれる存在だってこと。
それ以外の記憶はいまだに靄がかかって晴れないでいる。
私が前世で何をしていて何を見たのか、どうやって死んで転生されたのか。
そのことについて思い出せるのは、天使のような女の子の姿。悲しそうな表情。
それにもっと分からないのは『聖女』の意味。
リールはこう言った。
「聖女っちゅうのは、神聖な力を持った乙女のの事や。
勇者みたいなもんで、歴史上でもたびたび世界が危険に晒されたときに現れるっちゅう存在のことやで。
なんせ”神聖”やからな~。えらいべっぴんさんなんやろうな~。会ってみたいで~。」
自分がその『聖女』だなんて言い出しにくくなってしまった。
「ホノカ。 もしかしてホノカは聖女なんじゃないのか。 回復魔法が得意。 それに美人だ」
真顔で言うサガンに面食らってしまう。
「ちょ、ちょっと......そんなハズないじゃない」
「あれー? 美人や言われて照れとるんかいなホノカ~」
「うるさいわね」
ロッドでリールの頭を小突く。
「痛っ! やっぱ違うで聖女やあらへん」
そんなことをしているとサガンが指を口に当て制止した。
「しっ! 何か聞こえる。」
耳を凝らした私たちは、遠くで響く何かの音に気が付いた。
・・・・・・・・・・・・・・・ドドドドドドドドドド
音が大きくなるにつれて地面がかすかに揺れ始めた。
「...............たすけてーーーー!」
私たち3人は顔を見合わせる。
「え?」
「タオ!?」
地響きと共に砂煙が舞って押し寄せてきた!!
と、その先頭に走っているのはヘルッチに乗ったタオの姿が!!
「追いかけられてるの!!?」
タオの後ろを走っているのは巨大なサソリの魔物『デススコーピオン』だった!
泣きべそをかいているタオ、息も切れ切れなヘルッチ。
サガンは槍を構えた。
「迎え撃つぞ!!」
「毒に気いつけや!」
私たちは臨戦態勢をとった。
サガンは体中に風を纏った。
「
サガンは大きく上空に舞った。
続いてリールはサガンに向かって魔法を放つ。
「
二人のレベルは『ヨルムンガンド』との戦いより数段上がっていた。
私も負けていられない。
目を瞑って精霊に祈りを捧げる。
「
タオとヘルッチの体を白い光が包み込み、素早く移動させた。
私の近くに着地したタオとヘルッチは安心して倒れた。
「ねーちゃんありがとー」
「安心するのはまだ早いわ! タオ! 私の後ろに!」
タオは私の背中に抱き付いた。その拍子に胸をちゃっかり触っている。
タオのにやけた顔が浮かんだ。
あとで叱ってあげるわ。
「
私たちの前に、分厚く見えない壁がそびえ立った。
そんな壁を認識できずにいる『デススコーピオン』は激しく衝突した!!
ドゴぉぉぉぉぉぉぉンンン!!!!
あまりの衝撃に大気が揺れた。
見えない壁にぶつかった『デススコーピオン』は大ダメージを受けて混乱している。
「サガン! 今よ!!」
「ああ!!」
頭上から真っ逆さまに、頭部をサガンの攻撃が貫いた!
暫くうごめいた後、デススコーピオンは動かなくなった。
「いきなり心臓に悪いで~」
「タオ! あなた危なかったわよ!」
「オイラちびっちゃった」
私は『デススコーピオン』の巨体によじ登り、大きく開いた穴から中も覗いて言った。
「サガーン! 大丈夫?」
サガンはサソリの体内から這いつくばって出てきた。
どろどろの体液を身に纏って......。
「
精霊の力を借りた私の水魔法でサガンの体えを洗ってあげる。
「俺の負担、でかくないか?」
「......」
なにも言わない私たち。
わざとらしくリールは口笛を吹いていた。
いつもごめんね......。ははは。
水浴びを終えたサガンは手に何かを持っていた。
「......サソリの体内で偶然見つけたんだ」
それは赤い革製の鞄だった。
中には何も入っていない。
「襲われた人の遺留品かもしれないわね......
町まで持っていきましょう」
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