第28話 新入生ガルボの恋 終わりの始まり

 この世界には様々な種族が住んでいる。


 力は弱いが手先が器用で知能の比較的高い人族。


 森の精霊との深い関わりにより高い魔力を持つ耳長族。


 動物の能力を受け継いで進化した獣人たち。


 沢山の部族があり見た目も様々、特殊な能力を持つものも多い魔族など、簡単には区別できないほどだ。


 魔物と呼ばれるものの中にも多様な種族が存在する。



 その中でも最も強力だとされているのがドラゴン族である。


 主に爬虫類の見た目に大きな翼が生え炎を吐くものが多く、古来より人々は『空の覇者』と呼んで恐れていた。


 しかしその個体は極端に少なく、人族の土地はおろか魔大陸にも一部の地域を除いては生息していないらしい。



 そんな幻の生物が今目の前に現れた。



 ドラゴン族の中でも上位種であるレッドドラゴン。


 火炎を纏ったSランクの魔物である。


 

突然の出現にガルボ達三人は驚愕し立ちすくんだ。


 ”ドラゴン”それは召喚術の難易度で見ても最高位の召喚獣。


 召喚には多大な魔力と精度の高い魔法陣の生成、それから多大な供物の提供を余儀なくされる。



 召喚術専攻のテレサとアスカにはその驚異的な難易度の高さが理解できているようだった。


 召喚術の主任教官でさえドラゴンの召喚には二の足を踏む。


 そんな召喚魔法を難なくこなすこの人物はいったい何者なのか。


 少なくとも僕たちの想像を超えた存在だという事に間違いはない。



 ドラゴンは大きく飛び上がる。その躍動は大きな風圧と轟音をも生んだ。


 はるか上空に立ち上るとため息のように軽く一度炎を吹かして見せた。


 圧倒的な存在感。


 恐怖を超えた先の崇高さ。


 美しさとも表現できる筋肉のひしめき。




 この生物には



 だが、負けると分かっていても戦うのが軍人である。


 そう教え込まれてきた。


 戦場において重要なのは個の勝利ではなく全体を勝利に導くこと。



 レッドドラゴンは首を垂直に曲げおろし、急降下を始めた。


 恐るべき速さに現実感が遠のいていく。



 テレサたち二人は怯えることしかできない。



 僕の命よりも大切なのは二人が無事であること。



『心 眼 開 放』



 ガルボは己の魔力を爆発させた。


 一生に一度。


 命と引き換えに得ることのできる最大限のパワーとスピード。


 武術とはパワーをコントロールする技術。



 ガルボの体をオーラが纏う。


 空気が一瞬にして変わる。



 ガルボは全身の筋肉を活性化させ、一直線に向かっていった!


「ドラゴンじゃない! 後ろで隠れている、お前だ!!」


 最高速でフードの男の顔面に、高火力のストレートがヒットした。



 手ごたえあり!!



 予想に反して肉感を感じる右手。


 男の顔面は潰れて背後にのけぞった。


 恐らく即死。


 奴はもう立ち上がれない。




 すぐに振り返りテレサの元へ駆け寄る。


 テレサのおおきな笑顔がガルボの目に映る。


 だがその笑顔は一瞬にして崩れ去った。



「だめ!!」



 テレサが大声で叫んだとき、もうすでに手遅れだった。



 ガルボの視界は左に傾いた。周囲の景色がゆっくりと流れる。


「......あれ?」


 音が小さく? 視界が少しずつ狭く? テレサちゃんの表情が歪んでいく......?



 そんな顔は似合わないよ。ほら笑った方がずっとかわいい。



 左側に傾いた視界は緩やかに回転してゆく?


 あ、わかった......僕の首が......飛んだんだ。



 視界が黒く落ちていった。


 まるでろうそくの火を吹き消したかのように。




 視界が遮断される間際、最後に見えたのは取り乱し泣き叫ぶテレサだった。





 この日、僕は死んでしまったのだ。


 大切な恋人を残して。


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